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6話

「ごめんね、面倒な頼み事しちゃって」


「別に、構わない」


 頼み事というのは、彼女達が所属している魔道具研究会の道具製作を手伝って欲しいというものだった。技術的なことでなく、発想的な面でアイデアが欲しいとのことだったのでそれくらいならと了承したのである。


 そうしてフレイ、アーサー、ロイの三人は先ほどまでいた第三校舎近くから部室棟を目指し歩いていた。


「頼んどいてあれだけど、受けてもらえるとは思わなかったよ~。ねえ、アーサー」


 急に話をふられたアーサーは、体をビクンと震わせながら返答する。


「た、確かに。他の貴族の人達にもお願いしてみたけど、頼むどころか話をしようとした瞬間にあしらわれちゃったし」


「そうなんだよ!だから、本当にありがと‼」


 体の前で手を合わせ感謝を示すフレイ。俺はその姿を見て、チクッと鈍い痛みを感じる。

 リーナのアドバイスを受け平民との接点を探していた俺にとって、今回の話は渡りに船だった。助言通り大衆の実態を知ることができ、さらに見事頼み事を解決できた際には革命が起こらないように協力してくれるかもしれない。解決できなかったとしても平民の知り合いができるというのは今後大きな利益となるはず。


 そんな打算を抱えているため、曇りの無い百パーセントの感謝というのは少し罪悪感を感じる。バツの悪さを振り払うように、俺は会話を再開した。


「そういえば、なんで貴族に協力を求めてるんだ?」


 わざわざ貴族に頼むより、同じ平民協力してもらう方が簡単な気がするが。


「いや~、最初はクラスの子達に協力してもらってたんだけど、目線が同じだからか発想がマンネリになっちゃてさ。新しい視点を取り入れたいな、と思って貴族の人達に声を掛けてるってわけ」


「なんでそこまでして」


 深い意図はなく純粋に疑問に思ったから問い掛けたのだが、フレイやアーサーは少し陰を帯びた表情を見せる。


「ロべっちも見てたでしょ、ナタリアが目の敵にされてたの。あの子とあーし達が所属してる魔道研究会は、いつ潰されちゃうか分からない。だから、潰される心配がないようなでかい実績を出す必要があるの」


 と、フレイは真剣な面持ちで答える。


 確かに、一時的に回避したものの今後もミリアリアはナタリアを学園から追い出そうと取り潰しの動きは続くだろう。危機を完全に脱するには、文句の付けようの結果を見せつけるしかない。


「微力だが、協力する」


 自分達の居場所を意地でも守って見せるという決意に充てられ、俺はそう発していた。


「話は変わるが、ナタリアはいつもあんな感じなのか?」


 先ほどから気になっていたことをぶつける。貴族が苦手なのは分かるが、誰に対してもあんな態度を取っていたら敵を作りすぎる。下手に出るとまではいかないまでも、衝突を避けるような無難な対応をした方がいいだろう。それとも、何かそうできない動機があるのだろうか。


「う~ん、そうだねぇ。貴族様相手だといつもあんな感じだよ。でも、ミリアリア様以外の大貴族以上の方達なら、人が変わったみたいにいい子で健気な女の子って感じで接するんじゃないかな」


「それは、さすがに大貴族相手だと分が悪いからってことか」


「いや、玉の輿を狙って」


「…玉の輿?」


「あの子、結構狡猾だからね。機会があったら、蛇みたいにじっくりと確かな足どりで権力を手にするだろうね」


 つまり、一回目の人生でナタリアが俺に柔らかな笑顔を携えながら接近してきたのは、権力目当てだった。そして、今回はこの二人が俺を王太子と認識しなかったように、ナタリアに王族と認識されず一介の貴族だと思われたのか。


 初めから愛などなく、打算だった。この事実はさらに俺を絶望の淵へと沈ませた。軽く吐息を漏らしそうになるも、ぐっとこらえ気を紛らわせるように再度質問を送る。


「ナタリアのことよく知ってみたいだけど、三人は昔からの知り合いなのか?」


「そう、昔からの仲、幼なじみってやつ!同じ村出身なの。正確に言うと、あーしだけ違うんだけどね。まあそれはともかく、ナタリアとアーサーとは子供の頃からずっと一緒だったんだよ!そういえば、ロベっちは幼馴染とかいないの?」


 幼馴染か。昔からの知り合いという意味ならリーナとミリアリアが当たるだろうか。しかし―


「いるにはいるが、幼馴染とは言えないような」


「そうなんだ。仲悪いの?」


「仲が悪かったというよりは、向こうに関心が無かっただけな気がするな」


 リーナもミリアリアも血筋だけでなく、魔法の実力もカリスマも俺より何倍も優れていた。だからこそ、かつては嫉妬を感じてしまっていた。だけどもしその嫉妬を最初から抱かず接することが出来たのならば、フレイ達のような関係と言えずとも、何かしらの関心を抱かれていたのかもしれない。


「関心が無いってことは、ないんじゃないかな。きっとそう見えてるだけだよ!それか、アプローチが間違ってたか」


「アプローチ?」


「例えばさ、運動好きな子に本の話をしてもあんまり意味ないでしょ。きっと、その子の興味がロべっちと合わなかったんだよ。だからさ、今度はその子の興味のあるものの話をしてあげなよ。その子は何が好きなの?」


「分からない」


 そう返答すると、フレイは心底呆れた表情になり


「そりゃ関心持たれないわけだよ」


 と呟いた。


 確かに好きなもの、興味のあるものが全然分からない。俺は民衆だけでなく、彼女達も見ていなかったんだな。


 しょぼくれた俺を見ながら、フレイとアーサーは小声で相談し合う。


「落ちこんじゃったよ!どうしよう?」


「と、とりあえず、何か違う話題を提供すれば、良いと思う」


「そうだね」


 フレイは俺の隣に位置を移動し、こほんと咳払いをしてから話始めた。


「いや~今日も雲一つない晴天だね~。気温も高くなってきてるし、夏がやってきてるって感じだよね」


「…そうだな」


「ロべっちはさ、夏になったら何やりたい?」


「特には」


「しゃあさ、夏の食べ物だと何が好き?」


「特には」


「…」


 ひきつったような笑みを浮かべたフレイは、アーサーの元へと駆け寄りヒソヒソ話を再開する。


「あーし、だいぶ頑張ったよね⁉」


「た、確かに」


「次はアーサーの番だから」


「え」


 今度はアーサーが俺の目の前まで来ると、コホンと咳払いをする。


「こ、これは僕が十歳の頃の話」


「まさかのエピソードトーク⁉」


 フレイが、驚きの表情を見せる。


「当時僕を巡って村中の女子が毎日戦争を起こしてたんだけど、そんな日々を煩わしく思ってたんだ。だから、この学園に来た。僕の魅力に焼かれない運命の女の子に合うために」


「…ちょ~とごめんね」


 フレイがアーサーを引きずり道の端へと移動する。


「どういうツッコミを想定してたの?」


「い、いや「お前みたいな根暗にそんな経験あるわけないだろ」みたいな反応が、あると、思って」


「そんなこと、言えるわけないでしょ!」


 フレイは肩を竦め、アーサーを連れながら元の位置に戻る。


「ご、ごめんね~、さっきのは全部嘘だから。気にしないで」


「そうなのか」


 さらに気まずくなった空気を携えて、一向は目的地を目指し進む。


「あ、着いたよ!」


 フレイが指さす先には、校舎の二倍近くはあるだろう建物が建っていた。部活棟である。

 部活棟を解説するには、まず部活動そのものから解説しなければならない。部活動にも三種類が存在し、校舎と同じく王族もしくはそれに近しいものしか所属できない王等部活動。貴族しか所属できない貴等部活動。そして、平民が多く所属している通常部活動。それぞれ王等、貴等、通等と呼ばれそれぞれに適した部活棟が存在する。


 要するにこの学園には、三つの部活棟が存在するというわけである。


 そして今彼らが足を踏み入れたのは、第三棟。大きさも広さも内部設備も一番下であるが、それでも数百人程度は収容できる程の施設であった。

 部活動にはそれぞれ部室が与えられる。そして、 部活棟の側には部活棟と同等の広さを持つ校庭が存在し、運動部はそこで活動する権利を与えられるのだ。


「あーしらの部屋は、十階ね!」


 三人は階段を使いながら移動する。


「それにしても、こっちにも魔道階段欲しいよね~。十階を階段移動はキツ過ぎだよ~」


「魔道階段?」


「あれ、ロベっちは知らない?魔道階段っていうのはね、魔道具の一種で階段が魔力で勝手に動くんだよ。自分で歩かなくても、乗ってるだけで着くらしいよ。貴等にはあるはずだけど」


 知らなかった。まあ、でも何も部活動に入っていなかったのだから当たり前か。


「はあ、はあ、やっと着いたぁ」


 軽く息切れしながら一向は目的の階に辿り着いた。フレイは、ずらっと並んでいる扉の一つに手を掛け開く。


「ようこそ!我が魔道具研究部へ!」


 開いた扉の先には、五人程が限界であろう空間。そこには、魔法に関する書物や何かが書かれたメモ用紙等が散乱していた。


「ごめんね、ちょっと汚いけど遠慮せず入って」


 フレイに導かれ部屋の中へと足を踏み入れる。


 部室の四方に設置してある本棚には書物がびっしりと置き連なっていた。その本棚には論文だけでなく、日記から童話まで魔法に関係すると思われるものならありとあらゆるジャンルが存在しているようだ。


「あーしらは、ここで日夜みんなの暮らしが良くなるような魔道具を発明できないか研究してるんだ!そして、今日からは君の仕事でもあるのです。改めて、これからよろしくね!」


「ああ、よろしく」


 俺は指し出された手をしっかりと握り返す。握手の感触とともに、なんだか不思議な連帯感が生まれた気がした。

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