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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第2章 銀髪の少女と閃光
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第46話 ジュカとの約束

 護衛騎士が見かねたように、助け舟を出した。


「悪いが、治療が終わったのなら、レンドルは本部へ行くことになっている」


 レンドルは頷き、向かう準備を始めた。


 それが、この場から、逃げる口実だと自分でも分かっていた。


 サナロアの時と似ている。城壁通路で彼女が吐露したときも狼狽えた。


 ただ、短い時間とはいえ、彼女とは戦場を駆けた。背中を預けた。

 何とか言葉を振り絞って、彼女の手を取った。

 彼女の心の空白に、自分がいることは分かった。

 何となく、多分、心が触れた気がした。


 ジュカは違う。


 たった今、会ったばかりだ。治療をしてもらった。その関係だ。

 どうして、彼女は首輪のことを話したのか。どうしてほしかったのか。


 その人との関係性次第で、掛ける言葉は見つかるのかもしれない。


 母が銀狼に殺された。心に痛みはある。だから、人の痛みも分かる。

 でも、分かるだけで、どう話したらいいのか。どう接したらいいのか。どうしたら。


 分からない。剣よりも難しい。答えがある気がしない。試すことすら出来ない。

 ただ、彼女は勇気を出して話してくれたと思った。


 彼女はもう巨人族の亡霊に追われないはずだ。

 他に、何かしてほしい、そういうことなのか。


 胴衣をかぶり、血の乾いた防具を身につけた。

 そして、最後に長剣を腰に収めた。


「ジュカ。行くよ。左腕を治してくれて、ありがとう」


 礼を言うと、彼女は首を振って応えた。


「いいの。だって、傭兵団をイステアを助けてくれたもの」


 そう言って、微笑んだ彼女に目を奪われそうになった。

 彼女の悲しみの中に、喜びがあるようにも見えた。


 ジュカは口を手で覆い、顔を伏せた。


「ありがとう……。わたし、わたし……。あの男に言われたの。みんな……潰してやるって……」


 ジュカの体は小さく震えていた。

 治癒士のレレイラが、ジュカの元に来て背中を優しくさする。


 その姿を見ていると、言葉だけじゃなくてもいいんだと分かる。

 治癒士は、外傷や病気を治すだけじゃない。心の傷にも寄り添える人でなければなれないと思えた。


 血で汚れた白衣を新しい物に変えようとしたのか、レレイラは両肩が見える服のままだった。

 左肩と鎖骨の間に黒子が見えた。白い肌を直視していたことに気が付いたレンドルは、思わず目を逸らした。

 広場でも、レレイラのような服装の女性はいるのに、気恥ずかしくなってしまった。

 この状況で、そんな自分の愚かさに情けなくなった。


 それにしても、やはり巨人族の男は、傭兵団を殺すつもりだった。彼女を脅していた。

 おそらく『言うことを聞かなければ、仲間を潰してやる』そんなところだ。

 レンドル自らの手で存在を消したはずの巨人族の男に、苛立ちを隠せなかった。


 結果的に、彼女も、傭兵団も、サナロアの姉も救うことが出来た。

 しかし、剣牙族のことが残っている。彼女に執着して狙いに来るかもしれない。


 これだ。彼女はまだ、安全でもなんでもない。悪夢は続く。


 この戦争が始まるときに《因果の剣》と号令があった。

 だったらそれは、レンドルにも因果が巡って来るかもしれない。

 剣牙族が、狙いに来るかもしれない。

 ベックを賞金に懸けるくらいだ。


「ジュカ。礼を言うのは俺の方だ。お陰で、また剣を振ることができる。ありがとう……」


 首輪はある。でも、さきほどの微笑みは確かだった。

 彼女が、本当に巨人族の亡霊からは、解放されたものだと信じたかった。


 顔を伏せたままの彼女は、身体を少し前に倒して頷いた。


 彼女がどうして、あんなに話しかけてきたのか、ようやく分かった。

 気丈に振舞っていた。それが今、溢れだしただけだった。


「まって! まだ、あなたに渡していないものがある」


 ジュカは震える体のまま、レンドルを見上げた。


「渡していないもの?」


「あなたの用事がすんだらでいい。また来てほしい。それまでに、準備をしておく」


 護衛騎士に目をやると、小さく頷いた。


「分かった。あとで来るよ。……必ず」


 彼女は勇気を出した。

 銀狼から逃げないと決めたのに、それなのに人の痛みからは逃げようとした。自分に呆れてしまった。

 もう一度ここに来る。その時は話をしよう。そう決めた。


「約束ね」


 ジュカは、潤んだ瞳で笑った。とても自然だった。


 治癒士の二人を横目に、救護所を後にした。


 外はあわただしく、兵士たちが動いている。

 この救護所の外でも怪我人が治療を受けていた。

 彼女たちは、これから多くの患者を診るのだろう。


 受けた感謝の言葉が、今も耳に残る。

 彼女を追う影が、頭にちらつく。

 左腕がざわつくようだった。


 本部へと案内される途中で、横に並ぶ護衛騎士が声をかけてきた。


「レンドル。剣牙族のことだが……奴隷商の討伐のことを、覚えているか?」


 その言葉に、頭が一瞬で覚醒したかのような衝撃を受けた。


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