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毒花令嬢は二度目の人生で復讐を選ばない  作者: 黒豆子犬
3章 公爵家の闇

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第59話 逮捕

裁判が終わった翌週。


公爵家の解体が正式に執行された。


王家の勅令。ヴァレンシア公爵家の爵位を剥奪し、領地を王家に接収する。屋敷は国有化され、地下施設は完全に破壊される。


屋敷の取り壊しには立ち会わなかった。


カミラが報告してくれた。


「地下の研究室が埋められました。石と土で。騎士団が二日がかりで」


「そう」


「薬草園は残すそうです。王宮の管理下に移して、薬草の栽培を継続すると」


薬草園だけが残る。


あの庭で育てた牛乳薊。甘草。薬草の数々。


毒の屋敷から、薬草園だけが生き残った。


それで、いい。


---


数日後、セドリックがケッテラーの取り調べの最終報告を持ってきた。


「ケッテラーはすべてを自白した。驚いたのは、奴の用意周到さだ。もし我々の介入が遅れていたら、王妃暗殺未遂の罪を誰かに被せるつもりだったらしい」


「誰にですか」


「お前だ。王妃付きの侍女であるベティを金で買収し、『リゼットが王妃の私室付近を徘徊していた』と偽証させる手はずだった」


息が止まりそうになった。前世で私を処刑台に送った、その決定的な引き金。


だが、セドリックは淡々と続けた。


「もちろん、その計画は動く前に潰れた。お前が令嬢ネットワークを通じてベティの借金を肩代わりし、とっくに味方に引き入れていたからな。ケッテラーは、手駒がすでに寝返っていたことすら気づいていなかった」


「……そうですか」


大きく息を吐き出した。


無力だった前世の運命を、今世の自分の行動で、完全に断ち切ったのだと実感した。


---


東区の疫病対策は、順調に進んだ。


三千人全員に解毒薬が行き渡り、発症者はゼロだった。


潜伏期間の三十日が過ぎた日。セドリックが報告を持ってきた。


「東区の全住民の健康検査が完了した。疫病の発症者はいない。解毒薬が完全に効いた」


「全員?」


「全員だ。一人も欠けていない」


三千人。一人も死なせなかった。


立ち上がろうとして、膝の力が抜けた。


椅子に座り直した。


「リゼット」


「大丈夫。ちょっと、安心しすぎて」


セドリックが窓際に立った。いつもの場所。


「お前は三千人の命を救った。これは歴史に残る」


「歴史に残らなくていい。生きていてくれればそれでいい」


「お前らしいな」


セドリックの暗い紫の瞳が、こちらを見ていた。


いつもより、柔らかい目だった。


「セドリック」


「何だ」


「前に失言したこと、覚えてる? 前世がどうとか」


セドリックの表情が変わった。微かに、身構えた。


「覚えている」


「あのとき聞かないと言ってくれた」


「ああ。お前が話したいときに聞くと」


「今話してもいい?」


セドリックが黙った。数秒の沈黙の後、頷いた。


「聞く」


---


話した。


全てを。


前世のこと。処刑台で死んだこと。七歳に戻ったこと。


前世の記憶を持ったまま、今世を生き直していること。


父に殺される未来を知っていたこと。王妃暗殺未遂事件の記憶があったこと。


セドリックは黙って聞いていた。


表情は変わらなかった。驚きも、疑いも、表に出さなかった。


全てを話し終えたとき、長い沈黙が落ちた。


図書塔の窓から、午後の光が差し込んでいた。


「……信じるか信じないかは」


「信じる」


即答だった。


「なぜ」


「お前の行動が説明がつく。八歳の子供にしては異常に先を読めること。前世の記憶があると仮定すれば全てが繋がる」


「それだけ?」


「それだけじゃない。お前が嘘をつくのが下手だということを、俺は知っている。こんな作り話ができる人間じゃない」


不本意な褒め方だったが、信じてもらえたことが、嬉しかった。


「リゼット」


「何」


「前世で俺は、どうだった」


「前世のセドリックは知らない。あまり接点がなかった。前世の私は何も見えていなかったから」


「今世では見えているか」


「見えてる。あなたが母親思いで、冷静で、皮肉屋で、でも大事な場面では必ず来てくれる人だってこと」


セドリックが、目を逸らした。


窓の外を見ている。耳が、赤い。


「……余計なことを言うな」


「事実だから」


「事実でも言うな。恥ずかしい」


セドリックの声が、少しだけ、柔らかかった。


「礼は」


「要らない。知ってる」


「……ああ。知ってるか」


窓の外で鳩が鳴いた。


午後の日差しが、二人の間に流れていた。

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