表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒花令嬢は二度目の人生で復讐を選ばない  作者: 黒豆子犬
3章 公爵家の闇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/76

第48話 エレノアの告発

エレノアが王宮のサロンで立ち上がったのは、朝の十時だった。


サロンには貴婦人と令嬢が十数名集まっていた。通常の社交の時間。刺繍をしながら雑談をする、穏やかな朝の光景。


エレノアが椅子から立ち上がると、全員の視線が集まった。


聖女が発言するとき、場は自然に静まる。それが、これまでの常だった。


「皆様にお伝えしたいことがあります」


碧い瞳が、サロンの全員を見渡した。


修道服の白い襟元に、手を当てていた。その手が、微かに震えていた。だが、声は震えていなかった。


「私は——聖女ではありません」


沈黙が落ちた。


空気が凍った。


「私が行ってきた治癒の奇跡は——全て、偽りです。渡された薬を手に塗り、祈る振りをして、患者の手を握っていただけです。治癒など——一度も起こしたことはありません」


ざわめきが広がった。貴婦人たちが顔を見合わせている。信じられないという表情。困惑。怒り。


フローリアが、動かなかった。琥珀色の瞳で、エレノアをじっと見つめている。驚いてはいなかった。知っていたのだ。


「薬を渡していたのは——ヴァレンシア公爵家の関係者です。六歳のとき、教会に来た男に——使い方を教わりました。逆らえばどうなるかも」


エレノアの声が揺れた。だが、止まらなかった。


「私は——嘘をつくことでしか生きられなかった。でも——それはもう終わりにします。騙してきた全ての方に——お詫び申し上げます」


エレノアが深く頭を下げた。


金色の髪が顔を覆った。


サロンが騒然となった。貴婦人たちが口々に何かを言い始めた。非難の声。同情の声。混乱の声。


私は、席に座ったまま、何も言わなかった。


エレノアが顔を上げた。碧い瞳が、涙を流していた。


だが、目は笑っていた。


仮面を外した顔。初めて、大勢の前で見せた、本当の顔。


---


エレノアの告白は、一時間で宮廷中に広まった。


昼までには王都の主要な貴族の耳に届いた。


聖女が偽物だった。奇跡は薬による偽装だった。操っていたのはヴァレンシア公爵家。


衝撃は大きかった。


聖女エレノアを信じていた人々、病の治癒を祈った者、奇跡に感謝した者、教会への寄付を増やした者、全員が裏切られた形だ。


だが、同時に、エレノアへの同情も生まれた。


六歳の孤児が、権力者に操られて偽の奇跡を演じさせられていた。逆らえば罰を受けた。聖女の仮面を被らなければ生きていけなかった。


被害者であり、加害者であり、同時に、勇気ある告白者。


世論は割れたが、エレノアの涙が、多くの人の心を動かした。


---


サロンが解散した後、回廊でエレノアに追いついた。


エレノアは壁に寄りかかっていた。足に力が入らないのだろう。顔は真っ白だったが、目だけが光っていた。


「やったね」


「……やった」


「震えてる」


「うん。——でも、止まらなかった」


エレノアが小さく笑った。


「嘘をつかなくてよくなったの。初めて。——嘘をつかなくて、いい」


その声が、嗚咽に変わった。笑いながら泣いていた。


隣に立った。肩には触れなかった。この子が必要としているのは慰めではなく、ただ、傍にいる人間だ。


「エレノア。これから——教会も、世間も、大変なことになる。あなたへの非難もあるだろうし、公爵家への追及も加速する」


「分かってる」


「でも——一人じゃないから」


「……うん」


エレノアが涙を拭った。


「リゼット。一つ——言っておきたいことがある」


「何」


「グスタフが——最後に来たとき。いつもと違うものを持ってきた。薬じゃなくて——手紙」


「手紙?」


「封蝋に公爵家の紋章が押してあった。中身は読めなかった。グスタフが持って行ったから。でも——グスタフの顔が、すごく怖かった。青い顔をしていた」


公爵家の紋章の封蝋。グスタフへの指示書か。


グスタフは逃亡した。だが、その手紙を持っている可能性がある。


「ありがとう。大事な情報よ」


「役に立てた?」


「すごく」


エレノアが微笑んだ。ぎこちないが、本物の笑みだ。


回廊の窓から光が差し込んでいた。朝の光がエレノアの金の髪を照らしている。


この子は、今日、生まれ変わった。


偽りの聖女から、嘘をやめた少女に。


失ったものは大きい。聖女の地位、教会の庇護、人々の崇敬。


だが、得たものは、それ以上だ。


自分自身の声で話す権利を、取り戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ