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銀と氷のジークリンデ【リメイク版】  作者: 四十早
第3章 碧眼の狼と精霊
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第107話 ルベリアの罠 5 ―― 皇国を蝕む病魔

 レンドルは急ぎ足で、騎士団長の元へ向かっていた。

 ノックス大隊長が騎士団長の天幕から出て行くのが見えた。

 調印式の準備に向かったのだろう。


 だが、走ってはいけない。ブルードに気がつかれるかもしれない。

 そう思った矢先に、また視線を感じた。感じた方向も先程と同じだ。


 レンドルは、ぎり、と強く歯を食いしばった。

 知らず、口の内側まで噛んでいた。

 唾を飲み込むと、微かに鉄の味がした。


 ブルード・ウィンダス侯爵――。


 サンルードを狂人と呼んだ。

 サンルードの聖跡で、加護を得た者を抹殺している。

 サンルードの血を、根絶やしにしようとしている。


 そしてレンドルが加護を得たことを、ブルードは数時間も経たないうちに知っていた。

 神殿はブルードと繋がっている。


 その狂人の血を持つレンドルを、殺そうとしている。

 妹のフィーネを攫い、皇妃の元に送った。

 父はブルードに殺されたかもしれない。


 この男は、フィーネを皇妃に引き渡した。妹が謁見の間にいたのは、それが理由だ。

 間違いなくブルードは、皇妃フィリネアリと繋がっている。


 皇妃は加護を得たばかりのレンドルの命を狙っていた。

 皇国がラクア暗殺を仕掛けるなら、それに乗じて、ブルードは殺しにかかってくる。

 同盟を結ぶための調印式で、ラクアを襲ったことを理由にされて、レンドルは殺される。


 皇国のラクア暗殺計画のことを、ブルードはラクア本人に伝えているはずだ。

 ブルードも、その護衛であるウィンダスの騎士たちも、ラクロアン側に加わるのだ。

 騎士団長や上級騎士たちは、その場で返り討ちにされる。


「俺を殺すタイミングは、そこしかない」


 レンドルは、口の中に広がる鉄の味ごと吐き出すように呟いた。


 皇妃は閃光のラクアと繋がっている。

 それどころか、皇妃の生んだ子は、ラクアの子だ。


 だから騎士団長は、皇帝暗殺犯であるラクアを調印の場で暗殺する。

 サンガードの乗っ取りを防ぐためだ。


 サンブラント皇帝陛下は、サンルードの加護を継承した。

 つまりサンルードの血脈だ。


 ブルードは、皇帝暗殺を知っていたんじゃない。

 最初から皇帝を殺す側にいたんだ。


 アーデンの情婦となったフィリネアリには従者がいた。

 その従者はラクアだったが、ラクアはアーデンを殺すことはできなかった。

 殺せば、フィリネアリも相互契約によって死ぬ。


 そして、その後フィリネアリは、皇帝陛下に見初められ、サンガード皇妃になった。

 偽りのルベリア王の娘としてだ。

 やがてフィリネアリは、子供を授かった。


 サンブラント皇帝陛下の子ではなく、従者だったラクアの子だ。


 皇妃が出産する前に、ラクアが皇帝陛下を暗殺した。

 最愛の人を奪われてのことか。それとも生まれて来る子が、自分の子だと悟られないためか。


 そして、皇妃は最愛の男の子供を皇帝に据える。


 だから、ブルードと皇妃とラクアは、利害が一致している。

 サンガードに巣食う病魔のように、国を蝕んでいるのだ。


 そう考えを巡らせるうちに、騎士団長の天幕へ辿り着いた。


 たった今、レンドルはその全てを騎士団長に伝え終えたところだった。


「おそろしいな……。レンドル、お前の話は恐らく、いや、真実だろう。儂らは全滅というわけだ」


 騎士団長が頭を抱えながら言った。

 上級騎士たちの動揺も、小さくはない。


「俺が、ザイード商会の馬鹿息子に絡まれたときに、ブルードが仲裁に入りました。その時、父ファレンに会いに行くと言って、馬車で向かっていました。俺が騎士団長に呼ばれたのは、その後です。その時に妹のフィーネを(さら)ったに違いない」


「なるほどな。ファレンは家に居なかった。もしくは、フィーネを人質にされたかだな。ファレンほどの男が、簡単に殺されるとは思わん。ならば、フィーネを人質にされて、おとなしく捕まったか、殺された。くそッ! 気がつかなかった儂は、何と愚かなのだ。お前の妹が皇妃の元にいた理由をきちんと追っていれば」


 レンドルは、騎士団長とともに謁見の間にいた。

 そこで皇妃と交わしたやり取りを思い返す。


 フィーネが人質にされたのを、騎士団長は見ていた。

 それがなければ、信じてもらえなかっただろう。


 あまりに用意周到だった。

 あの短い時間で、そんなことを可能にするには、きっと協力者がいたに違いない。


 上級騎士の一人が、口を開いた。


「団長。私もレンドルの話がでたらめとは思えません。であるなら、ラクア暗殺の件は、すでにブルードから伝わっているということです」


「まさか儂は、裏切り者の前で堂々と計画を教えていたわけか。アーデンが生きていることも、ラクアに伝わっているな。要塞の地下牢につないできたが、殺されているだろう。直接手を下す理由は十分あった」


「ならば、計画は中止ですか。計画を逆手に取られる可能性もあります」


 上級騎士の言うことは、的を射ていると思う。

 レンドルは、中止してほしいと願うような目で、騎士団長を見た。

 ジークが敵にならないようにしたい。


「いや、計画は中止できんな。知られているなら、なおさら今を逃せば二度とラクアに近づけん。いいか。儂がラクアに怪我の程度を聞いたときが合図だ。意識がこちらに向いた瞬間にやれ。いいか――」


 外が騒めいた。衛兵が制止する声が聞こえる。


「騎士団長! ブルード・ウィンダス侯爵です。入らせていただく」


 だが、衛兵の制止を振り切って、ブルードが入ってきた。


 レンドルは、心臓が痛いほど鼓動が強くなった。


 なぜだ。なぜ、今ブルードがここへ来る。

 天幕に向かう姿を見られたから、探しに来たのか。


 ――俺を追ってきたのか。


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