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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第1章 赤髪の剣士と英雄
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第17話 謁見の間 ―― 振り下ろされた剣

 皇妃フィリネアリが、レンドルのほうを向いた。


 本当なら、畏まっているはずなのに、敬う気持ちが全くなかった。

 最前線に行きたいかと、問われたが、どう答えればいいか戸惑っていた。


「黙っていても不敬になる」


 レンドルは少し間を置いたところで、グリフォートが声をかけた。


 しかし、まともに会話することに、意味があるのか疑問だった。

 命を狙っている皇妃に。いや、確証も実証もない。

 今それを口にしたところで、火に油を注ぐだけだ。


「正直なことを言うと、行きたくありません」


「あら、それなら」


 かすかに皇妃の口元が緩む。


「ですが、近衛騎士にはなりません。――騎士にも、なろうと思いません」


 皇妃の口元から一瞬で笑みが消える。

 グリフォートが後ろを振り向いた。

 レンドルを見る公爵の顔が怖い。

 公爵が茶番を仕組んでまで、レンドルを救おうとしていることを反故(ほご)にしたも同然だった。


「では、何になりたいの?」


 騎士叙任の後、負傷して退役して、いくらかの恩給を手に入れる。

 もしくは、近衛騎士になり殺され、恩給が家族に渡る。

 レンドルには二つの道を強いられている。

 でも、そんな道をなぜ選ばなければならない。

 いや、退役したところで、命を狙われることには変わりがないのではないか。

 だとしたら、王都に居るわけにはいかない。

 ちがう、この国に居ること自体が身を亡ぼす。

 では、どこに行けばいいのか。


 長い時間のように思えた。実際は物の数秒かもしれない。

 漠然と考えていたことが、答えのように思えた。


 ――なら道は一つしかない。


「……冒険者になります」


「あなたは、騎士を目指していたはず。それはエルザが望んでいたこと。だから、家庭教師のペドラムを紹介したのよ」


 ペドラム。幼い頃の家庭教師の名だ。皇妃が紹介していたとは、知らなかった。

 ここでも、繋がりがあった。知らないことが多すぎた。


「母が死んで、父だけの稼ぎでは騎士院に入るための資金が蓄えられません。自分は剣で稼ぐこともできますが、妹はそうもいきません」


 父さんは、何とかすると言っていたが、すでに借金の身だ。


「あら、そうだったのね。なら、なおさら近衛騎士になることね。あなたの妹も助かるでしょう。男爵家の侍女になるのにも支度金は必要だもの」


「妹のことも……」


「知っているわ。ペドラム――ウールマン男爵家を紹介したのは私よ。妹がウールマン侍女になる話も、当然私の耳に入るでしょう」


「……ですが、銀狼を殺すために、剣を振るいます」


 玉座の間に、小さな沈黙が落ちた。


「そんなに、エルザの敵討ちがしたいの」


「母を殺した、あいつの息の根を止めるために加護を求めました」


「無理、ね」


「無理、ですか?」


「昔、銀狼討伐が行われたわ。閃光のラクア。英雄でも無理だった。あなたの父ファレンもいたけど、勝てなかった」


「はい、知っています」


「だから無理。そもそもエルフたちが何百年と戦って倒せないのよ。魔法も剣も通用しない。返り討ちね」


「そうは思いません。必ず方法はあります」


 謁見の間が、静まった。誰も、声を出さなかった。


「そんなに近衛騎士を拒む理由は何かしら」


 殺される、そんな話を聞いたのだから、当然なりたいわけがなかった。

 だから、なぜ命を狙うのかを確かめたかった。

 まだ本当にそうなのか――その気持ちがどこかにあった。

 確証も実証もない。だから、半信半疑のまま言葉が出た。


「ラクロアンのラクアが来ている。近衛騎士になって、手合わせをして、斬り殺されたくありません」


 思わず言ってしまった。よしておけばよかった。

 グリフォートの顔がさらに歪んで見えた。


 ずっと殺気を放っていた近衛騎士が、鞘から剣を抜いきレンドルに向かって叫んだ。


「皇妃様に疑いをかけるとは、何事だ!」


 広間に剣の音が響き渡る。

 切っ先がレンドルの首に向けられている。


「あなたが俺を斬ったら、何も違わない」


「舐めた口をッ!」


 レンドルが言い終わる前に、エストは素早く上段の構えをとり、レンドルに向かって踏み込んだ。

 その刃が、滑らかに空気を裂いて振り下ろされた。

 レンドルは動かなかった。

 瞬間、体の中に意識を向ける。魔力が全身に満ちていくのが分かった。

 刃が、当たった。

 先が、弾かれ折れた。

 場の全員が、息を止めた。


 折れた剣先が、白い石柱に刺さり金属音が謁見の間に響いた。


 レンドルの体には、銀色の光が流れ満ちていた。

 衝撃の強さで、近衛騎士が腕を抑えている。


「ば、ばかな!」


 近衛騎士たちが、全員剣を抜いた。

 だが飛びかかってくる者は誰もいない。

 恐ろしいものを見る目だった。


 グリフォートから聞いた話は、本当だった。

 最初から殺す気でいた。だから剣を向けた。それだけのことだ。


 ――確信した。


「俺を殺そうとした」


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