第77話「起・波動色の怒り」※ターニングポイント
今現在歴2026年5月5日〈火〉約22時00分頃。
吸血鬼大戦を支えていた天体が……消滅した……。永遠に見えて有限に燃え尽きる星のように。
「……一応動機を聞こうか?」
GM姫が消滅という寂しさ、繋がりを断ち切った事への後悔と、もう戻れないという虚無感だけがあたりを包む。
「……今を生きるのに、必要無かったから」
だからこそ、やはり〈守りたかった〉人達も居ただろう……。
やったのはやはり〈自分の手で決断した〉湘南桃花。
理由は色々ある。
時間が止まらなかった、消せたから、犠牲者を出し過ぎたから、消えるべき世界観だったから、バックアップデータはもう十分だったから。
しかし、歴史の重みを知っているからこそ、その歴史を自分の手で消すのは辛かっただろう。
「それでも消せる歴史だった、私にしか止められなかった……」
本体のサーバーというPCにその情報は無く、あったのは24時間動き続ける他者のPCサーバーに依存していた、24時間眠らないサーバーに頼るしか無かった。結果眠れない、という事象。今を生きる人達にあまりに厄災にしかならなかった。
もちろん、消せなかった個人的な理由もあったが、消しても意味は無いという理由もあった。桃花はその理由を口にする。
「また起こるよ、私がやらなくても、いつの日か、何世代か先に、必ず……」
「……そうかもしれない、未来の可能性は無限だ……」
GM姫は皮肉交じりに言う。
それは、単に桃花自身の体心が耐えられなくなったという個人の限界がきただけだと、彼女は論する。
故に警戒するべきは、携帯電話がスマホに変わったように、テクノロジーの進化の方だ。〈作れた以上、また誰かが作る〉……そういう意味だ。
「あんたはその時、またこの世界を守り切れるのか?」
本当に大切なものを失ったのか、守られたのかも解らない彼女は創造神に聞く。
「まあ、……お前がやってきたように、今できる範囲で、出来る事を全力でやるだけさ」
答えになっていない答え、ただ頑張る。としか言っていなかった。
折角の作品を〈消された〉のは〈薬のせい〉とか〈社会のせい〉とか〈世界のせい〉とか他責にしたくなるが、それでも今は、消滅した寂しさしか無かった……。結局のところ動機は〈寝たかったから〉しかない。
「1人で?」
「いや、皆でなんとかする。今回の旅は、きっとそういう旅だったんんだろう」
桃花の寂しさと姫の決意が浮き彫りになった。ただの人間とただの神という関係しか無かった。
「……ただ、好きな絵を描いていただけなのに……どうして……」
「その感情、忘れるなよ」
ただ当たり前のことを言う。〈そこに力〉などいらなかった。権力も財力も血族も叶える力もなにもかも……、必要だったのは好きなことを好きなだけ描ける環境だった……。それを否と判決する集合的意思を許せなかった。最もその怒りの矛先が向かうのは日本政府にある。
その先の結末はもう、誰も知らない。
◇
もちろんそんな重い決断を他のBIG4が許せるはずも無く。まず大激怒したのは天上院咲だった。
「何言ってんの!? 桃花先生の最高作品でしょ!? そこに動画とか漫画とかイラストとか小説とか関係ないじゃない!! ふざけんな! 桃花先生の作品は正しかった! そこに何の落ち度も無い!!」
「まぁまぁ……」
桃花は咲をなだめるが、いつもは温厚な咲もコレに関しては止まらない。
「弱くなった桃花先生と同じ土俵で戦いたくてVRゲーム作品を辞めた訳じゃない! 戦空だってそうでしょ!?」
戦空も作品のことに関しては話が違った、特に今回は最高作品だったわけで。
「あぁ! そんな世界に利用されるぐらいだったらそんな原稿はいらん! アナログが邪魔ならアナログ原稿はシュレッダー行きだ!」
「だよね?! そうなるよね!? アナログ原稿が安全!? そんな安全マージンをこちとらやってる訳じゃねーんだよ!! そんな覚悟なき者は去れ!!」
もう咲の激情は治まらない、世界のためでは無く共に生きてきた家族の為だ、怒らないはずが無い。
「まぁ最果ての軍勢はそんな作品は無いが……」
と、ちょっと体内温度を下げて咲は蚊帳の外の真城和季を見る。
「悪かったな最弱で……」
言いたいことは解るし、激怒する理由も解るのだが、これは桃花が決断した桃花の責任だ。桃花のレベルが下がったから皆もレベルを下げよう。という話になっている。
「姫ちゃんこの2人止めてー!!!! いやマジで!!!!」
GM姫もコレには困る。
「いや、これに関しては咲と戦空の方が正しい」
「いやマジでやめろって本気でやるぞこいつら!?」
桃花も冗談じゃ無いと食い下がる。
とはいえ、こんなゲーム進行は生まれて初めてだ。前例がない……。
世界の方も、いきなりレッドカードを突きつけるのもいかがなものかと思う。この場合、世界代表は世界種クールマだが。
「なぁ~~~~?」
クールマは何の話? 僕じゃ無いよ? と言った風である。そりゃそうだ、集合意識なのだから、どれがどれか解っていない。
「……んん~~、EWⅡの完成原稿って何枚だっけ?」
桃花はマサカ……と思いながら言質を言う。
「ご……五枚です……」
GM姫はゲームプレイのレフリーとしてジャッジする。
「じゃあさあ、今回は前例が無さ過ぎて、ゲーム的にも一発退場は酷だと思うから、クールマにイエローカード一枚ね。その代わりEWⅡ風の完成原稿のデジタル用とアナログ用を破壊します。復元不可能・回復出来ません。それを世界へのペナルティとして、咲と戦空の原稿は今回は止めて。アナログに対してのペナルティが無かったし、前例がないのもお前らなら解るだろ?」
当然、咲と戦空は煮え切らない感じだが、バカでは無いので納得出来てしまう。
特に咲と戦空の生原稿は1年間以上かかっている、それを損失することは世界にとっても大ダメージだ。
対するEWⅡは合計時間としては約3ヶ月のペナルティとなる、つまりやり直しだ。
その間にアナログについてのルールも整備しなければならない。どうも〈アナログ原稿不滅神話〉があるようだ。
ちなみにこれはEWⅡ風の第1章、つまりVS秘十席群の章まで、世界樹クールマのこのイエローカードは有効である。サッカーと同じ、イエロー2枚でレッドカード1枚分。つまりクールマはあと1枚イエローカードを貰ったら退場である。
「……ちなみにクールマ退場したらどうなっちゃうの……??」
「まあ普通だったら不利な人数的状況でゲームをプレイする羽目になるが……、まあそれはあとで考えよう。今回は完成原稿5枚破棄までだ」
優しいのか厳しいのか微妙なラインだが、これをしないと咲と戦空の原稿が本当に二度と無くなってしまう。2人を納得させるにはこれしか無かった。
「まあ、これが世界戦ってことで落ち着け2人共。和季、これで進めて」
「ん、解った」
というわけで、事後処理に入る。
《イベント波の方でルール違反発生! イベント風に〈波動色の怒り〉によって完成原稿5枚がアナログ的にもデジタル的にも破棄されました。復元や回復は出来ません!》




