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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第1章 赤髪の剣士と英雄
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第39話 ルベリア王国遠征 ―― 畏怖の剣士が残したもの

「え、なに……狼……」


 サナロアは意識が朦朧としているように見えた。

 レンドルの言葉の意味が分からなかった。それもそのはずだった。

 銀狼のことは、母が殺されたこと以外、詳しく話していない。


 レンドルは、黄金騎士に向かって、また歩き出した。

 全身に巡る怒りが、サナロアたちを傷つけた大男に向けられていた。

 流れる魔力が、これまでと違って熱を帯びていた。


 黄金騎士が、巨人族を倒した騎士を探していた。レンドルを指名してきた。

 だから、一騎打ちをするつもりだと思った。

 そう思ったからこそ、前に出た。


 だが、不意打ちで槍を投げてきた。

 侮蔑の言葉をぶつけてきた。

 黄金騎士は降伏した敵を許さないらしい。


 レンドルは鞘に手を当て、足を止めた。


 一瞬、誰も声を出さなかった。


「まさか、ブレイズ……似ているな」


 エリクの口の端が、ゆっくりと持ち上がった。


「お前はファレンの息子か!」


 大きな声だった。驚愕と、どこか懐かしむような色が混じっていた。


「忘れもせんぞ! 俺の鎧に、体に穴をあけてくれた男の息子に会えるとは!」


 エリクは笑った。戦場で、豪快に笑った。

 黄金騎士の体が、黄金と銀色に一瞬輝き放たれた。魔力の質が今まであった相手と違った。

 レンドルには分かった。目の前の男が持つ魔力の量はレンドルの比じゃなかった。


「戦場から消えたからな、あの臆病者は……。火の神フレイダよ感謝するぞ!」


 ルベリアの兵たちの間に、どよめきが走った。


「レンドル・ブレイズ……?」


一殺(いっさつ)のファレンの、息子だと」


 彼らは、父親のことを知っているような口ぶりで、騒めいた。

 レンドルは、すぐには飲み込めなかった。

 その様子に、エリクは呆れたように首を振った。


「ある時、戦場に轟いた畏怖の剣士の名よ」


 そう言って、自分の首を指した。


「あの男の前では誰しもが風穴を空けて死んだ。生き残ったのは、俺と狼くらいなものか」


 父の突きは首を刺して奥の骨を砕き、相手の命を終わらせる。

 そういう戦いを、賞金首相手、人型の魔物相手に何度も見てきた。

 この男を父は仕留めそこなっていた、そういうことだった。


「お前がファレンの息子ならば、俺に開けた穴の礼を返さねばな」


 父にできなかったことを息子に還す。そういうつもりなのか。

 それとも、俺を殺すことで、父に借りを還そうというのか。

 声の響きだけでは分からなかった。だが、どちらにしても、どうでもよかった。

 この戦いから、生きて帰らなければならない。


「赤髪。名誉をやろう。一騎打ち――」


 言い終える前にレンドルは長剣を素早く抜いた。


「な! 抜いただと!? おい貴様、名誉の一騎打ちにしてやろうというのだ」


 レンドルは切っ先を黄金騎士に向けた。


「英雄譚の黄金騎士は幻だった。ただの下劣な卑怯者だった。名誉などない」


 エリクの表情が歪み、深い皺が刻まれる。

 今にも飛びかかりそうなほど、濁った眼には怒気が溢れていた。


「父の殺し損ないのお前を、片づけるだけだ」


 大男が、全身を震わせていた。

 流麗な動作で大槍を構え、穂先を天に向ける。


 二人の間に、峻烈な静寂が降りる。


「……さっき俺を狼と言ったな」


 エリクが何か思い出したように、言葉を発した。

 レンドルの眼が細く鋭くなる。


「そうだ。お前の父親は、銀狼に自分の女を殺されていたな。……くっくっく。ぐぁあッはっはっはー!」


 レンドルの魔力は銀色と僅かに赤みを帯びている。

 それが、じわりと滲んで濃くなっていく。


「なぜ、知っているかという顔だな」


 この赤く滲み沸くものが、何なのか分からない。

 ただ意識してないと、だんだんと自分が燃え尽きてしまいそうに思えた。


「どの国でも諜報活動はあるのだ。俺に穴を開けた男のことも、当然俺の耳に入る」


 この男が話すたびに、心臓が大きく跳ねる。


「赤髪は、俺を狼に重ねた。そういうことならば――」


 エリクの口角が大きく上がり、醜悪な様相となる。

 黄金騎士が槍を構え直した。

 そして、地鳴りかと思うほど大きく踏み込み、レンドルに向かって突撃してきた。


「その女を殺す狼になってやろう!」


 その一言で、何かが決壊した。レンドルの体が一瞬で紅く染まった。


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