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短いです
「タラオさん、今、夢幻城のボスのバグが面白いことなってるそうなんで、行きませんか?」
そう、超お久しぶりのソウメイさんに誘われたので、二言返事で「イクイク」と言ったら、「タラオさん、そういうことは……」と言われ、変わんねーなこの人は……と思った。
「ところで、どんなバグなんですか?」
「んー言ってもいいけど、初見の方が楽しめるとおもうよ、ソウメイは」
「それもそっすね」
「うんうん、たのしんでいこー」
「うぃーっす」
過疎鯖(人のいないサーバー)で、2パーティー分、募集する。枯れ落ちた永遠の冬の世界のサーバーで、私、ここの景色結構好きなんだよね。
モノクロームか、墨の濃淡で描かれたような、うらさびしい延々の枯れ葉と野の世界でさ。
ひとりだけ、ぽつんと立ってると、なんとも言えない哀愁があって、割と好き。
でも今は、英雄の石碑の前で、条件叫びながらパーティーを組む。
今日のタラオは、新規実装された夜の住人、ダークウォーカー。攻撃と一点特化状態異常系の支援職ですね。武器は、ブレインウォッチャーという、浮遊系の暗器というのかな? 暗器だけど、いつも出てるから、隠れてねーんじゃねーの? という気もするタラオである。
こまけーこたーいーんだよ!
無事、指定職もそろったので、12名、で、どぅーんと、夢幻城の迷宮へ入っていく。
二手に別れて、雑魚を蹴散らしながら、トリガーの『亡者の墳墓』『日照の祭壇』まで行き、そこの中ボスをそれぞれ倒すと、
ぱりーーーーーん
てエフェクトがかかって、異次元に飛ばされるんだな~。
んで、2パーティー合流って運び。
おっしゃ、きたぜきたぜきたぜ、異次元空間は、歪み渦巻く位相が空を覆い、舞台となる石の闘技場はぐるぐる回転している。
空から降りて来た夢幻の悪魔は、紫色の肌に、見事に盛り上がった肉体美を黒と赤のマントに包み、暗黒のオーラを放っている。どちらかというと、マジックキャスター系統の装備で、長いローブは、めっちゃレアものな感じだ。剥ぎとりたい。欲しい。捩じれた黒い角、真っ赤な襞襟、そいつが、口上を――
「よく来たな♡♡♡」
んん……は?
「待ちわびたぞ♡♡♡」
うん……
「長い♡♡♡長いこの刻を♡♡♡」
……あー……バグ、バグね。もしかして、「……」が全部、♡になっちゃってるのかな。
なんか、それっぽい、かっこいい口上をしてくれるんだけど、全然頭入ってこないよね。
「タラオよ♡♡♡我は汝が欲しい♡♡♡」
ぶっふぉ……思わず、リアルふいちゃったよぉ。ふぁー、別ゲーになってきたよぉ!?
「そうか、我の手を拒むというのか♡♡♡ならば、冥府にて、後悔するがよい♡♡♡!!!!!!!」
ばりーん!!!!
って、ガラスのように、位相空間は砕け散って、空がまがまがしい赤と紫に染め変わる。
俺はもう瀕死ぜよ。
ヤンデレかよ。ヤンデレなのかよ!?拒むと、包丁かな!!????? 愛が重すぎて、殺意波動目覚めちゃった系かな!!!!???
「ソ、ソウメイさん……」
「ね、初見がよかったでしょ」
「初見殺し過ぎますwwwwwww」
倒すけどね~~~~!!?
ちょこまか支援入れつつ、条件満たすまで、ブレインウォッチャーぶん回して、エレメント揃った時点で、ぶっぱした。
「うぃーっす、耐性ダウン入りました~」
ダークウォーカーの目玉は、耐性ダウン異常状態。デバフ耐性が下がりまくり、めっちゃ入る。ボスの異常状態耐性って、かなり高めに設置されてて、守備ダウンとか入りにくいからさ。下げないと、ほとんど攻撃通らないんだよね。
んで、みんなで凹殴りして、勝ったよね。はい。
「滅びは夢♡♡♡夢はまぼろし♡♡♡タラオよ、汝が我を退けようとも、我は常に汝とともに♡♡♡」
ただのヤンデレだった……背後振り向いたらいそう系だな、こえーよ、さようなら。えいっ。とどめ刺しました。
でも、日課にします。レアドロップしろしろしろしろ。