幕間 ネオネス ―― 決意
ネオネスの目の前には、サンガード皇国の侯爵である、ブルード・ウィンダスが座っていた。
精悍なその顔立ちと、その眼光は年を重ねるごとに鋭さを増しているように見える。
サンガード皇国の建国から、サンブラントに仕えたこの国にとっての偉人。
侯爵の立場にありながら、戦闘技術を腐らせることなく、兵学院で戦う術を教えている。
周りからは尊敬の念を抱かれている。
ブルードの周りには、神殿騎士が並び、ネオネス一人を囲んでいる。
彼らの中にも教え子がいる。この男に信頼を置いているのが、これまでの付き合いから分かっていた。
ネオネスたちエルフが、こうして処刑されていないのは、この男のおかげでもある。
サンルードの血脈にこだわりがあり、その血脈を視るネオネスの《権能》を利用しているからだ。
だがネオネスは、この男のことを、あまり好ましく思っていなかった。
この男からは、なぜか血の匂いが消えない。
「半年振りか、賢者ネオネス。今日来たのは加護についてだ」
「丁度よかった。今日サンルードの血を持つ若者が来たのですよ。加護を与えたところです」
「ほう! そうであったか。それならばよい」
「いつも通り、レオニード様にご案内しています」
そういって、ブルードのそばにいるレオニードに目を向ける。
「確かに引き受けました。凄まじい魔力が渦巻いていたので、強い加護を得たようです」
「うむ。よいな。その若者は、どこのものだった?」
「ファレン・ブレイズの息子、赤髪の――」
机を叩く音が部屋に広がった。
「ばかな!」
ネオネスがレンドルの名を口にしようとしたところ、ブルードはそれを遮った。
立ち上がり、身を乗り出してネオネスを睨んでいた。
神殿騎士たちも、驚きのあまり、がちゃがちゃと鎧を鳴らしている。柄に手を掛けたものがネオネスの視界に入った。
「レンドルだと……レンドルがサンルードの血脈だと。そんなはずはない。おい、ネオネス、間違いないのか」
「……外れたことは、ありませんが。何か問題が?」
「いや……レンドルは俺の教え子なのだ。俺はファレンとも付き合いが長い。それに気が付かなかったので、驚いたのだ」
厳しい顔だ。眉間に強く皺が寄っている。
ブルードは、静かに椅子に座りなおした。顔の前で両手を組んでいる。明らかに焦りが見える。
ブルードが、以前話していた内容を思い出し、確かめるように言葉を紡いだ。
「以前、聖人サンルード様に連なるものを、保護していると聞いていました。近くにいたのなら、それは確かに驚きますね」
「……ああ、その通りだ」
ネオネスは、この男のサンルードの血へのこだわりが、異常なものだと感じた。
ブルードが視線を祈祷場に向けたのを見て、フードで隠すようにネオネスは魔力を銀瞳に込めた。
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┃+ ブルード・ウィンダス(サンガード侯爵) 44歳
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┃+ 身体強化の加護(小)
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┃+ サンルードの従者となり、ダイナレスト大陸に渡ってきた。
┃+ サンブラントに仕え建国の偉人とされる。
┃+ 加護を持ったものを、ラクア(ラクロアン)に引き渡している。
┃+ サンルードの血脈を消している。
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――なんてことだ。
この男と初めて会ったときには、こんな悍ましい情報はなかった。
ラクロアンのラクアに、加護持ちを引き渡している。なんのためにだ。
この男はサンルードの従者だったはずが、その血を――殺している。
ネオネスは思わず、顔をしかめそうになったが、すぐに表情を整えた。
あの青年に、加護を与えるべきではなかったのかもしれない――しかし、もう遅い。
彼を、危険な目に合わせてしまうことになった。
この男、ブルードの狙いは一体なんだ。
――いや、もうこの神殿には用はない。
サンガード皇国を脱出し、ユグの森に帰る。
「今日の用はそれだけだ」
そう言うと、静かに立ち上がりブルードは部屋を出た。
神殿騎士たちもブルードが去るまで、ネオネスから視線も体の向きも外さなかった。
やがて、神殿騎士たちも引き払い、部屋にはネオネスが残った。
ネオネスは、しばらく考えていた。
加護が、狙われているのか。
――まさか、奪っている。




