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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第1章 赤髪の剣士と英雄
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第30話 ルベリア王国遠征 ―― 蒼髪のサナロア 3

 向かい合う蒼い髪の姉妹は、一言も発せずにいた。


「黙ってるだけだと、時間が無駄になるよ」


 タタの余計な一言に、サナロアが怒りをぶつける。


「兎は黙ってろッ!」


 酷い言い方だったが、タタは肩をすくめるだけだった。


「傭兵の流儀でいいなら、思う存分殴りなよ」


 タタの一言で、その場の空気が変わった。

 傭兵団の男たちが、自然と輪を作るように後ろへ下がる。

 レンドルも味方も何となく二人を囲うように動いた。


 団長がイステアの隣に立ち、低い声で言った。


「事情は知らないが、負けるなよ。蒼い狐の名が泣くぜ」


 そう言って団長が下がると、「イステアに賭ける」と聞こえた。傭兵たちは逞しかった。

 イステアは小さく苦笑いした。


 武具を外した二人が向かい合った。


「剣と剣。果し合いで殺したかった。サンガードに連れて帰る。いつまでも、首がつながってると思うなよ」


「怖いことを言うようになったわね」


「くッ……私に何か言うことはないのか、イステア」


「手紙を書いたのだけど、その様子では届いてないのね」


「手紙……だと? 言いたいことがあるなら、家に来ればいいだろう。そのまま死ねたぞ」


「知らないから、そんなこと言えるの」


「何を偉そうに。私は、お前には言いたいことが山ほどある。だったら、お前が殴った分だけ、喋らせてやる」


「そう……。私、言いたいことあるの。泣いちゃだめよ」


「黙れ!!」


 サナロアが素早く踏み込んで、右拳を突き出す。

 それを難なくイステアは躱し、サナロアの右手側を円を描くように動く。


「なぜ父親を殺した!」


 追いかけるサナロアの左拳もイステアが躱す。


「騎士になった日に、お前の父親に襲われた」


「ざ、戯言(ざれごと)を」


 拳が交わる。二人の頬を拳が霞める。


「隙を見て私は剣で刺した」


「父がそんなことするはずがない!」


 二人が止まる。全力の殴り合いのせいか、二人の息が聞こえる。


「騎士院を卒業する日よ。商人の息子に嫁げと、お前の母親に言われた。ふふ……お祝いどころか、お金にされたの」


「うそだ!」


 サナロアの打ち込みの鋭さが増す。

 イステアが受け、さばき、打ち返す。姉妹は同じ構えをしていた。


「財産も奪って逃げた!」


「財産なんて最初からないわ。残ったのは私を売ったお金よ。あの男を殺した後、居なくなったから、商人が裁判を起こした。あの女が何に使ったのか知らないけど、支払えずにあの女は自殺した。商人から直接聞いたの」


「うそだ!」


 サナロアが急に構えを反転し、攻撃のリズムを変えた。

 同じようにイステアも構えを変える。二人は同じようなステップを踏む。

 まるで踊っているように見えた。


「その商人の髪色が、蒼い髪だった。私たちと同じね」


「な……」


 サナロアは、それ以上言葉が出なかった。表情から生気が失われていた。血の気が全くなかった。


「あの女はね、男爵家のもとに来る前に、子供を産んでいたの。つまり私よ。私を捨てて男爵家に入った」


「ところが、中々子どもが生まれないからって、私を養女にしたの」


 レンドルには、その構図が頭に入りきらなかった。男爵は知らずに、他の男の娘を二人育てていたのか。


「そして、あなたが生まれた。でも、不思議なの」


 沈黙の中で、息遣いだけが聞こえる。


「髪の色も、顔もそっくりに育ったわ。双子みたい。そう、父親が同じだからよね」


「なんだ……それは……。その、商人が……父親だって言うのかッ!」


 二人は血の繋がった姉妹だ。ただ、男爵家の血ではない。母親が通じた商人の子だった。

 レンドルは、その事実がどれほどサナロアを打ちのめすか、想像するだけで息が詰まった。


「私は小さいときから、あの男に慰み者(なぐさみもの)にされていたわ」


「やめろ!」


「私を、サナロアって呼びながらね。気持ち悪い男だった」


「ッ!!」


 サナロアの表情が複雑に歪むのも当然だった。そんな話を聞かされたくないはずだ。


「血が繋がっていると思っていたサナロアに、覆いかぶさっているつもりでいたのよ」


「やめろおおおおおおおおおおおおお!!」


 レンドルの背中に凄まじい悪寒が走った。この話が事実だと信じたくなかった。


 イステアの動きは鈍いまま、サナロアに近づいていく。息が上がったままだった。それでも続けた。


「く、くるなあああッ!」


 サナロアが、苦しい顔のまま一気に踏み込んだ。


「襲われた傷で……もう子供が産めなくなった」


 涙を浮かべながら、それでも微笑んだ。


 サナロアの拳がイステアを打ち抜いた。


 崩れかける身体を、サナロアの腕が掴んだ。抱きしめるように。


「……ごめんねサナロア、一人にして」


 イステアの声は、かすれていた。

 サナロアは大声で泣いた。


 レンドルには、言葉がなかった。

 ただ、剣を渡さなかったことだけは、確かだった。


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