問11:堅物女騎士を説得せよ。ただし、シリアスは考えないものとする。
「ふむ。そう言った経緯でござるな。とんでもない拾い物でござるな」
「そう言うなよ」
全蔵に少女の着替え中、彼女から聞いた話を伝えた。
「戻った・・・」
|人魚姫<マーメイド>ちゃんのお下がりを着た彼女が本物のかぐや姫・・・。素肌にうっすらと浮かび上がる鎖模様。レオの刺青を見た後なら分かるが、彼女の鎖は肌の上に描かれたものではなく、痣のような不思議なもの。
そして、お下がりの服はプリキュア・・・。皆好きだよね。
「それで、オーキ殿はどうしたいんでござるか?まさかとは思うでござるが。白帝に挑むと?」
「そこまでは決めてない。助けられるなら出来る範囲で助ける。それだけだ」
「ふむ。では、迦具夜殿を救出できるよう国に動いてもらうでござる。ネットで大々的に暴露して拙者が裏で動けば、時間は掛かるでござるが、確実に動くようにできるでござる」
「その間、どうやって逃げる・・・かだな」
「その必要は・・・ない。これで最期だから」
酷く見覚えのある目で迦具夜は、呟いた。
「私が五人に出した無理難題の宝は・・・実在する。帝は私を縛れなかった。だけど、宝を手にする度に束縛が強くなる。生まれ変わった場所から離れれば離れる程、この肌の鎖は私を縛り・・・痛む。今。帝が手にしている宝は四つ。そして長年探していた五つ目が最近、どこかの遺跡で見つかった・・・。五つの宝を手にしたらもう私は完全に縛られてしまう・・・だから最期」
「遺跡・・・学校で見つかったあれか」
「そうなると国を動かすのは難しいでござる。最短でも二週間は掛かる故」
「縛られている範囲はどれくらいだ?」
「最初の場所からここまでの倍くらい・・・」
「半径2キロくらいでござるか・・・小山の如き白帝からすれば誤差でしかないでござるな」
以前のニュースを思い出す。
『“白帝”が“東条院”を南下中。二週間後には“那古屋”を通過する見込みです』
猶予は、無い・・・。
「全蔵なら勝てるか?」
「まず無理でござるな。対人戦なら自信はあるでござるが、技が通じない大物はそれほど活躍できる自信は無いでござるな。妖は専門外でござる」
「そうか。じゃあ俺も戦う」
「勝手に・・・話を、進めないで。私はここで・・・死ぬ・・・死なせてほしい」
「勝手に話を止めないでくれ。そこにあるプリン食べていいから」
「この人、無茶苦茶でござる」
助けようとした時に袋も一緒に放り投げたから多分中ぐちゃぐちゃだけど、そこは我慢して欲しい。さらば俺の期間限定ピスタチオプリン・・・。
残された時間は多くて二日。できる限りの対策を取らなければならない。
「何も言わなかったでござるが、戦う理由は?」
「親友なら何も言わずに力貸せよ」
「命懸けるのでござるから、褒美にオーキ殿のくっさい黒歴史級の台詞聞いておきたいでござる」
「・・・あの目に見覚えがある」
野球を諦めた時、鏡に写った俺と同じ目。諦めた目だ。
生き甲斐だった。今までの人生を全て捧げた。それが報われなかった時、俺の心は折れてしまった。気丈に振舞った。大丈夫だと言い聞かせた。
爺さんの店と、身近にあったアニメに逃げた。一人で考える時間が怖い。一人になると、考えてしまう。もし、野球を続けられていたのなら。どれだけ振り払っても思考が勝手に野球に引っ張られる。
この世界に来てまず野球が出来ると思った。まだ可能性があると。しかし、この世界に野球は似ているだけの別物。人生を賭けて望む、熱狂する元の世界の野球は無かった。それを知った時、俺は何故か安堵した。自分でも訳が分からなかった。野球が出来たら。そう思い続けていたのに、できる環境に身を置いたのに、野球をしなくていいと思った。思ってしまった。
この感情に言葉を当てはめるのなら、”恐怖”だ。俺はこれからも野球から逃げ続けるだろう。向き合うことなく、乗り越えることなく、目を逸らして人生を消化する。そんな気がする。
俺自身が分かっている。俺は野球を見るのが怖い。再び野球に触れて絶望するのが恐ろしい。身が引き裂かれるような。灼熱の窯で茹でられたような。全身を針で刺されたような。絶対零度に晒されたような。鈍く、鋭く、刹那で、永遠な、その痛みを恐れている。
「だから、俺は・・・美少女を命懸けで救うシチュエーションを、一度はやってみたいんだ・・・!!」
「おい。途中までの良い感じの回想はなんだったんでござるか」
「お前の事だから心読んでそうだと思って・・・」
「かぁー!これだからオーキ殿は嫌いでござる」
「つまりだ。体の傷みも、忍者の掟もこの世界には何もない。俺達は自由だ。俺達を縛るのは法と理不尽、乱数、モラル、マナー・・・・・・ごちゃごちゃ考えずに、後悔しない方選ぼうぜ!!」
「勢いで押し切ったでござるなぁ・・・」
細けぇことは気にするな!この最高で、最強な、素晴らしい世界で過ごすって決めたんだ。シリアスなんて面白くないものは、前の世界に置いて来た。白帝に理不尽に負けて美少女が殺される?そんな鬱展開望んでないし、願い下げだ。俺は毎日を笑って、365日、この世界を謳歌する。その為なら命懸けだろうが、相手が最強だろうが、全部吹っ飛ばしてハッピーエンドにしてやるよ。
「あ、もしもし佐久間さん?面白い話あるんだけど・・・うん、ちょっと命懸けだけど、面白いよ────
☆
時間は過ぎて日を跨ぐ少し前。エウレカに佐久間さんと、レオも集まった。
電話一本した所、佐久間さんはノリノリで、レオは良く分からないが渋る事無く話に乗ってくれた。
ちなみに迦具夜は、先ほどからこちらの話を聞きながらも口を開くことはない。これ以上、俺達に何を言っても無駄だと思ったのかもしれない。プリンは全部食べられた。
「相手が“七災”か・・・面白そうだね。帰宅部の血が騒ぐよ」
「帰宅部って先天性なの・・・?」
「その話、乗りました。私も同行します」
「お、お、お、オーキ殿!!女騎士でござる!!くっころ女騎士でござるよ!!」
「それより誰かを気にしろよ・・・」
閉店後のエウレカに“バーン”という効果音を背後に入って来たのは、全蔵の言う通り、女騎士だった。
金髪碧眼。誠実そうな顔立ちと、凛とした雰囲気。腰には細剣を携えた甲冑姿の女性。とは言え、年齢的には20歳前後くらいだろうか。
「この人は・・・」
「説明不要です。私はエミリア=E=フィエルダー。こう見えて聖騎士です。ちなみに敬語はいりません。苦手なので」
「どこからどう見ても聖騎士な気がするよ・・・」
「佐久間さん、言わないのが正解だよ」
「俺の指導係だ」
レオは俺と同じく別世界から来たのかと言いたくなるくらい世間知らずだからな。いや、世間知らずというより、価値観がアウトロー寄りの方が正しいかもしれない。
「話に乗ったって、エミリア殿はずっと外でスタンバイしていたって事でござるか?」
「おい。それは言ったら駄目だろう」
「そうだよ。言わないのが粋ってやつだよ」
ほら見ろ。全蔵が余計な事を言ったばっかりに、エミリアさんが顔真っ赤にして震えている。ノンデリ野郎め。今にも「くっ、殺せ」と言わんばかりの表情だ。
「くっ、殺せ」
言っちゃったよ。
「戦力はこれで五人か・・・全蔵、ぶっちゃけどう?」
「あくまで全ての“聖器シリーズ”を合わせて“七災”級でござるが・・・聖騎士2人がいるのは僥倖。下手に千人集めるより心強いでござる。しかし、勝てるかと言われれば、どれだけ戦力を集めても不安でござるよ」
「それもそうか。俺も他に宛がある訳じゃないからな・・・」
「帰宅部の子も、流石に“白帝”相手じゃ足手まといになるかな。肉壁として呼ぶならいいと思うけど」
「いいですね。呼びましょう」
「いや、呼ばなくていいよ!?」
佐久間さんとエミリアさん、目がマジだよ。
「聖騎士もこれ以上は無理ですね。残りは肉壁騎士くらいです」
「いらないです」
これ以上の戦力は期待できないか・・・。逆にこの面子が集まっただけマシか・・・。
「ところで。一つ質問があります。レオ君と私は聖騎士です。年若く、経験少なくとも“聖器シリーズ”に選ばれたのは確か。そこの少女は佐久間亮。聖騎士協会でも名を聞く若きホープ。そしてそこの異物。彼は底が読めない。魔力が無い。顔と言葉が合っていない。ふざけた喋り方だ。狂っている。しかし、私が読めないという事は私よりも数段、強いのでしょう」
「え?拙者今、流れるようにディスられた?」
「しかし、この少年はダメだ。魔力は気持ちが悪い程に多い。だが、見れば分かる。争い事に慣れていない。きっと無駄に命を散らす」
「なんとかします!」
「駄目です。聖騎士は人類の味方。貴方の覚悟は本物かもしれないが、“死ぬ”と“死ぬかもしない”の間には大きな隔たりがある。犠牲は認められない」
「なんとかします!」
「容認できません」
「なんとかします!」
「駄目です」
「なんとかします!」
「無理です」
「チッ・・・なんとかします!!」
「今、舌打ちしましたね?」
馬鹿な。俺のゴリ押しが効かないなんて。この人相当な頑固者だな?俺が言えた事ではないが。
「オーキ殿に関しては拙者がどうにかするので安心して欲しいでござる」
「いえ、貴方に信頼は無いので安心できません。実力と現場での判断力は別です」
「ごもっとも。じゃあオーキ殿はお留守番という事で」
え、ここに来て俺だけ留守番っていう流れある・・・?
誤字脱字報告。ブックマーク。感想。レビュー。ストーリー評価。等、頂けると幸いです。




