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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第2章 銀髪の少女と閃光
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第45話 巨人族の亡霊

「デーン王国にいたっていうのは……」


「あたし、デーン王国の貴族に買われたの。病気を治すためにね。女の当主だったわ」


 デーン王国のことは、ほとんど知らない。

 歴史も地理も、好きじゃなかった。

 知らなくても、戦いには関係がないと思っていた。

 だから、おろそかにしていた。


 サンガード皇国にも奴隷はいる。

 ただ、労働契約がほとんどで、期間が過ぎれば解放されるし、賃金も支払われる。

 扱いが酷ければ、契約主側が裁かれる。


 貿易商人の息子、ダーウィが話していたので、何となく覚えていた。


 昔、鎖につながれた人たちが船に乗り込むのを見て、不思議に思ったことがあった。

 フォルロ――幼馴染の船乗りに尋ねると、奴隷は財産だと教えてもらったことがある。

 その時の彼の顔を今でも覚えている。彼の父親は元奴隷だった。


「あたしでも治せなかった。いいえ、死ぬのが遅れるようにしたの」


 レンドルは、彼女が女当主を延命させていたのだと理解した。


「だって、買われたんじゃなくて、貸し出されていたと知ったから」


 貴族に売るより、奴隷を貸しているほうが、金になるということなのか。

 それよりも、貸し出されていたから、延命していたというのは、なぜだ。


「貴族が死ぬと、あたしは巨人族の男の元に戻される。だから時間をかけた」


 そういうことだったのか。治さない理由が明確になった。


「そうしたら、あたしを買った女当主が、事情を聴いてくれた。逃げるための時間をくれた。……娘のようだって」


 レンドルは、彼女が患者に向き合ってきたと思っていたが、それは全く違った。

 死にゆく貴族の話相手をしていたんじゃない。

 お互いが苦しむ中で時を過ごした。だから話をした。言葉を覚えたのだと。


 そして女当主は、彼女の身の上を知ったうえで、逃がそうとした。善意の人だ。サンガードの貴族たちも見習って欲しいくらいだ。

 ジュカにとって、苦しみを理解してくれた、唯一の救いだった。


「女当主に言われたの。自分が亡くなったら、あいつらが連れ戻しに来る。その前に、ルベリアに行きなさいと」


 自分の家族や仲間を殺したやつのもとに、連れ戻される。

 それに素直に従うわけがない。戦うか逃げるかしかない。


 彼女に戦う術があるのだろうか。あの巨人族とまともにやって勝てるわけがない。

 レンドルには、タタとサナロアという頼もしい仲間がいた。


 そもそも奴隷契約は、どちらも許していないのではないか。


「それは命令だから。そういって証文契約をしたの。それで奴隷契約には反しないって」


 女当主は、ジュカに逃げる道を作った。

 長い時間の中で、彼女との関係を作った。


「どうしてルベリアなんだ?」


「剣牙族は、ルベリアで問題を起こしたことがあって、王都には入れないって聞いた」


 何となくわかってきた。巨人族の男しか入れないから、そいつだけが連れ戻しにきた。


 レンドルは視線を落とした。ベックに絡んだのも剣牙族だった。

 どうにも良い印象を持つことができない。


「多分、二年くらいルベリアにいる。ほとんど寝られなかった」


 彼女も、悪夢を見ていた。

 そして、とうとう巨人族の男がルベリアにやってきた。


 あの巨人族は、コルタナ要塞の階段で猛威を振るっていた。

 仲間の兵士は叩き潰されて、階段から落とされた。


 わざわざ戦争に参加したのはなぜだ。巨人族は金が必要だったのだろうか。


 もしかしたら、ジュカが身を寄せる傭兵団を、殺すつもりだったのか。

 戦いの最中、皇国を倒すふりをして、襲うつもりだった。

 誰も文句を言うやつはいないだろう。

 彼女を助けられる戦士もいるはずがない。みんな殺される。


「……それ、外せないのか?」


「だめね。巨人族の男が死んだのに。無理に外そうとすると、契約の神レイナダが許してくれない」


 ジュカは諦めたような顔をしている。


「雷に打たれて死ぬ」


 そうとう強い強制力を持った契約のようだ。

 奴隷契約自体は、剣牙族としたのかもしれない。

 それにしても、奴隷契約の事なんて分かるはずもない。誰に聞けばいいのか。

 冒険者の父なら、何か分かるだろうか。


 レンドルはそれ以上、口が重くて開けそうになかった。

 ジュカにかける言葉を、見つけられなかった。


 剣に多くの時を重ねて、今がある。

 でも、こんなときは、どうすればいいのか。

 父は教えてくれなかった。


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