7話
「さて!まずは具体的な活動内容について、説明しようか!」
フレイは相変わらず溌剌とした声で続ける。
「簡単に言っちゃうと、魔道具のアイデアを出して実際に作るって感じなんだけど魔道具の説明からした方がいいか。と言っても、概要くらいは分かるよね。はい!ロベール君!」
教師が生徒に発言を求めるように、指をこちらに向けるフレイ。
「魔石を核に、魔法が使えない人でも魔法が使えるようにした道具の総称だろ」
「正解!より正確に言うと、魔力を魔石に流すことによって魔法を発動させてるわけだね。あーしら平民は魔力はあるけど、それを変換するための文様がない。だから、魔道具はとってもありがたい存在なんだよ!高いから、滅多に買えないけどね」
確かに、魔道具は根の張るものばかりだ。貴族が家を売り払ってやっと手が届く程の一品も、珍しくない。
「次に作り方!とは言いつつ、魔石を基に道具を作る工程は実家が鍛冶師のアーサーが一人でやってくれてるんだけどね。だから、あーし達のやることはどんな魔道具を作りたいか方針を考えることと、それに沿った魔石を持ってくること!」
魔石とは、魔物の心臓部位である。魔物は自身の魔力を魔石で変換し、攻撃を行う。火を噴いたり、体を硬質化させたり。その攻撃パターンは一つの魔物に対し、一種類しか存在しない。なぜなら、魔石の変換の方向性は一つに限られるためである。
魔力を火に変換する魔石ならば火以外に魔力が変わることはないし、水に変換する魔石があれば水以外に魔力を変換することはできない。
「自分で魔物を狩ってくるのか?」
魔石が魔物の中にしか存在しない以上、取得手段は討伐一択となる。お金に余裕があるのなら、冒険者に依頼を出すのも可能だろうが一学生にそんな余力はないだろう。
「低ランクの魔物ならそれでもいいけど、中~高ランクの魔物は狩りに行くわけにもいかないよ。だから、そういうものが欲しい時は市場に出回るのを待つしかないかな~。毎日町を出歩いて、目当ての物を発見次第即買い!」
フレイはばっと手を振りかぶり、体で獲得の瞬間を表現した。
それにしても出会った時から軽く感じてはいたが、テンション高いな。けれど、嫌悪感は感じない。むしろ周りには冷静な人間が多かったからか、何だか新鮮だ。
「そんな金、あるのか?」
「ないから、そこは稼ぐんだよ。冒険者としてね」
そう言って、フレイとアーサーは冒険者証を見せてきた。
なるほど、それなら学生でも金を稼げるわけだ。
「それで、何かいいアイデアは思い付いた?」
フレイは眼を輝かせ期待感を煽るような言い方で、問い掛けてくる。
目線を逸らそうと、横に顔を向けると部屋の端にいるアーサーと目が合う。部室であるにも関わらず持て余すようにして座っている彼の目には、フレイと同じように期待が宿っていた。
「そんなすぐには思い付かないな」
「そうだよねぇ。まあ思い付いたら気軽に言って!具体的な性能とかじゃなくて、こんなのがあったらいいなぁみたいな願望でもいいからさ!あーしらもどんどん言っていくから、ロべっちも気になったことがあったらどんどん意見していって!」
落胆されると思ったのだが、彼女達はそんな素振りは一切見せず切り替えるようにそう言い放った。
そして、こちらに来いと言わんばかりに手招きをする。
「見て!この棚にある道具はね、全部うちで作ったものなんだよ」
部室の四方には本棚が広がっており、中にはびっしりと魔導書やら論文やらが敷き詰められている。しかし、一方だけは書物ではなく様々な形をした道具がこれまたびっしりと詰め込まれていた。
フレイは無造作に突っ込まれたであろうがらくた達から、人形らしき物を引っ張り出す。
「これは火吹き人形っていうんだ!魔力を流すと、口から火を吐くんだよ」
見た目は完全に藁人形だが、呪いとかで攻撃するんじゃないのか。
「とっさに攻撃できるから、冒険者の間でちょっと人気になったみたいで結構売れたんだよ!先生達にも褒められたし」
学園のパンフレットに乗っていた魔道具研究会の実績は、これのことだったのか。
確かに武器もない状態で魔物と対峙した際、この人形があればかなり心強い。それに火起こしにも使用できる。そう考えると、ヒットしたのも納得だ。
「この人形のヒットを受けて、土が噴き出るバージョンも作ったんだけどこっちは赤字だったね~」
威力にもよるだろうが、確かに土が出たところで魔物が怯むとは考えづらい。目くらましくらいにはなる気がするが、わざわざ買わなくても地面を自分で掴んで取ればいいだけの話だ。
「あとはこれ、このティーポッド!」
「何の効果が?」
見た所、サイズも見た目も市販のものと変わらないみたいだが。
「まあ、飲んでみたら分かると思うよ」
そう言うと、フレイはティーポットに茶葉と水を入れお茶を作り始めた。
彼女が茶を入れている間、俺は山のように積まれた魔道具達を見て回る。先ほどの人形以外にも、星形の皿や手触りが鎧のように固い靴下など様々なものが存在しており、中には形容しがたいような形をしたものまであった。
きっと、この道具達、そして部屋中の書物は彼女達が研究に研究を重ねた証なのだろう。試行し、失敗し、また試行する。これをずっと繰り返してきたのだろう。
そうして、この部室の軌跡に思いを馳せていると「できたよ~」というフレイの声が聞こえてくる。
二人分のカップに茶を注ぐと、部屋の中央にある円形の机に乗せ俺とアーサーに差し出す。俺はそれを飲もうとカップに手を掛けるが、とある違和感に気付く。紅茶を注いだフレイ自身のカップがないこと、そしてアーサーの顔が今までみた中で一番引きつった笑みを浮かべていたこと。
とはいえその程度の違和感で、せっかく注いでもらったものを無下にするわけにもいかない。俺はカップに口を付け、中の液体を流し込んだ。瞬間、あまりの不味さに思い切り吐き出す。
「がッ、ごほっごほっ」
何だこれ。不味いのは不味いのだが、なんというかそういう次元じゃない。というか、飲み物じゃない。いや、体に取り込んでいいものじゃない。
「あはははは!」
フレイが腹を押さえながら、大笑いしている。俺は彼女に睨みをきかせつつ、目の前の液体についてもう一人の部員に問い掛ける。
「何だ、これ」
「ひっ」
申し訳なさからか、それとも俺の表情が怖かったのか、アーサーは少し怯えながら答えた。
「ふ、フレイが使ったのは、淹れたものを全てゲロ味にする魔道具です」
アーサーが答えると同時に、俺は責めるような目線でフレイを見る。しかし、その目線の先に彼女はいなかった。首を左右に回しながら探すが、見当たらない。すると、アーサーが出口の方を指さした。つられて視線を向けると、扉が開いている。…逃げ足、はやいな。




