一 最強の軍人令嬢は今日も文官に求婚する
「ニコライ・メルニク書記官」
低めの少し掠れたアルトボイス。
滑舌のハッキリしたそれは、自然と背筋が伸びる…はずである。
だが自分にとっては。
「…はい…」
丸まった背中がさらに丸まる。
けれど目の前の麗人は――何も気負うことなく報告する。
「今回は戦艦3隻沈めてきた」
背筋が凍るような戦果を。
「……はい……?」
「今度こそ結婚してほしい」
「すいません情報が飛びすぎてて処理できません」
「…だめか、わかった」
そこで目の前の麗人は、すっとその視線をあげた。
銀糸がさらりと踊り、光を返す。
決意に満ちた麗しき菫色。
――その美しい容貌の左側を覆う、引き攣れた火傷痕。
「次は旗艦を落とす。落としたら結婚してくれるか」
「そんな猫が獲物をとってくるみたいなノリで!!」
思わず腹の底から声が出た。なして。
――主砲令嬢、砲撃王。
戦場でそんな異名をもつヴァレンティナ・ドラグノワ。
彼女はここ半年、ひとりの文官を――つまりぼくを、追い回している。
ニコライ・メルニク書記官。階級は下級。下っ端も下っ端。
…何で…
「何でぼくなんですか?!」
目の前の麗人は、不思議そうに小首をかしげるばかりだった。
だから。
なんで。
これはぼくが、戦場最強の軍人令嬢に振り回される日々の…話である。
大仕事を一つ終えたので(現在進行系ではありますが)創作復帰いたします。
成金令嬢リテイクする前にリハビリ短期連載です。
☆ひとつでも構いませんので、よければ評価いただけますと嬉しいです!




