3話
「では、私はこれで」
「ちょっと待ってくれ」
席を立ち帰ろうとするリーナを呼び留め、足早に自室へ向かう。そして、甘い香りが立ち昇っている白い包装を持参し手渡した。
「これは、シュトレンといってパンの中に果実をまぶし外側から粉砂糖を振りかけた隣国の菓子らしい。きっと、紅茶にも合うと思う。話を聞いてくれたお礼に」
「ありがとうございます」
俺の話を聞いている時も、自ら言葉を発している時も、リーナにはあまり表情の変化が見られなかった。しかし、包装から香る甘い匂いが彼女の鼻孔を刺激した瞬間、少しだけ頬を緩ませたように見えた。
小遣い二年分をはたいて買った至極の一品だが、喜んでもらえたなら何よりだ。悩みが解消したわけではないが、それでも道筋が見えたのは確かなのだから。
「本当にありがとう」
包装を手渡した後、俺は彼女の目を見て深々と頭を下げた。その行動を、リーナは驚いた様子で見つめている。
「素直に相談したことも意外でしたが、こんなに真正面から感謝されるとは思いませんでした」
確かにそうだ。今までの俺だったら、苦難があったとしても意地を張り誰にも打ち明けず独力で乗り越えようとしただろう。しかし、今は自身の無力を知っている。
こほんと咳払いしつつ、リーナは真剣な眼差しで俺を射貫く。
「人の上に立つ者に必要なのは、信頼できる部下あるいは友人です。とりあえずは、知り合いから作ることをおすすめいたします」
♢
「この国を理解する、か」
俺は寝台の上に全身を放り出しながら、彼女の言葉を思い出す。
言うのは簡単だが、具体的にどうすればいいんだ?あるべき姿勢というか、方向性は見えた気がするが結局行動に移さなければ結果は同じだろう。課題はなお残されたままだ。
でもまあ、道筋が見えただけでも原因も分からず立ち往生していた頃より確実に前進している。リーナに感謝だな。
それにしても、彼女の言葉はどれも芯を突いていたなと思う。
これまで、立場の垣根無く様々な交流をしてきたつもりだった。王族、貴族、平民。しかし、俺がその人達について知っていることは立場とか家族構成とかそういう表面的なものだけだ。
どんな思いを抱えているのか、どんな過去を過ごしていたのか、そういう根本の部分については何一つ知らない。いや、知ろうとしてこなかった。表面的なことを知って、分かった気になっていただけだ。
結局、俺が見ていたのは自分自身だったのだろう。弱い者に手を差し出す自分、立場を気にしない自分、そういう優れた自分を見せつけたかっただけ。
上手くいかないのも当然だ。己しか見えていない人間が、何かを変えられるはずがない。
おそらく、リーナが言った国や民を知るというのは色眼鏡を付けず同じ目線で接しろということなんだろう。立場や身分という枠組みを通して見るのではなく、その人自身を見ること。大げさに言ってしまえば、本質に触れること。
思い返せば、平民と話し触れ合った記憶はあるはずなのに、相手の名前どころか顔も朧気だ。それは、貴族にも当てはまる。多くの人間と接してきたはずなのに、やはり相手の身分や立場しか思い出せない。
そう考えると、具体的な行動方針も見えた気がした。
下のポイント評価欄【☆☆☆☆☆】から、1人10ポイントまで応援することができます!(★1つで2ポイント、★★★★★で10ポイント!)
この『10ポイント』は本当に大きいです!
執筆する上で大変励みになります!
少しでも、「面白い!」
と思ってくださった方は、この下にあるポイント評価欄を【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】にして、『ポイント評価』をお願い致します!
あと、ブックマークや感想も頂けると嬉しいです!
よろしくお願い致します!




