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毒花令嬢は二度目の人生で復讐を選ばない  作者: 黒豆子犬
3章 公爵家の闇

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第51話 父の告白

父が拘束された翌日、面会を求めた。


王宮の地下牢。近衛騎士団が管理する拘禁施設。石の壁と鉄格子。松明の光が廊下に揺れている。


ヴェルナーが許可を出した。


「十五分だ。騎士が一人、扉の外につく」


「ありがとうございます」


鉄格子の向こうに、父がいた。


石のベンチに腰掛け、壁に背を預けていた。黒いコートは脱がされ、白いシャツ一枚。手首に枷がはめられている。


だが、姿勢は崩していなかった。


「来たか」


「はい」


「解毒法は見つかったか」


「まだです。来たのは別の目的です」


「何だ」


「お父様のことを聞きたい」


父の紫水晶の瞳が、こちらを見た。


「俺のことを?」


「なぜ——毒だったのですか。なぜ、ヴァレンシア家は毒を選んだのですか」


沈黙が落ちた。


地下牢の水滴が、遠くでぽたりと落ちる音がした。


「座れ」


鉄格子の外に椅子があった。座った。


---


父が話し始めた。


「ヴァレンシア家は建国の頃から、毒を扱ってきた」


知っている。公爵家の歴史だ。だが、詳細は教えられたことがない。


「初代ヴァレンシア公爵は——薬師だった。戦場で兵士の傷を治し、疫病を鎮めた。建国王に認められて公爵位を与えられた」


「薬師がなぜ毒に」


「薬と毒は同じものだ。お前が一番よく知っているだろう」


父の声は穏やかだった。拘束されている人間の声とは思えない。


「二代目は王の敵を排除するために毒を使った。暗殺だ。王の命令で。三代目も。四代目も。ヴァレンシア家は王家の暗部を担う一族になった」


「王家の命令で」


「そうだ。表向きは名門公爵家。裏では王家の毒殺を請け負う影の機関。それがヴァレンシア家の真の姿だ」


「でも今の王家は、そんな命令を出していない」


「ああ。三代前の国王がヴァレンシア家の暗殺業務を停止した。『文明的な国家に暗殺は不要だ』と。命令は止まった。だが技術は残った」


父が壁から背を離し、前を向いた。


「技術が残れば使いたくなる。俺の父お前の祖父は、王家の命令がなくなった後も、独自に毒の研究を続けた。『いつか必要になる日が来る』と言ってな。俺も同じことを引き継いだ」


「引き継いだのではなく拡大した」


「そうだ。俺は父よりも優秀だった。毒の精製技術を飛躍的に向上させた。新しい毒を開発した。そして使い道を見つけた」


「使い道」


「政治だ。王家の命令がなくても、毒は政治の道具になる。邪魔な貴族を排除する。敵対する派閥を弱体化させる。そのために毒を使った。宰相とも手を組んだ」


「宰相は共犯者だったのですね」


「共犯者というよりは顧客だ。宰相は俺に金を払い、俺は宰相の政敵を排除した。王妃も宰相の標的の一人だった」


王妃が標的。穏健派の象徴である王妃を排除することで、宰相の権力基盤を強化する。


「使用人たちへの人体実験は」


「新しい毒の効果を確認するために必要だった。動物実験では限界がある。人体での反応を見なければ実用的な毒は作れない」


父の声には、罪悪感がなかった。


技術者の口調だった。効率と結果を追求する、冷徹な研究者の言葉。


「何人死にましたか」


「正確な数は覚えていない」


「記録はある。だが数えたことはない」


吐き気がした。


だが、吐くわけにはいかない。聞かなければならない。


「お父様は自分が間違っていたとは思わないのですか」


「間違い?」


父が、首を傾げた。


心から理解できないという顔だった。


「俺はヴァレンシア家の当主としての務めを果たした。毒の技術を維持し、発展させ、国の裏側を支えた。それが間違いだと?」


「人を殺しました」


「殺した。だが殺さなければ、別の誰かが殺されていた。政治とは誰が犠牲になるかを選ぶ行為だ」


「選ばれた人たちは選んでいない」


父が黙った。


初めて、返答に詰まった顔を見た。


「……リゼット。お前は俺より優れた薬師になった。だがまだ甘い。世界はお前が思うほど綺麗ではない」


「綺麗じゃなくていい。でも人を実験台にする世界は、変えなければいけない」


「変えられるか?」


「変える」


父が、微かに笑った。


嘲笑ではなかった。


「……そうか」


それだけ言って、父は壁に背を預けた。


目を閉じた。


面会は、終わりだった。


---


地下牢を出た。


階段を上がりながら、考えた。


父は、悪人なのか。


悪人だ。人を殺し、実験台にし、王妃の命を狙った。それは疑いようがない。


だが、父は、自分を悪人だと思っていない。ヴァレンシア家の当主として、役割を果たしただけだと信じている。


歪んだ信念。だが、信念だ。空虚な悪意ではなく、理由のある、間違った理由の、行動。


だからこそ、止めなければならなかった。


そして、止めた。


紙片に書いた。


——父の告白。ヴァレンシア家は建国以来の暗殺家系。王家の命令で始まり、命令が止まった後も独自に継続。


——宰相ヘルムガルトは毒の「顧客」。政敵排除の依頼者。


——父に罪の意識はない。「務めを果たした」と認識。


——遅効性疫病の解毒が最優先課題。処方箋の分析に取りかかる。

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