第93話「起・唯一無二」
今現在歴2030年4月15日〈月〉ガナベルト駅ゆきの電車の中。
「ここまでされてアレだけど、おばちゃんがただの悪意だけでこんな事を続けたとは思えない」
それは桃花の純粋な今までの感情だった。それこそ今まで育ててもらった恩義しかない。むしろ善意だけでここまでしたのならそれはそれはそれで問題である。
問題となっているのは〈Gペンがいいのか〉〈ペンタブレットがいいのか〉という究極の二択問題だった。
そこで、過去の問題集を読み解いて〈唯一性〉や〈唯一無二〉という単語にぶち当たっていた。
「たぶん、GM姫ちゃんが決めていいんだとは思うけど。定義がかなり曖昧で、今後の原稿を左右する内容だから慎重に議論したいよね」
桃花は姫にそういう。Gペンで行くのかペンタブで行くのか? の話だ。
「ふむ……でも例え。〈ペンタブで印刷した原稿用紙はGペンと同じ効力を持つ〉とか書いたって、そのペンタブで描いた原稿画像は複数枚にコピー可能だ。よって〈ペンタブ原稿は証券用インクと同じ効果を持つ〉とルールで描いても〈唯一無二ではない〉となる。よってこのルールはあまり意味を持たない」
具体例としては、コピー能力を持つカービィは、ソラのキーブレードをコピーできないとかが当てはまる。コピーできるのは魔法のみで、鍵そのものはコピーできない。
Gペンで描いた生原稿はスキャンで、瓜二つにデジタルコピー出来るが、原稿&インクなど物質的な完全なるコピーではない。
ここで豆知識。
1. 法律的な解釈〈現代社会・契約のメタファー〉
法律における唯一性は、「特定物」や「不代替物」という概念で扱われる。例えば「直筆のGペン原稿」や「サイン入り単行本」がこれにあたる。
唯一性がある〈特定物〉場合、それが滅失すれば取り返しがつかず、代わりの物を渡すことはできないため、強い権利〈所有権〉で保護される。一方、書店に並ぶ「印刷された単行本〈不特定物・唯一性なし〉」は、破損しても別の同じ本で代替できるため、「替えがきく」存在として扱われる。
2. 量子力学的な解釈〈ゲーム・システムのメタファー〉
量子力学には「量子複製不可能定理〈ノー・クローニング定理〉」という絶対ルールが存在する。これは「未知の量子状態を、完全にコピーすることは物理的に不可能である」という定理だ。
通常のデジタルデータ〈0と1〉は完璧にコピーできる〈唯一性なし〉が、量子の世界〈状態の重ね合わせ〉は観測した瞬間に状態が変わってしまう。つまり、量子の世界では「セーブデータを丸ごとコピーしてバックアップを取る」ような真似がシステム的に一切許されない〈完全なる唯一性あり〉。
3. 唯一性がある・ない場合で起こる状態の変化〈分類〉
唯一性がある場合〈収束・不可逆〉:異世界サバイバルにおける「たった一つの命」や「一度しか使えないアーティファクト」。選択肢は常に「取り返しがつかない」ため、行動に強烈な緊張感と重み〈アウラ〉が生まれる。世界はひとつの運命〈絶対的な一本道〉に向かって収束する。
唯一性がない場合〈拡散・可逆〉:ゲームにおける「無限にリスポーンするモブ」や「コピー可能なデジタル原稿」。失敗してもやり直せるため緊張感は薄れるが、無限の試行錯誤や分岐〈マルチエンディング〉が可能になる。世界は無限の可能性のレイヤーとして並行して拡散する。
「このように、唯一性や唯一無二のことを再確認・再定義したとしても。〈要するにアナログで描けば上手く回る〉という結論になる」
マスターオブマスターが言ったように、世界を満たす光は1つだとしたら、それは風の妖精リスクの原稿が、世界でただ1つしか無いからである。と言った感じであるだろう。だからこそ、全ての世界が消えたとしてもリスク・フェイ・ケンチャ・フクロウあたりは残る。という言い回しになるのだろう。
「お母さんが薄味が好き、というのも、薄い鉛筆で描いた。ボールペンより鉛筆のような薄いノート味が好き。って事になる」
それは上手い絵というよりも、子供心の初心を大事にしたい思いやりなのだろう。
この唯一性・唯一無二の具体例は昔の思い出話で解る。
ある学校の授業中に、机の上にらくがきの絵を描きました。
友達が冗談半分で消しゴムでその絵を消しました。
怒った僕が「同じ絵をもう一度描けよ、消してやるから」と言いました。
これが、手書き&アナログで発生する唯一無二性である。
「なのでそこから導き出されるのは、作品が憎い訳ではなくコピーそのものが憎いか、敵だとみなされているか……じゃな」
パソコンは〈コピー〉や〈戻る〉が大得意である。そこが科学サイドと魔術サイドで決定的に相容れない関係だったのかもしれない。
WEBサイトの予約投稿に過剰に反応したのも、1サイトでの投稿でなく、2サイトで同じ内容をコピーして掲載しようとしたから。なら原因と話の筋は通る。
「どっちにしろ現代の科学と未来に逆行してるわね……」
過去しか見てないとも言う。
「別に科学に生きてもいいが、唯一無二性が欲しいならGペンじゃないと無理という話じゃろ」
「で、話を創作に戻して宇宙種シャドウについての定義確認をしておきたい」
GM姫は、これまた決めてないのに勝手に動いてしまった概念の〈見える化〉である。
◇
名前◇影羊フンヨウ
希少◇S
分類◇宇宙種_影・裏・闇・悪_飼い主は黒煌颯護
解説◇四重奏で概念系幻獣種を育てる枠がおらず、また信条戦空が育てる気も無かったので消去法で黒煌颯護が面倒を見ることになった。羊型の影、一応干支の〈羊〉、妖怪でもあり守護霊獣でもある。天上院咲や天上院姫の影の中に熊の守護霊重を忍ばせたことによりその存在が発覚。
プレイヤーの影に潜ませる霊獣を設定することによりテレビなどでその存在が害悪とみなされ対峙される処置が施される。
問題だったのは最初は自然災害で発生していたため発見が遅れ、意図的に生物である動物の守護霊獣を設定したことにより、現実の熊が殺害された事により。〈人の手で駆除出来る存在〉として認識されたことである。
次に、影・裏・闇・悪の具体的な定義化がされていなかったため。簡単に捕縛、除霊・駆除・境界線が曖昧だったことから発見と再教育が遅れた。
ので、まずこれらの定義確認をし、これら影・裏・闇・悪を一つに束ねてコントロール出来る存在がこの影羊シャドウである。
【食事で例え話をすると】
「表=客席〈ダイニング〉」であり、「裏=厨房〈キッチンおよび洗い場〉」。「裏」はネガティブな場所ではなく、表の光〈料理〉を成立させるために意図的に隠され、機能している必須のシステム空間である。
【詳細解説】
1. 客席〈表・光の恩恵〉
華やかな照明、美しい音楽、完成した料理〈創造物〉だけが存在する空間。客には「料理が作られる過程の苦労やゴミ」は一切見えない。
2. 厨房・バックヤード〈裏・システムの稼働領域〉
料理を作る火の手があり、野菜の切れ端や汚れた皿〈影〉が次々と集まってくる空間。しかし、ここはシェフや清掃スタッフの「管理の目〈光〉」が届いているため、ゴミは適切に処理され、皿は洗われる。つまり、影が発生しても「悪」にはならない健全なインフラ。
3. 厨房の死角・路地裏のゴミ箱〈闇・管理の及ばないポータル〉
「裏」の空間であっても、重い業務冷蔵庫の裏の隙間、長年掃除されていない排水溝の奥深く、あるいは店の外にある鍵の壊れた巨大ゴミ箱など。スタッフの管理〈光〉が届かなくなった純粋な「死角」。
4. 害獣の発生〈悪・受肉したシャドウ〉
スタッフが忙しさにかまけて、生ゴミ〈影〉を「冷蔵庫の裏の隙間〈闇〉」に落としたまま放置すると、そこで腐敗が進み、やがてゴキブリやネズミ〈悪〉が湧き出す。これが客席〈表〉に飛び出してきた時、初めて「災害〈バグ〉」として認識される。
〈ここで定義されている影とは?〉
ミュウの創造を「資産」とするなら、シャドウは「負債」であり、世界は常に「左右が完全に一致する帳簿〈バランスシート〉」のように成り立っている。影を倒す行為はマイナスをゼロに戻す「デバッグ〈債務整理〉」であり、新たな光〈設定や物語〉が生まれれば、宇宙の整合性を取るために影も自動的に拡張・深化する。
例えば「+10に対して-10の影が落ちる」「倒してもゼロに戻るだけ」「逃れられない等価交換」。
経済学的・簿記的な「ゼロサマリー」
ミュウが何かを創造する〈例:+10の新しい概念、生命、美しい自然)と、世界のエネルギー総量を維持するために、必ず裏側に「-10の未定義領域〈シャドウ〉」が自動記帳される。
主人公たちが現世で熊や災害〈受肉したシャドウ〉を倒す行為は、世界にプラスをもたらす行為ではなく、放置すると世界をパンクさせる「過剰な負債〈バグ〉」を清算して、帳簿を「本来のゼロ〈健全な稼働状態〉」に差し戻すメンテナンス〈債務整理〉である。+1があるからこそ-1が生まれ、それを処理することで初めて社会〈世界〉のサイクルが持続する。
◇
「こんな感じかな?」
「説明過多にも見えるかなあ~~……」
姫は必死に解説して、桃花はこの文字量じゃ漫画に落とし込めないと嘆く。
それに対して姫も反論。
「政治家が喋りすぎるからこうなる、漫画だけだったらこうはなっていない」
「それは、そう。ラジオ・ニュース・政治など、声を途切れさせるのが禁句になってるのが止まらなかったからこうなった。漫画や小説だけの世界だったら、こんな〈歪み〉は起こっていない」
そもそも量子論とか熱力学第二の法則なんて〈模写の絵〉では一言も書いてないので発見が遅れた。
「で、このシャドウ羊さんにはなに教育させるの?」
桃花はGM姫に、颯護に預ける前に再教育してから預ける様子である。
「とりあえず、影の中は自然災害に切り替えよう。普通の動物が殺されるのは見てて辛い……」
自然災害なら何やってもいいのか? とも思うが、とりあえず意図的な不自然さではなく、大自然に任せて元に戻そう。というニュアンスである。
「シャメシャメシャメ~~~~♪」
影羊フンヨウちゃんはこれまた元気に、自然災害の影を広げた。




