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十 待つ人がいる場所へ

 夜会から2日後。

 ――僕はヴァレンティナ様の執務室に赴いている。

 元々第一艦隊の―ヴァレンティナ様の艦隊は、常に動いている。

 本国に帰るのは、主に次の作戦行動までの補給や人員補充の為だ。

 ――だから。


「だからってさすがに急すぎるんじゃないですかね?!はい、こちら決裁です。次!こちらも事務次官から預かりました!こちらも決裁お願いします?!」

「……毎回のことと言えこの書類地獄は苦しいな……」

「せめて!もう少し早めに教えてくださればこっちだってもう少し余裕もって書類案内できたんですが?!」

「そうは言っても我々の部隊はいつも急に辞令が下りるから…」

「その結果、事務次官パンクしてぼくが手伝いする羽目になってるんですが?!」

「失礼します!弾薬積載記録、補給申請と戦闘糧食積載記録申請数字上がりました!!メルニクさんチェックお願いします…!!」

「確認します…!…こっちは大丈夫そうです、はいヴァレンティナ様!すいませんこれ補給申請の方、2級弾薬以上は補給管理部次長以上の認可いります!ハンコもらってきてください!!」

「…ぐぅ!分かりました!若いの走らせます!メルニクさん!」

「なんでしょう?!」

「…自分が生きて帰ってきたら…一緒に飲みましょう!」

「…店探しときますね!」

 ガッ!

 固く握手を交わす。

 驚愕の目でヴァレンティナ様が見ていた。

「…私より仲良くなるの早くないか…?!」

「苦楽を共にすると人間距離が縮まるんですよ!」

 事務次官の彼とぼくはここ二日ほぼ徹夜組である。なめないでいただきたい。

 …なお初日は普通にぼくは王宮側にいたのだ。ただ往復処理が多すぎて「…ニコ君、行ってきてあげて」「え」のやりとりで艦隊派遣になった。

 ……だから……もっと余裕を持ってほしい!!



 ――事前申請を済ます頃には、すっかりと日が暮れていた。

 ぐったりと僕が机に突っ伏していると、密やかな笑い声がした。

「…何笑われてるんですか…」

「いやすまない、君がこの部屋に馴染んでいるのがおかしくて」

「…」

「いやまぁ、この書類地獄はさすがにうんざりだけどな」

 苦笑いしながらヴァレンティナ様が言う。



「明日はさすがに会えないからな…不謹慎だがこの二日、ニコライの顔が見れてよかった」



 明日未明には発つ。

 淡々と告げるその声に気負いはない。


「なに、いつもの小競り合いだ。さっさと片をつけて帰ってくるさ。…君のことを『旦那様』と呼びたいしな」

「承知した覚えはないんですが」

「さすがに流されてはくれないか」

「さらっと流して承知できる話じゃないです」

 ニコライらしいなぁ、なんて笑う顔が。

 眩しい。

 …だから、少しだけ。


「旦那様だとか、結婚だとかは承服しかねますが」

「ぶれないな」

「…お帰りを、お待ちしてます」


 …菫色がぱちぱちと瞬く。


「ケガしないでください」


 重ねていえば。

 

「……っふ!」



 あはははははっ!!!と大声をあげて。

 ――ヴァレンティナが笑った。

 扉の向こうで何かガタン!!と物を落とす音がした気がしたが…それどころではない。

 …あの。

 屈強な軍人たちを震え上がらせる、ヴァレンティナ・ドラグノワが。

 ひいひいと下町の娘のように腹を抱えて、笑っている。


「そ、そこは『ご武運を』とかではないのか…!!」


 妙にツボにハマってしまったらしく、涙声で告げる。


「…そ、んな畏まった言い方、咄嗟にでないです!」

「ははっ…あー…笑った、うん」



「…ケガしない」


「行ってくる」


 宝物をもらったような顔で。

 ヴァレンティナ様は旅立っていった。


「旗艦落として、再プロポーズしないといけないからな」

「いつまでそのネタ引っ張るんですか」





 さすがに。

 …さすがに旅立ってしばらくは、落ち込んだ。

 彼女が向かったのは戦場である。絶対がない場所。

 これまでとは違う意味で胃を痛めていた日々。


 ――それは、あっという間に終わった。

 





「号外、ごうかーい!第1艦隊完勝!戦況開始からわずか2時間で旗艦撃沈!!戦功功労者はもちろんヴァレンティナ・ドラグノワ少将!!」


「…お前の女王様絶好調じゃん」

「…別世界だねぇ」

「あのひとまじでやりやがった…!!!」



 …よもやあの発言、本気だったのではあるまいか。

 今更ながらに不安を覚えだした頃。








 第一艦隊の帰還が決定した。

 そして。








 ――第一艦隊帰還式典。

 本来であれば厳粛に執り行われる、戦勝帰還の式典。港には既に軍上層部、貴族関係者、報道陣、儀典部の面々まで集結していた。


 そう。

 厳粛な場なのである。本来。なのに。


 ――何故ぼくがその最前列に立たされているのか、理解できない。


「…あの」

「粛に、もうすぐ帰還されます」

 待機任務にあたっていた、第一艦隊所属の佐官が静かに答える。…いや。

「…ぼくがここにいる意味とは…?!」

 負けない、と静かに問えば。

「…あれです、帰還部隊の補給物資の消費申請です」  

「それまず補給管理部が先に通すやつ!!!」

 明らかに目線を逸らして告げられた理由は、言い訳の体裁すらとれていない…!

 ていうか帰還式典でやることじゃないだろ!!

 じっと、さあどうなんだと、目線で問うたが。


「…」


 だめだ!ついに目線を合わせなくなった!!

 …この人たちまともな理由話す気がな…




『ニコラーーーーーーイ!!!』




 そこに響く声。




 え。



 自分だけではなく、お歴々までざわついた。

 え、今の声、え??

 海上に目を凝らす、そこに。


 ―――遠く見える船影。


 声は…そこから、響いている?!


「え、は?!なっなんで?!」

 戸惑って思わず声を上げれば。 


『拡声魔法を使っている!!副官から迎えに来ていると連絡を受けたぞ!!』 


 返される声。

 ――突飛な状況に、儀典部の人間が一斉に天を仰いだ。

 …いやこれぼくのせいではないですからね?!

 というか。


「え?聞こえてる?!見えてる?!なんで?!」

「視認魔法とこちらの音声はこの魔道具が」

「あんたたちなにやってんですか?!」




『ニコライ!!!』




「はい!」

 反射だった。気づけば返事をしていた。








  『  帰ったぞ!!! 』





 不覚にも。

 一瞬つまった。

 …でもその声に、思わず笑って。




「お帰りなさい!!」




 



『迎えにきたということは求婚受諾ということでいいか!!』




「いいわけないでしょう!!!」





 当たり前だが後日めちゃくちゃ怒られた、ぼくが。なんで!!!




 …そして。




 あの場には、報道陣がいた。

 ……報道陣である。







 【ヴァレンティナ・ドラグノワ少将、海上での公開プロポーズ!!】

 【異例の第一艦隊帰還式典!将官の暴走か】

 【国の英雄のお相手は、王宮文官?!】


 …目の前の机を埋め尽くす、各社新聞の見出し。



「外堀をうめるどころじゃ、ないっ…!!!」


 頭を抱える僕の横で。

 ……ヴァレンティナ様が、手を叩いて笑っていた。


「貴女は反省してください!!」



 ――ぼくの胃痛と戦う日々は、まだ、続く。



              

こちらで本編終了となります。

読んでいただいてありがとうございました!

数日置いて、番外編をいくつか上げさせていただけば思います。

…というところなのですが。

久しぶりの創作復帰、リハビリ短編のつもりだったのですが、予想外にこの世界観が楽しく。

時間をおいて、続きができたらあげさせていただくかもしれません。そのときは、よろしければまた読んでいただけると嬉しく思います。

――――――――――――――

よろしければ、☆1でも構いませんので、評価をつけていただけると今後の励みになります。よろしくお願いします!

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