表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第1章 赤髪の剣士と英雄
40/91

第37話 ルベリア王国遠征 ―― 黄金の蛇が狙うもの

 レンドルたちは、ルベリア兵と衝突している戦列から、少し離れたところにいた。


「建物に入ったら魔法に気を付けろ、逃げ場はないぞ!」


 喧噪の中でも、その太く通る声には、はっきりと覚えがあった。

 声の方を向くと、ウィンダス領の紋章が描かれた外套を纏う騎士を間に、ブルードが立っていた。


 レンドルの視線に気がつくと、ウィンダス侯爵が声をかけてきた。


「巨人族を倒したそうだな」


 レンドルは大きく頷いた。


「……加護を得て間もないのに、大したものだ」


 ブルードが前方のルベリア軍を見る。


「中枢の建物に突入する。お前は休んでいろ」


「そうだよ、もう前に出なくていいんじゃない? これ以上、仲間の手柄を取らないほうがいいよ」


 灰兎族のタタの言葉に、ブルードが声に出して笑う。

 その言葉に、レンドルは静かに剣を鞘に納めた。

 なぜか教官、と呼ぶ気になれなかった。


 あの夜、酒に酔ったこの男が放った、剥き出しの殺気を思い出した。

 この戦場でも、ずっと視線を感じていた。気のせいではなかった。


 ――それに、俺を狂人の血と呼んでいた。


「幸いにして、黄金騎士は不在だ。この戦いも、もう終わる」


 黄金騎士――ルベリア建国の英雄だ。

 上級騎士五人を同時に切り伏せた。孤立した王族を単騎で救い出し、千の軍隊の中を駆け抜けたという。

 生涯一度も負けを知らない、不敗の将。

 その武勇は吟遊詩人たちの詩となり、王都の港や広間で幾度も耳にした。

 一騎打ちの場面が歌われるたび、レンドルの胸も熱くなったものだった。


「この要塞から、どこに」


 サンガード皇国との間に位置するコルタナ要塞は、不落と呼ばれる防衛の要だった。

 もっとも重要な拠点の一つに、ルベリアの英雄が駐屯していた。

 それが不在となれば、戦いを仕掛ける理由の一つにもなる。


「ルベリア王都へ移動したと情報があってな。それだけではないが、この遠征の最後の後押しになった」


 黄金騎士が王都に行く理由は何だろうと考えた。

 ルベリア王カラドリウスは高齢だ。その身に何かあったのだろうか。


 その時だった。


 中枢の建物の方角、ルベリア陣営の後方から、大きな声が上がった。

 それが、だんだんと伝播し、皇国の兵士とぶつかる戦線までたどり着いた。


「挟みこむぞ!」


 何を挟み込むつもりなのか。レンドルは耳に届いた言葉に、最初理解が及ばなかった。


「黄金蛇鱗騎士団、万歳!」


 建物の中から、騎士や重装の兵士が続々と現れるのが見えた。

 見ただけでも、五十、いや百、それ以上が湧き出てくる。

 建物に、そんなに大勢いたとは思えないほどだった。


「……馬鹿な! ここにいるはずがない」


 ブルードが思わず声を上げた。


 レンドルたちの後方、打ち破った正門からも、騒がしい声がする。

 振り返ると、ルベリアの旗兵が続々と要塞内に入り込んできていた。


 奪い取った城壁通路や中層回廊の弓兵が、新たに現れたルベリア兵に打ち込むのが見える。

 この要塞での戦いは、これからが本当の決着だと理解した。


「なんで、ルベリア兵が! まさか援軍なのか」


 サナロアが出した答えが全てだった。

 要塞の外には後方部隊が待機していたはずだ。訓練兵たちの支援部隊もだ。


「全部、時間稼ぎだったんだ」


 タタが呟いた。誰に言った言葉だったのか。少なくとも、レンドルだけに向けられたものではなかった。

 思わず口に出してしまった、そんな感じだった。


 うねった道も、沢山の大盾も弓も、殺すためだけではなかったのだ。皇国の侵攻を遅らせるためだった。


「多分、あの建物は外につながってるんだ」


 正面の入り口だけじゃなかった。地下通路でもあるのだろうか。

 少なくとも、退路は断たれている。正面には、重厚な空気を纏った戦士たちが身構えている。

 敵の精鋭部隊だと分かる。戦士たちが大声で歓声を上げると、残ったルベリア兵にも伝わり士気が高まっていた。


 そんな精鋭の集団の中、海が割れるように静かに道を空けた。

 不自然な静けさだった。奥から、ひと際煌めく黄金の鎧が現れた。

 純白のマントが、風に揺れる。

 巨漢が大槍を頭上で振り回しながら、近づいてくる。

 それだけで、周囲の空気が変わった。


「嵌められた。引き込まれた、最初からこうなることを……」


 ウィンダス侯爵は、それ以上は口を開かない。ごくりと息を飲む音だけが聞こえる。

 大隊長や中隊長が、声を上げ隊列を組みなおしている。


「我こそは黄金騎士。サンガードの兵ども、降伏などゆるさんからな! 炎の神フレイダに我が戦いを捧げる!」


 その声が戦場に響き渡った瞬間、敵味方問わず、動きが止まった。

 生ける伝説の英雄。黄金騎士だった。本物の英雄が目の前にいた。


 レンドルは空を見上げた。日が傾きかけている。まだ夕日は見えない。


 サンルードの聖跡で加護を得るだけじゃなく、神に戦いの祈りを捧げ、旅の無事を祈っておけばよかった。

 太陽の神ベギラダに戦いを捧げていたら、何か変わっていたのだろうか。

 今となっては、遅かった。


「巨人族を倒した騎士がいると聞いた。誰だ、出てこい!」


 レンドルの左腕が掴まれた。

 顔を向けると、サナロアがしがみ付いていた。


 そして彼女が顔を上げた。

 その瞳には、紅い眼が綺麗に映っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ