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問10:唐突に始まるシリアスに備えよ。物語は一章完結へと動くものとする。

 本日は晴天なり。

 大魔祭(たいまさい)が近づいている事もあり、魔術授業が増えてきた。季節は秋だと言うのに、暑さは夏のよう。そこに台風が押し寄せてくれば、寒暖差で風邪を引きそうだ。長袖への衣替えのタイミングが難しいな。


「レオは魔術どれくらい使えるんだ?」

「固有魔術を一つだけだ」

「凄いね。固有魔術は結界魔術と並ぶ最難関なのに。流石、聖騎士は伊達じゃないってことだね。魔術への造詣(ぞうけい)が深い」

「拙者なんて魔術一個も使えないでござるからな」

「いや、生まれつきらしい。魔術についてはほとんど知識を持ち合わせていない」

「血脈式の固有魔術!!知識としては持っていたけど、実際にいるんだね」


 目を大きく見開いて驚く佐久間さん。可愛い。佐久間さんの仕草がどんどん女の子らしくなってきていて、俺の心臓に悪い。


 最近は、俺、全蔵、佐久間さん、レオの四人で行動する事が多い。話す内容は様々だが、主に転校して来たばかりのレオに関する事だ。彼自身、生い立ちが特殊なのか、話しを聴いていると驚きの連続で飽きない。


 先程話に挙がった“固有魔術”は万人に向けて作られた汎用的な魔術では無く、己の戦闘スタイルや癖に合わせて作られた魔術を指す。

 魔術研究者が長い歴史の中で作り上げた汎用魔術は精錬された一品。それを一点でも越えなければ固有魔術も形無し。固有魔術と名乗るなら何かしら特別な効果が望まれる。

 それと、固有魔術から時間を掛けて汎用魔術に昇華するものもあるが、ほとんどの固有魔術は魔術陣が個人の魔力操作に合わせて作られているので、他の人が魔術陣を真似ても無意味に終わる事が多い。運が良ければ使えるくらいだ。


 固有魔術と同じく魔術の最難関と言われるのが“結界魔術”。自身が掌握した魔力を周囲に流し、その範囲に新たな世界法則を作り出す。極端に言えば魔術使用を封じることも理論上は可能だ。

 しかし、対外に出た魔力の操作はかなり困難を極めると共に、世界法則を作り上げるには膨大な知識が必要。そして当然、広範囲になればなるほど、有効射程も高まる為、生まれつきの魔力素養が関わってくる。


 どちらも魔術について専門知識が無いととてもでは無いが、扱えるものでは無い。


 その中でも数少ない例外が、佐久間さんが言っていた“血脈式の固有魔術”だ。

 魔術に長く触れ続けた人類は進化した。人類全員では無いが、五十年ほど前から血管の配置が魔術陣の役割を持つ者が十数件、確認されている。それは先天性、後天性関係なく、生まれつき使える者や、成長と共に魔術陣の役割を持つ場合もあるそうだ。

 効果は様々で汎用魔術の劣化版な事もあれば、固有魔術と同じく汎用魔術を何かしらの形で上回った魔術の場合もある。


「魔術陣が既に描かれているから、発動時間が限りなく少ないのが最大の利点なんだっけ?」

「そうそう。魔術陣を見せる必要が無いから相手に読み取られることも無い。例え、汎用魔術より効果が劣っていても、凄いアドバンテージになるんだ」

「なるほど。それは確かに厄介でござるな」

「俺の固有魔術は“身体鍛化魔術”。時間経過に合わせて魔力が尽きるまで上限なく強くなれる」


 何それ、最高に主人公じゃん・・・。聖剣の担い手で、どこまでも強くなれるって、それ少年漫画だよ・・・。


「それは凄いでござるな」

「まだ上手く使いこなせないけどな」

「あ、サボりを発見!!」

「とっつかまえろ!!」

「やー」


 四人で喋っていると、三馬鹿がこちらに気付いて絡んでくる。魔術の使用は、体力や頭をかなり使う。3人とも疲労もあるだろうに、それを感じさせない元気を見せている。


「サボって無いでござるよ。柔軟中でござる」

「この後、体力トレーニングなんだ」

「俺とレオは力が強すぎるし、全蔵は魔力なし。佐久間さんは、まだ本調子じゃないから四人でこれから外周だ。なんならお前らも走るか?」

「遠慮しておくよ!走るの嫌いだからね!!」

「うちも嫌いだ!!走ると蕁麻疹がでる。多分、ランニングアレルギーだ!!すげぇだろ!!」

「お前は陸上部だろ」


 文化部の苺は即拒否。それに乗っかる二子。陸上部が全員走るのが好きかと言われたら違うかもしれないが、彼女は現役陸上部。ランニングアレルギーでも無ければ、記録会で入賞する位には優秀だ。多分、頭で考えて発言していない。脊髄(せきずい)と口が直結するように改造されている。改造人間二子だ。将来は仮面ライダーになることだろう。


 “やー”から一切喋らない三胡は、長座前屈している俺の背中にもたれ掛かって一瞬にして寝息を立てている。何というマイペース。そして割と伸ばしている段階で体重を掛けられたので体が痛い。


「い、苺。三胡どけてくれ」

「無理。今、爪に間に挟まった砂を取るのに忙しいんだ」

「二子」

「今、忍者に教えて貰った方法で修行してるんだ。木を殴って、落ちてきた葉をジャブで十枚握るんだ」

「そ、それ、はじめの一歩のやつ・・・」


 この役立たずー!!


 先程から限界まで伸ばされた体をどうにか揺らして起こそうとしているのだが、起きる気配どころか、より深い睡眠に誘われている気がする。俺の体は揺り籠じゃないんだぞ・・・!!!


 ぐおお・・・!!体が折れる・・・!!!


「もう、何やっているのさ」


 三胡の体を持ち上げる佐久間さんに全俺が泣いた。安心感が違う。まさに母の如く。つまり佐久間さんは俺のお母さん・・・?馬鹿な。同い年の母(元男)はこの世に存在するのか!?


「またオーキ殿が阿呆な事考えている顔しているでござる」



 今日のシフトはお休み。毎年十月になると魔導書の修復業務の方が忙しくなる。日本の遺跡研究者達は冬前に遺跡調査を引き上げ、研究に没頭し、春先からまた遺跡に行くらしい。その関係で冬前に一気に依頼が回ってくると言った次第だ。

 それもあり、九月は全蔵がシフトを多めに入ってくれている。来月は休みたくても休めないから今のうちに。と、気を回してくれた結果だ。


 学校終わりにジムに行って筋肉をこれでもかと虐める。帰り道、銭湯に寄り道。汗を流して、サウナで整えての帰宅だ。久しぶりの負荷と休養に筋肉と体が喜んでいる。

 交流を深める為にレオも誘ったが、断られた。学校生活では一緒に行動する事が多いが、どこか一線を引いたような距離感がある。こう言った遊びの誘いも一度もOKを貰って事が無い。訳ありか、単純にその手の事が苦手かは分からないが、根掘り葉掘り聞くのは野暮だと思い、聞いていない。


 街灯が照らす夜道を歩く。先日、父からお小遣い(臨時収入)を手に入れたので財布の中には野口様が三枚。コンビニで新作のプリンを三つ買っても野口様が3人いる安心感は凄まじい。時間は21時を回ったくらい。この時間からスイーツを洒落込むわけにはいかないので、プリンは明日以降のお楽しみだ。しっかり名前を書いておかないと桜華が勝手に食べるので要注意だ。


 住宅街な事もあり、たまに見かける人は仕事帰りのスーツの男性のみ。車の通りも少ない。偶にそこらの家から笑い声が聞こえたり、音の外れたピアノが聞こえたりと、平和そのものを感じる。前の世界では野球漬けの毎日。それが嫌だったわけではないが、こういうのを味わうのは初めてで、とても感慨深い。


 どさり。


 唐突に鈍い音が聞こえる。米袋を雑に置いたような、そんな音。


 途端に纏わりつく嫌な気配。全蔵に電話をするべきか。そう考え、携帯を取り出した時、小さな(うめ)き声が耳を(かす)める。

 慎重に、音の方向へ。住宅と住宅の間。ゴミ置き場として利用されている小さな空間(スペース)。街灯が一本建つも、点滅を繰り返す。不安が膨らむ。


「ぅ・・・」


 再度聞こえた声は幼い少女のもの。恐る恐るだった足が、考え無しに歩みを早める。何が起きたのか。色々な思惑が頭を駆け巡る。もしもに備えて魔術の準備をしながら進む。

 靴が水音を鳴らす。ふと視線を下に向けると暗かった街灯に光が灯る。


 赤。赤。赤。足元に広がるのはおびただしい量の血。


 街頭の光が消える。息を吞む。何が起きている・・・?


 視線を上げて街灯の点滅を待つ。ジジジと不快音を鳴らしてか細く辺りを照らす街灯。


「・・・!大丈夫か!?」


 視線の先。血溜まりの中心に1人の少女が横たわっていた。微かに動く指先と唇。俺はスクールバックを投げ出すと、迷わず彼女を抱き上げる。

 この一帯の血が全て彼女のものだとするなら、既に死んでいても可笑しくない出血量。外傷を探しながら、ポケットから携帯を取り出す。


「傷が無い・・・?」


 抱き上げた少女の服は何か大きな爪で引き裂かれたようにボロボロで、素肌を隠せていなかった。時折消灯する頼りない街灯で彼女の肌を確認するが、血で汚れているが傷らしい傷が無い。回復系の魔術を使った?それとも再生能力を持った亜人・・・?

 しかし、この血の量は危ない。見えていない傷があるかもしれない。まず救急車を・・・。


「ょ・・・余計な・・・ことしないで」


 細いしなやかな腕を伸ばし、携帯を操作する俺の手を握る少女。


「いや、でも血が・・・」

「大丈夫。だってほら・・・」


 心配する俺を他所に、少女は煩わしそうに。そして自嘲気味に自身の腕に爪を喰い込ませる。白い肌が圧力で赤くなり、皮膚を突き破って血が溢れる。俺は、声を上げる間も無く、その腕を引き寄せる。


「傷が治っていく・・・」


 水蒸気のような白い煙が患部から吹き出し、瞬く間に傷を治す。前の世界の常識を持つ俺には信じられない光景だった。


「次で最期・・・最期も放って置いて」


 最期。何が?そう思うよりも先に言葉が出ていた。


「駄目です」

「私を助けようとしても無駄。どうせ皆諦める・・・。偽善はいらない。ありがた迷惑」

「駄目です」

「貴方には分からない。言っても無駄。だからどっかに行って・・・」

「駄目です」


 会話において最強は二つ。『話を聞かない奴』と『既に結論が出ている奴』である。

少女にどんな訳があるかは知らないし、彼女の言う通りありがた迷惑かもしれないが、俺は、俺が決めたことは曲げない主義。我儘上等。開き直り結構。俺は西中の暴君。


『しもしも、服部でござる』

「仕事終わりにすまん。緊急でエウレカ集合。温かいお湯と、タオル。あと、人魚姫(まーめいど)ちゃんの使ってない服あったら持ってきて」

『了解。直ぐ向かうでござる』


 全蔵への連絡が終わり、俺は、胸の中で暴れる少女を抱えてエウレカまで走る。


「訳ありだとは思うけど、敢えて聞く。何があった?」

「話しても無駄だと思うけど・・・」

「何があった?」

「・・・・貴方は人が悪い」


 俺のゴリ押しに諦めた様子の少女。ジト目で睨まれるのは流石に少し罪悪感がるが、ここは我慢。


「“白帝”・・・ううん、“竹取物語”って知っている?」


 少女は肌にうっすらと浮かぶ鎖を見ながらそう呟いた。



 竹取物語は遥か昔、平安時代の創作話だ。


 竹を取り、竹細工を朝廷に献上して生計を立てていた爺が、竹やぶの中で黄金に輝く竹を見つけた。その竹を割ると、三寸程のとても可愛らしい女の子が座っていた。

 運命を感じた爺はその幼子を家に連れ帰り、育てた。三寸程しかなかった体は三ヶ月ばかりで成人女性と変わらない姿へと成長した。

 幼子から女性となった彼女は世間の男達を虜にした。彼女の名前は迦具夜(かぐや)。名前から分かる通り、竹取物語はかの有名な御伽噺(おとぎばなし)、『かぐや姫』と同じ物語。


 竹取物語(かぐや姫)で有名なのは五つの幻の宝だろう。

彼女に求婚を申し込んだ五人に迦具夜が見てみたいと強請(ねだ)った宝だ。


 石作皇子には“(ほとけ)御石(みいし)(はち)”を。


 庫持皇子には“蓬莱(ほうらい)(たま)()”を。


 阿倍御主人には“火鼠(ひねずみ)皮衣(かわごろも)”を。


 大伴御行には“(りゅう)(くび)(たま)”を。


 石上麻呂足には“(つばめ)子安貝(こやすがい)”を。


 結果として彼らはそれらを手に入れることが出来なかった。


 物語はここでは終わらない。迦具夜は(みかど)・・・国一番の偉い人に興味を持たれて仕えるように言われるも、それを拒否。

 帝が直々に顔を合わせると、彼は迦具夜の美しさに惚れ込んだという。強引にでも。そう思った帝は彼女の腕を掴んだが、迦具夜は影となって消えた。


 その時、帝はこう思った。


 “この女は人ならざる者。人の上に立つ『人』でしか無い自分にはどうしようもできない”と。


 帝は迦具夜を連れていくことを諦め、その代わりに文通を行う約束をして帰った。


 それから月日が経ち、迦具夜は爺にとある事を打ち明けた。自分は月の住人で、次の十五日、月に帰らないといけない事を。

 爺は当然拒否した。それを知った帝も二千の兵を連れて爺の家を警護した。


 迦具夜は、最後に爺と帝に不死の薬を渡した。

 それと時同じくして、月からその光と共に使者が表れた。浮世離れした光景に誰もが見守るしか無かった。迦具夜は天女の如く可憐な微笑みを爺に向けると迦具夜は天の羽衣を羽織り、月の使者と共に月へと帰って行く。



 本来の物語ならば、最期に帝が富士山の山頂で不死の薬を焼く事で物語が完結するのだが、この世界では違った。



 迦具夜が月へと昇る中、帝の瞳は濁っていく。


 “『人』だから…『人』故に届かぬ。ならば『人』を辞めよう”


 帝が周囲の光を飲み込み、黒い光に包まれる。


 帝は白き獣へと姿を変える。迦具夜と同じく、人ならざる者へと。

 帝は月へと昇る迦具夜を鎖で縛った。だが、その鎖を持ってしても、迦具夜は影となり、迦具夜を捕まえることは出来なかった。


 手に入れられないのなら殺す。帝は月へと昇る迦具夜を殺し、こう言い残した。


 “来世でまた会おう。御前の心を掴むまで何度でも・・・”


 迦具夜は帝に縛られた。

 例え死んだとしてもまた迦具夜として生まれ変わり、地上へと縛り付けられる。

 そして、帝は生まれ変わった迦具夜を地の果てまで追い掛け、こう問う。


 “心は決まったか?”


 迦具夜が拒絶する度に帝は彼女を殺した。


 その鎖は、何人たりとも取ること叶わず。


 その鎖は、帝の獲物である証。帝が殺さぬ限り何人たりとも殺すこと叶わず。


 どれだけ世が移り変わろうとも、迦具夜は帝を拒み、帝は迦具夜に問う。


 やがて迦具夜の名は禁忌とされ、誰も口にする事が無くなった。日本の隅で行われる悲劇の循環。


 白き獣へと姿を変えた帝を誰もが止めようとした。しかし、人ならぬ圧倒的な力の前に屈した。



 平安時代が残した怪物。“七災”が一つ。───────『白帝(びゃくてい)




「ぅ・・・うぅ・・・あんまりだ・・・ぅ・・・ぉほっ・・ごほっ・・・ごほっごほっ・・・おえっ・・・・」

「店に着いたら半裸の美少女前に親友が鼻水たらしながら泣いてるのどうしたらいいんでござる?」


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