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毒花令嬢は二度目の人生で復讐を選ばない  作者: 黒豆子犬
4章 新しい花

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第78話 セドリックの告白

秋の終わりの、よく晴れた午後だった。


薬草園の手入れを終えて、ベンチに座っていた。


処方箋集の内容を書き写すノートを膝に載せ、父が残した毒物の解毒法を一つずつ整理していた。三十代分の毒。その全てに、対となる解毒法を記す作業だ。


終わるまでに、何年もかかるだろう。


だが、急ぐ必要はない。これは、一生をかけてやる仕事だ。


---


足音が聞こえた。


砂利を踏む音。ゆっくりとした歩幅。


顔を上げる前に、分かっていた。


「セドリック」


「書き物か」


「うん。父の処方箋集を解毒集に書き直してる」


「一人で?」


「マティアスに手伝わせてるけど、毒の部分は自分で読まないと危ない」


セドリックが隣に座った。


少し離れて。いつもの距離だ。


だが、いつもの距離が、今日は少し近かった。


「リゼット」


「なに」


「少し話したいことがある」


ノートを閉じた。


セドリックの横顔を見た。夕方の光が当たっている。暗い紫の瞳に、金色の光が混じっていた。


「聞くよ」


セドリックが息を吸った。


吐いた。


もう一度吸った。


「……苦手だな。この手の話は」


「どの手の話」


「感情に関わる話だ」


「セドリック。あなた、いつも感情の話を数学の問題みたいに扱うよね」


「扱わない。数学の方がはるかに簡単だ」


「それは同感」


セドリックが膝の上で拳を握った。開いた。また握った。


見たことのない仕草だった。この人が緊張しているのを見るのは、珍しい。


「リゼット。俺はお前に出会ってから、世界の見え方が変わった」


「……うん」


「書庫にいた頃は全てが文字だった。毒も薬も、人の病も政治も。本の中の知識で、自分とは関係のない事柄だと思っていた」


「今は?」


「今は違う。母が苦しむのを見て、お前が薬を作るのを見て、南方の子供が笑うのを見て。知識は、使わなければ意味がないと分かった。お前が教えてくれた」


「教えたつもりはなかったけど」


「教えるつもりのない人間から学ぶことが一番多い」


セドリックが、こちらを向いた。


正面から目が合った。


暗い紫の瞳が、真っ直ぐに、私を見ていた。


「リゼット。俺はお前が好きだ」


止まった。


風が吹いた。薬草園の花が揺れた。ラベンダーの匂いが広がった。


「好き」


「ああ」


「それは同志として? 研究仲間として?」


「違う。そういう意味ではない。言い方が分からないが、お前の隣にいたい。お前が走る道を作るだけでなく隣で、一緒に走りたい。そういう意味だ」


セドリックの顔が、赤かった。


耳まで赤い。


この人がこんなに赤くなるのを、初めて見た。


「……セドリック」


「返事は——急がない。考える時間がいるなら」


「要らない」


「え」


「考える時間は要らない」


セドリックが目を見開いた。


「私もあなたの隣にいたいと思ってた。いつからかは分からない。でも南方で一緒に馬を走らせていたとき、廃鉱山の入口で待っていてくれたとき、魚の骨を笑ってくれたとき。そういう瞬間の積み重ねで気づいていた」


声が少し震えた。


「でも言えなかった。局長になったばかりだし、国中が大変な時だし、あなたは王子だし」


「王子は関係ない」


「あるよ。第二王子が毒殺者の娘を」


「俺の話を聞いていたか。俺は王位に興味がない。兄上が継ぐ。俺はお前の隣にいる。それが俺の選択だ」


「選択ね」


「ああ。選択だ。強制ではなく、義務でもなく。俺が選ぶ」


薬草園に、風が吹いた。


秋の風。少し冷たい。だが、心地よかった。


「……ありがとう。セドリック」


「礼は」


「要らない。知ってる」


二人とも、笑った。


カミラが薬草園の入口に立っていた。紅茶を二杯持っていた。


いつから見ていたのか分からない。


だが、表情で全てを察したらしい。


カミラが紅茶をベンチの端にそっと置き、何も言わずに戻っていった。


セドリックが紅茶を手に取った。


「……気が利きすぎるな。あの侍女は」


「カミラは、いつもそうだから」


紅茶を飲んだ。温かかった。


蜂蜜入りだった。


夕日が薬草園を染めていた。二人のベンチの影が、長く伸びていた。

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