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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第3章 碧眼の狼と精霊
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第115話 ルベリアの罠 13 ―― 竜眼

 鮮明に見えた。サナロアが殺される光景が。


 ――なんだ、今のは。


 瞬きをした時には、もう消えている。

 現実のサナロアは、何事もなくこちらへ向かって走っていた。

 さっき聞こえた囁きは精霊の囁きか。今見たのは精霊たちが見せたものなのか。


 レンドルはあまりの鮮明さに、恐怖した。

 身体の奥底から、何かがこみ上げる。

 もうわかる、昏い魔力だ。


 魔力を練り上げた時のものじゃない。勝手に溢れ出してくる。

 自分の意思とは関係なく。


 それに、彼女がどうしてここに。

 周辺の探索を頼み、調印の場から離れていたはずだ。危険から遠ざけたはずなのに。


 彼女は、レンドルの元にたどり着くと、微笑む。


「サナロア……」


 声を出しかけたレンドルへ、サナロアが指を立てた。


「静かに。――こっちに気を向けさせるな」


 レンドルは銀狼へ視線を向けた。

 銀狼は皇国とラクロアンの戦士たちを相手にしており、まだこちらへ意識を向けてはいなかった。


 サナロアはレンドルのそばへ膝をつき、身体を確かめる。


「足の傷がひどいな。ジュカのところへ行くぞ。エルフの君はジークだったな、手を貸してくれ」


 ジークが力強く頷いた。


 レンドルは自分の脚を見た。

 左足には大きな傷が開いていた。銀狼に吹き飛ばされた時、牙に掠められたのか、それとも爪にかかったのか。

 道理で力が入らず、立てないはずだった。


「レンドル、肩につかまれ」


 そう言ったサナロアが、レンドルの顔を見た。

 その表情が変わった。


「なんだ、その眼は!?」


 息を呑み、目を見開く。


「眼……?」


 何を言っているのか、わからない。目は見えている。

 だが、確かめている暇などなかった。


 サナロアがレンドルの腕を取った、その時だった。


『待て! 赤髪!』


 距離が離れているというのに、銀狼の声が響いた。


 気づかれた。


 銀狼は足を取られていた沼を一瞬で凍らせ、固い足場へと変えた。

 そして、こちらへ向かって走り出す。


 レンドルは顔を上げた。

 銀狼はジークではなく、こちらに向かっている。

 牙の根元を斬り裂かれたからなのか、その顔には剥き出しの怒りが浮かんでいた。


 銀狼の右肩の刃に血が付いている。あの刃で何人の兵士たちが殺されたのか。

 あれはただの身体の一部ではない。氷の刃だ。濃密な魔力を感じる。

 銀狼自身が、魔法によって作り出しているのかもしれない。


 その右肩の刃が、水平に構えられた。


 ――同じだ。


 目の前の光景が、先ほど見えたものと重なった。


 青い髪が舞う。


 銀狼の刃に斬られる、サナロア。

 このまま振り抜かれれば、彼女が真っ二つにされる。


 ――なんで。


 レンドルの胸の奥で、何かが弾けた。


 ――サナロアが、死ぬ?


 昏く紅い魔力が、レンドルの身体から一瞬で溢れ出した。


「きゃあッ」


 ジークが驚きの声を上げた。サナロアもレンドルから手を離した。


 黄金騎士と戦った時とは違う。

 もっと荒々しく。

 もっと激しく。


 魔力が身体の周囲で逆巻いている。


 レンドルはサナロアの肩を強く押し、ジークの方に突き飛ばした。


「レンドルッ!」


 サナロアの悲鳴が背中に届く。


「その眼――竜眼か!」


 銀狼が叫んだのと同時に、氷の刃が横薙ぎに振るわれた。


 レンドルは、迫る銀狼の刃へ剣を向ける。


 支えを失った身体が前へ崩れる。

 無傷の右足で、地面を蹴った。


 溢れ出した昏い魔力を剣へ流し込み――。


 迫る氷の刃めがけて、剣を振り下ろした。


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