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4話

「久しぶりですね、兄上殿を学園で見るのは」


「部屋にいてもしょうがないからな」


 前回、前々回の人生を含めて、家の本は学園のパンフレットにいたるまで読み尽くし現在二週目に入っている。パンフレットの読み込みは完璧で、学園の成り立ちから各部活の活動実績まで把握済だ。だから、本当に、家にいてもやることがない。

 でも、死ぬよりはマシだと閉じこもろうと思ったのだが、リーナのお陰で少し希望が見えた。


 まあ今回もダメなら(この国の王太子として生まれた以上それだけは避けたかったが)国外逃亡しよう。


 眉目秀麗な二人が話している場所は王立エコール学園。国中の才有る者が集う学園である。

 入学条件の難易度は世界でもトップクラスであり、入学した時点でエリートコースが約束される。ただし、その恩恵を預かることができるのは貴族のみ。


 命を落とした後、目覚めるタイミングは決まって学園の第二学年、年で言うと十六の頃だった。

 つまり、あと二年間は学園に通わなくてはならない。これから、沢山の人に会うことになるだろう。しかし、等身大で接しそれぞれの思いの丈を見ていけば、必ず革命阻止の糸口が見えるはずだ。


 二人は校門を後にし、校舎へと足を進める。


「そういえば、先日頂いた菓子なのですがとても美味でした」


「それは良かった」


「どこで買ったのですか?」


「ドゥスール・エクスキーズっていう店だけど、破産するぐらい高かったから気を付けろよ」


「問題ありません。稼いでますから」


 さすが成績優秀、容姿端麗の才女。集財の才も持ちのようだ。


 そうこうしている内に校舎へと辿り着く。

 エコール学園には三つの校舎が存在する。まずは、学園の中央に存在し王宮と並ぶ程の荘厳さを備え、大貴族や王族が通う第一校舎。遠目から見ても優美さを備えるその構えは、王宮と並び王都の象徴にもなっている。

 そして、第一校舎には劣るものの大理石をふんだんに使用しながら建築された第二校舎。第一校舎に次ぎ王都のシンボルと言っても過言ではないだろう。その第二校舎には通常の貴族が通う。

 最後に第三校舎。木造で簡素的な作りのこの校舎には貴族以外の者達が通い、取り立てて語られることはない。


 俺とリーナは校舎の扉を開き、玄関へと踏み入れようと足を延ばす。その最中少し違和感を覚える。いつもよりも騒がしい気がする。どうしたのだろうか。

 ざわめきに耳を澄ますとどうやら、第三校舎でトラブルが起きているらしかった。その校舎で騒ぎが起きているということは、平民間もしくは貴族と平民のトラブルだろう。平民間のいざこざがこの第一校舎に伝わるとは思えない。恐らく後者だ。


 この時期の貴族と平民間のもめごと…嫌な予感がする。その予感が的中しないことを祈りつつ、俺は第一校舎から第三校舎へと向かった。

 現場に到着すると、既に野次馬で溢れていた。俺は人混みを掻き分け、騒ぎの中心へと歩を進める。

 周りから聞こえる情報だと、何やら複数の女生徒が一人の女生徒に向かい攻撃しているらしい。どうしようか思案しながら野次馬を抜けると、そこには見知った顔が二つ並んでいた。


 …嫌な予感が的中してしまった。囲んでいる生徒の中心に陣取っている少女。彼女は紫銀色の髪を絹糸のように背へと流し、思わず息を飲んでしまう美貌とそれに相応しい肢体、そして服飾に身を包んでいる。

 対し絡まれている少女は黒髪を肩口まで伸ばし、こちらも紫銀色の彼女に劣らない美貌を携えていた。しかし、彼女と比べると質素な衣服に身を包んでおり、そういった意味では少し見劣りしてしまう。


 紫銀色の彼女こそが俺の現在の婚約者であり、この国を牛耳る三代貴族でもある侯爵家スキール家息女ミリアリア・スキールである。

 そして、そんな彼女に対している黒髪の女性こそが平民出身でありながら、光属性という希少な才能を見込まれこの学園に入学したナタリア。ロイの一度目の人生での伴侶だ。


 状況を見るに、侯爵令嬢であるミリアリアが平民であるナタリアに絡んでいるのだろう。正直、こんな光景は数えきれない程見て来た。


 ナタリアは校内模試学年一位を年間維持し、体育祭では得点の配分不正を捻じ伏せ第二校舎を下し平民が多く在籍する第三校舎を二位にするという快挙を成し遂げた。

 また、学園外では冒険者として活動しており、そこでも並外れた成果を上げ学生の身でありながら国内有数のAランクにまで辿り着いた。

 これらの出来事から、彼女はいまや大衆の希望の星となり国中の注目を集めている。それが気に食わなかったのか、ミリアリアはナタリアに対しことあるごとに嫌がらせを行っていた。


 今回もその一環なのだろう。さすがに近くまで来た以上仲裁しないわけにはいかない。一応は関係者だからな。

 だがこれまでは仲裁の際、一方的にミリアリアを責め立て糾弾していた。多くの場合が立場を利用し、中傷している状況であったためである。それが積み重なり、最初の人生では婚約破棄に至った。

 しかし、今ならそのやり方では外見的にすこぶる印象が悪いと理解できる。平民である彼女を王家が片面的に擁護している状況は、他の貴族からも反感を買ってしまう事態になりかねない。双方の主張を聞いた上で、論理的に解決しないと。


 俺がどうしようかと思案している間に、彼女達は剣呑な雰囲気をさらに加速させていく。


「何?」


 ナタリアはミリアリアと取り巻き達をものともせず、毅然とした口調で問いかける。


「あら、もう一度言わないといけないの?そんな記憶力でよく学年一位を取れたわね。もしかして、教師を買収でもしたのかしら。ああ、ごめんなさい、そんなお金あるわけなかったわね」


 ミリアリアの嫌味ったらしい皮肉を受け、取り巻き達が甲高い笑い声を上げた。

 彼女の挑発に少しむっとした表情を見せるも、ナタリアは構わず通り抜けようとする。


「用が無いのだったら、これで」


 踵を返し、校舎へと向かうナタリアを取り巻き達が取り囲む。信じられないといった表情をしながら。


「平民風情がミリアリア様を無視するなんて、恥を知りなさい!」


「そうですわ。あなたのような人間にナタリア様が言葉を掛けるなど、本来一生ありえません。ありがたく傾聴なさい!」


 矢継ぎ早に責め立てる取り巻き達を押さえつつ、肝心のミリアリアが口を開く。


「分からないようでしたら、仕方がありませんわ。要件を言いましょう。あなたの所属している部活動のことです」


「それが?」


「あなたの所属する魔道具研究会ですが、廃部することになりました」


「なんでッ⁉」


 これまで、毅然とした態度を維持していたナタリアが初めて狼狽の表情を見せる。


「あなたも、あなたの所属する部活動もこの学園には相応しくないからですわ。この学園ではいずれかの部活動に所属する義務がありますが、途中入部は許されておりません。

 つまり、あなたは退学の道しか残されていないのです。しかし、さすがにそれは可哀想ですからね。地べたに額を付けお願いなさるのでしたら、お茶くみくらいにはしてあげますわよ。貧相なあなたにぴったりでしょう?」


 笑いを押さえ切れないと言った様子でいる、ミリアリアと周囲の取り巻き達。彼女達は、ここぞとばかりに野次を飛ばす。


「ミリアリア様に生意気な態度を取るからよ!平民は今すぐ出ていけ!」


「平民は出ていけ!」


 その野次は周囲の人間に伝播していき、いつしか相当な人数の人がナタリアを包囲していた。


 ごちゃごちゃ考えてる場合じゃない。次の瞬間、俺は群衆の中央に飛び出していた。


「何です、あなた?」


 怪訝そうな顔をするミリアリアを横目に、諫めの言葉を投げかける。


「やり過ぎだ」


「これは私と彼女の問題ですわ。口出しされる覚えはありません。それとも、まさか庶民をいたぶるなとでもおっしゃりたいのですか?でしたら、それは筋違いというものです。私は部活連の役員を務めておりますからこれはそれに由来する行為であり、別に弱いものいじめをしていたわけではありませんわ」


「だったら、君一人で来れば良いだろう。こんな大人数で来る必要は無いはずだ」


「別にわたくしが引き連れたわけではありませんわ。彼女達が勝手について来たのです。それを止める理由など無いでしょう?

 それとも、貴族がいると怯えてしまうから来るのは遠慮してほしい、とでも言えばよろしかったんですの?」


「そこまでは…」


 口ごもる俺に、周りの取り巻き達は良い気味だと言わんばかりの視線を送り野次を飛ばす。


「そうです。これは私達が勝手についてきただけであなたにどうこう言われることじゃありません!それに、彼女の部活が潰されるのは結果を出せていないからであって、あなたに文句を言う資格はありませんわ!」


「そうなのか?」


 俺はミリアリアに問い掛ける。


「ええ、功績のない組織は、この学園にいりませんから」


「だったら、魔道具研究会は廃部じゃなくていいだろう。入学して間もない頃に、実績を上げていたはずだ」


 学園のパンフレットにおける各部実績の頁に、そう書いてあった。


「ッ!」


 ミリアリアは毅然とした表情を崩さず、取り巻き達からパンフレットを借り受ける。しかし、その瞳は少しばかり揺れていた。


「…いいでしょう。今回は見逃してさしあげますわ。しかし、たった一度の成果を収めた程度で存続が許される程、この学園の格調は低くありません。依然として廃部の危機であること、ゆめお忘れなきよう」


 そう言い残すと、苦虫を噛み潰したような表情をする取り巻き達を引き連れ去っていった。



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