第75話「転・試験官④」
砂漠に3発の銃声が木魂した。
「さて、ここまでで0.013秒だ。ついて来れたかな?」
アマ級には少々辛すぎたようだった、一発の弾丸が骨肉に深々と命中している。
刹那の弾丸は超自然現象を逸脱して、3弾中2発は防げたようだが、1発は当たったみたいだ。
「うごあ……この……クズが……」
南無三。遊歩としてはもっと遅くてもっと速い戦場を知っている以上「こんなもんか」と呟いた所で、蟹の怪物は倒れた。
咲サイド。
「ふーー……」
咲の方は、時間の揺らぎで乱れる心を、真心を込めて集中していた。
「こい」
牛試験官は、時が来たか、と感じる。流石にプロ級はついて来れたようである。
ここからは実力と文法のみで鳥肌を示さなければならない。
普通に森羅万象のワルツの連続攻撃をたたき込むのもアリだが、それだと二番煎じみたいになる。こういう敵は新鮮さというか目新しさの方が勝り。簡単に言うと〈同じ技は通用しない法則〉が当てはまる。
逆にあえて〈同じ技を繰り返す法則〉もあるっちゃある。はめはめ波とか螺旋丸とかそうだ。
それで走ったら面白くなるよ、と読んで実際に走ってみたら実際に走り始めてしまった、のは想定外だが。事の法則は〈同じ行動の繰り返しで読者に覚えてもらう〉というのが本質だ。
型を覚えた格闘家は強い。の法則同様〈同じ技を使うと相手が予測出来る〉からこその変化球が効く。効果があるし、熟練者なら逆に読まれない。というのがある……故に、前振りも伏線も何も準備してない単発の中ボス相手には……。
「……スキル〈森羅万象のワルツ〉……!!」
「ほう、その技で来るか……失望させるなよ」
あえて予測出来る技で今の実力を圧倒的な力でねじ伏せる戦法を咲は取った。
森羅万象のワルツは天上院咲のプレイヤーとしての秘奥義だ、意味は……特に意味は無い。なんとなく名付けているそこに理由はない。
技構成としては複数のスキルを組み合わせて、踊るようにスキルを連打する流動的な秘奥義だ。
〈斬空剣〉真空の飛ぶ斬撃が複数飛ぶ。
〈古今無双〉横薙に広がる広範囲の扇形の瞬撃。
〈太陽・大回転〉3回転して太陽の軌道上を回る。
〈超天元突破・巨神殺し〉ドリルを巨大化し螺旋を描く、竜巻の牙突。
〈雷速鼠動〉鼠の姿になり、雷速の体当たり。
〈エボリューション・極黒〉全ステータスが9999になる。
〈エボリューション・極白〉ログが残らないのでコピーできない。
〈森羅万象のワルツ〉8連撃・8属性の乱舞。
ここまではプロ級牛試験官でも予測出来る。
だが、ここまで前置きをしておいて〈同じ技で来るはずが無い〉と牛は思っている。加えて今は真昼ノ剣と真夜ノ剣がレベル2の状態だし、おそらく二刀流で森羅万象のワルツを出したことは無いのではないか……?
ここまでは咲も〈予測できる〉。
つまり前提条件としてこの上を超えなければ鳥肌も何も無い。
まず咲が試した行動、それは……。
「……――!」
喋らないことだった。
即ち――。
「!? 無演唱魔法か!?」
牛は叫んだ。
だが咲はただ突っ立って無演唱魔法をしているわけではない。前のめりに、全速力で走ってきた。
〈斬空剣!〉
ゲーム的なウインドウで技名が画面に表示されるが咲は叫んでいない。即ち、体の行動が斬空剣――しかし!
〈ダブルスキル!〉
咲が小さく呟く、力強く。
それ即ち、2重のスキルを同じタイミングで1人で発動すること。〈行動用のスキル〉と〈意志用のスキル〉が別々で2重に重なった。
〈古今無双!〉
扇形の横薙ぎが牛にめり込むが、牛の両翼が動かない……!?
〈アブソリュート・九天!〉
絶対零度の固定型氷結魔法。
「……――!!」
なおも無言、それでもなお進む。
「ぬおおお!?」
牛試験管が波動色を纏った斧で応戦し、振り下ろす!
〈《太陽・大回転〉
〈リコリスの花火〉
行動は大剣を振り回すように大回転し、意志は背景が彼岸花の炎で爆発する。その火花は消えることはない。
同じ技が通用しない牛試験管は猫だましでひるんだ、故にこそ、学習する。
「まだある!?」
そう、行動と意志と発声がまだあると、予測出来る!
〈超天元突破・巨神殺し〉
〈鈴の音空間!〉
「トリプルスキル! ――〈反響〉――!」
ここで発声、しかしスキルは音技の反射だった。
〈行動〉で天を貫くドリルを展開し、〈意志〉で無限の空間を展開しその中で全能となり、〈発声〉の反響で相手のスキルを反射させ相殺させる!
この牛試験管が襲われている現象と言えば……。
(こいつ……行動と意志と言動が、全く一致していない……!?!?)
しかして技は3重に重なって、ワルツとして成立している――!!
〈雷速鼠動〉
〈真昼ノ剣・真夜ノ剣〉
「嵐!!」
行動で夢の国の雷ネズミの速度で走り、意志という無演唱魔法で真昼ノ剣と真夜ノ剣を展開、昼と夜の境界線に牛は否応無く立たされる中で、発声が一声で嵐を呼ぶ!
「エボリューション・モノクロの極み!」
エボリューション極黒と極白の順番で予想し、またトリプルタスクを警戒していたが今度は真逆、行動と意志と発声を完全に一致させた連撃。即ち、ステータスMAXとステータスのログすら無い、黒と白の斬撃が、双剣のオートアシスト機能によって完璧に制御され、肉声と心体の一致した重みのある斬撃が牛試験管を刺激する!
「この……舐めてた、予想以上だ!」
トリプルタスクとシングルタスクをその時その場で使い分けている。器用とか器量とか手順とかのバリエーションが多すぎるし即興で変化球を投げてくるので全くイメージ通りにいかない!?
そしてラスト!
「森羅万象のワルツ!!!!」
右手に昼、左手に夜を持ち、火花を散らしながら進むゆく魔法の中、彼女の連撃は進化した。
即ち、手加減など一切なしの。18属性18連撃の斬撃の乱舞!
「でりゃあぁああああぁあああああああああああああああああぁああああああああああああああああぁあ!!!!」
普通! 心氣! 自然! 文法! 環境! 色彩! 強化! 賢術! 光闇! 精神! 未覚! 声質! 元滅! 機械! 時空! 全王! 運動量! 結界! の乱舞により、プロ級牛試験管は撃沈した。
戦いの余韻の痕……牛の怪物は砂漠の地面に膝をつき、そして倒れた。
「見事、流石の練度だ。期待に答えて予想を裏切る……天晴である……」
「ふう……どうも」
咲は真昼ノ剣と真夜ノ剣をイベントリの鞘に収めた。
「……アドバイスをするなら、もう少し冷静さと落ち着きが必要だな。推敲が足りない、先走り過ぎだ……」
「……どうも、知ってる……」
咲も理解しつつ、牛試験管は役目を終える。
「さあ、行くがいい、冒険者よ、お前らはまだ、探求の旅を続けるんだ……」
そうして中ボスは、ポリゴン片となって消えた。




