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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第3章 碧眼の狼と精霊
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第108話 ルベリアの罠 6 ―― 殺意を隠して

 ブルードは天幕の入り口から、あわただしく入ってきたが、

 騎士団長直属の上級騎士が、それ以上進ませまいと阻んだ。


 レンドルは、騎士団長の正面に立っている。


 剣を抜いて踏み込んでも届かない距離にブルードは居る。

 意図しているのか、そうでないのかはわからない。おそらく後者だ。


「んんッ? なんだ。レンドル。お前持ち場はどうした」


 この男の白々しい言葉に、レンドルは冷や汗を流す。


「……ブルード教官、いや、すみません。ウィンダス侯爵。持ち場を離れたのは軽率でした。失礼します」


「待て。何を話していたか答えろ。ノックス大隊長から指示があったはずだ。持ち場を離れてここに居るのだ。よほどのことだな。まず、上官たる俺に報告しろ。今ここでだ」


 ――こいつの喉に剣を突き立ててやる。もう今か。今やるか。


 身体の奥で、魔力がざわめいた。

 駄目だ。ここで漏らせば、この男に向けた殺意と一緒に魔力が暴発する。


 あの時と同じになれば、殺意がブルード自身に向いていると悟られてしまう。

 レンドルは拳を強く握り、無理やり魔力を押し殺した。


「……」


「ウィンダス侯爵。儂は入ることを許可しておらん。どういうつもりだ」


「騎士団長、これは我が指揮下の部隊の問題です。ご迷惑なのはわかっています。だが、勝手な行動をしたレンドルを、このままにはできません」


「何を言うか。レンドルは中央騎士団の所属だ。懲罰兵だったからノックスの旗下(きか)にしただけだ。屍人たちのせいで兵力に偏りがある今は、中央騎士と領騎士の混成隊になっているだけだ。儂に、あまり長話をさせんでほしいものだ」


 レンドルは、騎士団長のもっともらしい話は、時間稼ぎだとわかっていた。

 その間に、何か手を考えろと、そういうことだ。 


「しかしですな、公爵」


 納得がいくはずもない。怪しまれている。

 この男が、この場で引き下がるはずもない。


「……サナロアです」


 ブルードの片眉が上がる。


「なんだ? サナロアだと。お前の副官がどうした」


「俺と結婚します」


「は?」


 ブルードの驚いた顔だ。今のは作り笑いじゃなかった。

 ずっと監視されていたが、あの夜のことは知りようがない。

 誰にも話していないのだから。この男が絶対に知らないことだ。


 そして、彼女なら、サナロアなら――。


「実は、調印式の護衛から外してもらえないかと、相談しにきました」


「お前が、サナロアと……結婚だと? エーダー男爵家の当主と、お前がか? でたらめをぬかすな。おい、レンドル隊の副官を呼んでこい。騎士団長、そのような相談を受けたというのは本当ですかな?」


「……儂も聞いたばかりでな、驚いておるよ」


 うまい言い方だ。

 ブルードの問いを否定せず、それでいて、レンドルには今初めて聞いたのだと伝えている。


 騎士団長の目がレンドルに向けられている。

 視線が痛い。それで、大丈夫なのかという視線だ。


「持ち場を離れたレンドルが見えたので、何かしでかすのではないかと思いましてな。押し通りました。申し訳ない。謝罪いたしましょう。ですが、サナロアが来るまで待たせていただく」


 強引な男だ。


「いくら侯爵と言えども、勝手なことをぬかすな」


 団長が唸るように遮った。


「要塞の施設で、レンドルが魔力を解放したことを、もうお忘れですか。あの時は、ラクアに対する怒りかと思っていたのですが、アイアンロックの伯爵に向けた剣のこともある。騎士団長にも剣を向ける気なのでは、と思いましてな」


 探られている。

 自分が魔力を漏らすのを待っているのかもしれない。

 最初から疑われている。


 最悪だ。


 どうせ、この男は裏切り者なのだから。

 どうせ、この男を殺さなければならないのだから。


 どんなことがあろうとも、ブルードを生かしておくことなど、ありえないのだから。


 サナロアが来て、もしブルードが少しでもおかしな真似をしたら――。

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