第47話 剣牙族と奴隷商 1
護衛騎士が言った奴隷商人のことを、レンドルは思い出した。
「奴隷商人のジーフ?」
「そうだ、そいつだ」
数年前に、父とともに、奴隷商の討伐に行った。
「その中にいた凄腕の戦士を、レンドルも見ただろ」
「はい。何人も殺されていた」
「その戦士が、剣牙族だった」
「あいつがッ!」
サンガード皇国とウィンダス領の境には、緩衝地帯がある。
どちらの支配権も主張しない中立の土地だ。
だからこそ、どちらか一方の兵が通達なしで常駐すれば、それは火種になりかねない。
そこには、村や小さな町もある。どちらの法の及ばない、治安もあってないようなところだ。
荒くれ者や他国からの流れ者。傷持ちも多く、そこで生活をしている。
だが、確かな営みはある。
鍛冶屋も裁縫屋も酒場も宿屋も。
ギルドもあり、情報の流通もある。
様々な理由で人々はそこで生きている。
魔物に覆われる恐怖も身近だ。
だから腕に自信のあるものは、役割を持ち、町を守り、魔物とも戦う。
命を張るのだ。それに見合う報酬を得るため、冒険者ギルドも出来た。
父の知り合いが教えてくれた。現地の冒険者だった。
それでも、盗みも殺しも、ないわけじゃない。
ギルドの目の届かないところでは、暗黙のルールだけが彼らを縛っていた。
生きていくために、寄り添い合っていた。
残念なことに、胸の悪くなるような悪党は、そういったところに巣くう。
領をまたぐ犯罪者の集まりを制圧するため、皇国はそこを清掃すると決めた。
サンガード皇国憲兵隊主導の元、皇国領とウィンダス領の冒険者たちが集った。
「あの時、俺は憲兵隊だった。違法な商売を繰り返している奴隷商の本拠地を突き止めたんだが」
護衛騎士がヘルムのバイザーを押し上げた。
「凄腕の戦士がいると、知り合いの商人から情報があった」
隠れていた素顔があらわになった。
「だから、協力を求めてブレイズ家に行った」
雨の中、家に憲兵隊が来たのを覚えている。
そういえば、この顔を覚えていた。
「あなたは、家に来た憲兵だ」
ヘルムで籠った声のせいじゃない。顔を見るまでは思い出せなかった。
「覚えていてくれたようだな。俺はダロムだ」
ダロムが、後ろを振り向いた。レンドルも振り向くと、もう一人の護衛騎士は周囲を警戒している。
「後ろの護衛はザッサだ。無口な奴だが、頼りになる」
レンドルよりも体の大きい騎士だ。救護所の入り口に立っていた、もう一人の護衛の騎士。
ダロムから、力を貸してほしい、と。それだけ聞いて、父はすぐに身支度を始めた。
妹と一緒に、父の準備を手伝っていると、父から、剣を持てと声をかけられた。
また私一人で残るのねと、フィーネが呟いていたのを、父はたしなめていた。
レンドルから見ても妹のフィーネは剣の才能があった。
それだけじゃない。物覚えが圧倒的に早かった。妹は一度聴いたことは忘れない。言われたことを直ぐできる。
でも、妹は剣を嫌がった。理由は分からない。
それでも、たまに父と妹は剣を一緒に振っていた。その時は嬉しそうにしていた。
「ファレンが赤髪の少年を連れてきたときは、俺も周りも驚いた」
彼の声には、笑いが滲んでいた。
この騎士は、父の剣を知っているからこそ、助太刀を頼みに来た。
「東から流れてきた獣人族の冒険者が、その戦士を知ってたんだ」
剣牙族もまた、獣人族だった。
獣人族と聞くと、タタやジュカの顔が浮かぶ。
彼らは、見た目も性格も、力の使い方もまるで違う。
いや、人族が勝手に同じ括りにしてるだけで、彼らは個々の独立した種族だ。同じ、じゃない。
「剣牙族のガガット、悪党だとな」
討伐隊は百人を軽く超えていた。それほど大規模な討伐だった。
段々と、あの時の状況や光景が目に浮かんできた。




