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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第2章 銀髪の少女と閃光
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第50話 剣牙族と奴隷商 4

 父ファレンから学んだのは、基礎だけだった。


 剣を振る力の伝え方、体の使い方、足の運び方。

 剣を投げることも、体当たりで押し倒すことも、鞘で膝を砕くことも、教わったことなど一度もない。


 父の技、そのものを見るのは、実戦だけだった。

 見た技を自分なりに、試してみる。


 どう使うかは、レンドル自身が戦場で考え、答えを出してきた。

 それを父に話すと、ファレンはただ頷いて、少し微笑みながら聞いていた。


 一度だけ、技を自分に向けられたことがある。父に頼んだのだ。

 もう教えることはないと、基礎を終えた日だ。


 あとは実戦経験を積み上げることだと言われた。

 だから、迷わず最後に突きを見せてほしいと、せがんだ。


 自分に向けられた剣で、本気の父の目を見たのは、あれが最初で最後だった。

 あの日の一撃を今でも覚えている。

 首の横を、薄皮一枚の差で突き抜けた剣に、魂ごと貫かれたと思った。


 黄金騎士はきっと、父のあの目を見てしまい、突きを受けてしまったに違いない。

 そうでなければ、足が勝手に下がることなどなかっただろう。


「あそこが本部だ」


 護衛騎士が指さした場所を見ると、すぐ分かった。


 レンドルが本部に呼ばれた理由は、護衛騎士からは聞いていない。

 聞かなくても、黄金騎士の事だと分かったからだ。

 それ以外にもあるかもしれないが、ルベリアの英雄を倒したのだ。何もないはずがない。


 ただ、奴隷商のことが、頭から離れないでいた。

 思い出した奴隷商の討伐の記憶。

 ジュカの話と合わさって、ぐるぐると巡っていた。


 あの時、薄暗い牢屋に閉じ込められていた人たちから、思わず目を逸らしてしまった。

 今にも消えそうな、蝋燭(ろうそく)の僅かな(ともしび)が、部屋をぼんやりと照らしていた。


 壁に鎖でつながれたままの黒い首輪。

 繋がれた人たちは、首を斬られ、命を奪われていた。

 望まぬ姿になり果てていた。


 時間が経ったせいか、どろりと流れた血の塊が、石の床に溜まっていた。

 光を映すことのないその眼は、蝋燭の灯さえ、見ることすら出来ない。


 彼らの見開かれた虚ろな眼は、ただ暗闇を見つめていた。

 憎悪と悲しみを宿した眼のまま。

 口封じに殺されたとしか思えなかった。


 無残にも鎖につながれたまま、命だけが世界から断たれた。


 ――あれは、ジュカと同じ首輪なのか。


 そういえば、牢屋ではない場所――残党の制圧のため屋敷に戻ると、奴隷商の部屋には、生き残りの女性が一人いた。

 透けるような薄絹の服だった。奴隷商の慰み者にされたと、彼女は泣いていた。


 鎖はあっただろうか。

 首輪はなかったように思う。

 あの人は、どうなったのだろう。


 ――あ、黒子があった。左肩だ。


 レンドルの頭に、レレイラの左肩が一瞬よぎる。

 まさか捕まっていたのは彼女だったのか。


 断片的なものが曖昧に頭に浮かぶ。

 レンドルは、自分の記憶が確かなものか自信が持てなかった。


 保護された後、そのまま皇国で治癒士になったとは考えにくい。

 適性と長い訓練が必要なはずだ。そんなすぐになれるわけがない。

 だから、治癒士だった彼女が捕まっていたのだろう。


 でも、そんなことをレレイラに聞けるはずもない。聞いていいはずがない。

 無事に生きている。それだけでいいはずだ。


 レンドルは、横を歩く護衛騎士に一瞬目を向けるが、そのまま空を見上げた。


 少し雲が多く見えた。山も近いし、雨が降るかもしれない。

 気の晴れないレンドルの心が、そのまま空に映し出されているようだった。


 思ったほど時間は経っていなかった。それでも山の稜線と太陽が近づいていた。

 数刻もすれば、夕暮れの気配が辺りに漂い始めるだろう。


 破壊した要塞の正門から、吹き込む風を受け髪が揺れた。

 最初は涼やかと思ったが、川に触れた空気にしては冷たかった。


 本部の天幕に着くと、二人の護衛騎士は、外で待っていると言って離れた。


 入り口の衛兵が天幕の中に声をかける。


「グリフォート騎士団長、レンドルが来ました」


 その瞬間、どさりと大きな音が聞こえた。


「団長!!」


 中から、大きな叫び声が上がった。


 衛兵が慌てて中に入る。続いてレンドルも。

 何人かの騎士が、騎士団長を支えていた。

 血が石畳にあった。


 グリフォートの口からは血が流れて、首元の服を赤く染めている。


 赤黒い、どろりとしたものが、首を切られた奴隷と重なった。


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