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毒花令嬢は二度目の人生で復讐を選ばない  作者: 黒豆子犬
3章 公爵家の闇

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第41話 帰還の毒

屋敷の空気が変わったことに、門を入った瞬間に気づいた。


使用人たちの目が違う。


以前は、リゼットお嬢様が通れば膝を折り、目を伏せ、丁寧な挨拶をしていた。怯えながらも、親しみがあった。薬草園で作った軟膏を分けたことのある女中。弟の看病を手伝ってくれた老執事。


今は、目を合わせない。


挨拶はする。だが、声がよそよそしい。壁に背を預けていた下男が、私の姿を見てさっと消えた。


玄関ホールで靴を脱ぎながら、カミラに小声で聞いた。


「何かあった?」


「昨日の夜から——使用人の半分が入れ替わりました」


「入れ替わった?」


「新しい顔の人が六人。見たことのない男の人たちです。執事のハインリヒさんが——お暇を出されたそうです」


ハインリヒ。二十年以上この屋敷に仕えていた老執事。リゼットが弟の看病をしたとき、黙って見て見ぬふりをしてくれた人物だ。


父が、屋敷の人員を整理している。


信頼できない人間を排除し、自分の目と耳になる者を配置している。


私への監視を、強化した。


---


自室に入った。


一見、何も変わっていない。ベッド、机、本棚、薬草辞典が並ぶ窓辺の棚。


だが、鍵の位置が違う。


机の引き出しの鍵は、常に鍵穴に対して三十度の角度で差してある。私の癖だ。前世から続く癖で、誰にも教えていない。


今は、真っ直ぐに差してある。


引き出しが開けられた。


中の紙片を確認した。薬草辞典に挟んでいたメモ類。


ある。全部ある。しかし、順番が微妙に入れ替わっていた。


読まれた。そして、元に戻そうとした。だが完全には戻せなかった。


幸い、本当に重要な情報はここには置いていない。


暗殺計画の分析も、防衛計画も、ケッテラーやグスタフに関する記録も、全て王宮の薬草園の小屋に隠してある。


屋敷に置いていたのは、薬草の処方メモと、日々の記録だけだ。


それでも、読まれたという事実が重い。


父は、私を監視する段階に入った。


---


夕食は、大食堂で父と二人だった。


弟のユーリはいなかった。


「ユーリは?」


「部屋で食べている。体調が良くないそうだ」


父の声は平坦だった。蝋燭の明かりが長いテーブルに揺れている。


料理が運ばれてきた。新しい使用人、見知らぬ男が銀の皿を並べていく。


鹿肉のロースト。季節の野菜のスープ。パン。


食べる前に、匂いを嗅いだ。


癖だ。前世から。料理の匂いの中に、あるべきでない成分が混じっていないかを確認する。


今日の料理には、何も混じっていなかった。当然だ。まだ早い。父は慎重な男で、ケッテラーの件で追い詰められている今、あからさまな手は打たない。


食事中、父は仕事の話をした。領地の管理、税の徴収、使用人の配置転換。淡々と、事務的に。


私への言及はなかった。王妃暗殺未遂事件のことも、ケッテラーのことも、宮廷薬師の任命のことも。


触れない。


それ自体が、圧力だった。


「お父様」


「何だ」


「ハインリヒさんに、お暇を出されたそうですね」


「古い人間は入れ替える。屋敷の効率を上げるためだ」


嘘だ。ハインリヒは優秀な執事だった。効率の問題ではない。


「新しい使用人は——どこから?」


「知り合いの紹介だ。心配は要らない」


心配しかない。だが、今は踏み込めない。


食事を終え、部屋に戻った。


---


深夜、薬草園に出た。


屋敷の裏口から出る。夜の庭は暗く、月明かりだけが道を照らしている。


薬草園の小屋に入り、蝋燭を灯した。


棚の奥に隠してある記録を確認した。全て無事。この小屋にはまだ、父の手が及んでいない。


だが、時間の問題だ。


記録の整理をしながら考えた。


父が使用人を入れ替えたのは、私の行動を監視するため。同時に、屋敷の内部を外に漏らさないため。


つまり、屋敷の中に、隠したいものがある。


本来なら、次に調べるべきは父の書斎だった。


だが、状況が変わった。使用人が入れ替わったことで、屋敷内の自由な行動が制限されている。


新しい計画が必要だ。


紙片に書いた。


——屋敷の使用人が半数入れ替わった。父の監視体制が強化されている。


——自室が捜索された形跡あり。重要書類は王宮側に退避済みで被害なし。


——ユーリの不在が気になる。「体調不良」が偽りである可能性。


——ハインリヒの解雇は、屋敷内の私の協力者を排除する動き。


——今後の行動:屋敷内での動きを最小限にし、父の警戒を緩めてから書斎に入る。


蝋燭を消し、小屋を出た。


夜の空気が冷たかった。夏だが、深夜の庭は冷える。


牛乳薊の白い花が、月明かりの中でぼんやりと光っていた。


あの花から作った抽出液が、王妃の命を救った。


毒を薬に変えること。それが私の武器だ。


父がどれだけ使用人を入れ替えても、どれだけ監視を強めても、私の頭の中にある知識だけは奪えない。


部屋に戻る途中、廊下の角で影に気づいた。


新しい使用人の一人が、暗がりに立っていた。腕を組み、壁に寄りかかっている。


私を見ていた。


「お嬢様。夜のお散歩ですか」


「ええ。薬草の様子を見に」


「こんな遅くに?」


「薬草は夜に観察するものもあるの。月光薊は——夜にしか葉を開かないから」


嘘だ。月光薊という薬草は存在しない。


だが、この男にそれを判断する知識はない。


「そうですか。——お気をつけて」


男が道を空けた。


通り過ぎた。背中に視線を感じた。


報告されるだろう。深夜に薬草園に出入りしていたことが、父の耳に入る。


構わない。嘘の理由を用意してある。


だが、小屋の中で何をしていたかは知られてはいけない。


明日、記録の隠し場所を変える必要がある。

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