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025 格闘王オーガ

「津神、お前は、生霊様ともっと話が必要だろ? 捜索はこっちに任せて、ゆっくりしてていいよ。出番になったら呼ぶから」


生霊が語った異世界のことは、御室にも聞こえていたようだ。


「えと、心配すんな、津神。生霊様が亜空間の爆弾を処理できる事実だけは伝える必要がある。でも、それ以外は誰にも言わねえ」


「あ、あぁ。うん。頼むよ。ありがとう」

「美杉さんにだけでも、お前の言葉で説明した方がいいぞ。あー、それと生霊様?」

『うむ? なにようじゃ?』

「どういうキャラ設定だよ」

「ははは。異世界の話、俺にも聞かせてくださいよ。とくに、その」

『ふむ。ハーレムであろう? それともエロフ奴隷か? お主も好きよのお』

「あったの? いえ、ありましたか、やはり。そういうお戯れが!!』

『無論じゃ』

「で、で、弟子にしてください!! あっと、もう行かなきゃ、えと、生霊様、あとで。失礼します!!」

『うむ。良きに計らえ!』


無線の呼び出しに応じて御室は走り出した。行く先には、美杉、棒空を中心とした冒険者たちと、警察幹部、空港職員幹部が集まっている。

御室の説明を聞いて納得したのか、俺たちの方をチラ見しながら、彼らは次の捜索に向けて行動を起こして消えたのだった。


「生霊様ってw」

『生霊様か、勇者の次にもらった称号だな』

「ぷっ、笑っていい?」


その後、すぐに呼び出された俺たちは、爆発物の処理を請け負っていった。

処理後は御室だけではなく、棒空や亜空間を察知できる冒険者で、処理後の確認をしてもらい報告を上げてもらう。

御室は、報告用に精細な絵で爆発物を描くという意外すぎる才能を見せてくれた。

その合間に、俺は生霊とわずかながら話ができた。


『戻りたかった元の世界は消滅しているかもしれない』

『間違ってココに辿りついたわけじゃなく、ココにしか来れなかったんだ』

『涼が実在するこの世界では、同一の存在である俺は実在が許されなかったのではないかと考えている』

『お前の脳に寄生し、亜空間に不確かで虚ろな肉体を持つことになった』

『異世界を共に旅をした仲間は多くが死んだ。生き残っても戻ることを選ばないヤツらが多かったな』

『俺と一緒に戻ろうとしたのは、1人だけ、』


『もう1人は木野だ。木野加穂留が、今どうしてるか調べて欲しい』


木野か、懐かしいな。中学からの俺の数少ない友人だと思っている。

俺が仕事を辞めてから疎遠になった友人の1人だった。確か、海外で旅をしていると聞いた気がしていた。




「津神っ、建物で捜索が残ってるのは管制塔だけだってさ。連絡では他と何か様子が違うみたいだ。急ごう」

途中で再び合流した御室に無線で連絡が入る。

管制室へと向かう階段を登る途中、二十歳前に見える若い冒険者が声をかけてきた。


「Cランクの天空耳尊です。ちゃんと挨拶してなかったので。亜空間の捜索を担当してます。棒空さんより少し感度は良いようです」

「あ、どうも。津神涼です。よろしくです」

『わらわが勇者兼生霊であるぞ。畏まらずとも良い。ほーほっほっほ』

「おぉ。やっぱり偉い方なんですね」

「こいつが言ったこと分かるの? 偉くないですよ。気を使わないで」

「いえ、なんとなく、空耳かも。大きな存在感はわかります。公家の方っぽい雰囲気も」

『涼や、この者は良きに取り計らえ』

「調子に乗っちゃうから、やめて」

「管制室にも似てはないですが、爆弾とは違う、大きな存在感を感じてます。大型の魔物のような」

『ほう』

「あぁ、臭うな。何かいるぞ。間違いなく」


バックアップ用の管制室に避難させられた誰もいない管制室。

御室がシックスセンスを併用した臭覚で感知したモノは、管制室の扉を開けば、俺にもすぐに見ることができた。

御室が見たままの印象を言葉に出した。


「ゴブリン?オーク?でかいな。亜空間の中にいるのかよ。っつ、爆弾の代わりに現出させるのか!?」

「僕には見えません。。。しかし、どうやって、亜空間に魔物を置いたんでしょう?」

『。。。』


円状に配置された管制モニターに取り囲まれるように、その中心に一個の人型魔物が脚を抱えるようにうずくまっていた。

起こされる時間を待つように眠っている、そういう風に感じた。


『オーガだ』

「オーガって、Bランク以上がパーティーで立ち向かう魔物ですよ。生霊様!」


「どうするんだ?」

『とりあえず、下に運ぶか』

「「え?」」

「ど、どうしたんです?」


生霊は、オーガの後ろにしゃがみ、両腕をオーガの腹にまわして掴むと、そのまま持ち上げて立ち上がった。

腹を下にしてオーガを肩に担ぐ生霊。

一連の流れから見える分には、オーガの身長は2mを余裕を持って超えそうだ。体重も相当に重いだろう。


『こいつには、時限式のスリープ魔法がかかってる。簡単に起きたりしない』

「重くないのか?」

『ちょっとだけな』


生霊の体格は、俺のモノとさして変わらないように思える。

なのに、たいしたパワーだと思えた。


『降りようぜ。とりあえず滑走路の端っこにでも運ぼう』




「でさ、こんな場所に降ろして、どうするんだ?」


生霊は、担いでいたオーガを滑走路のアスファルトの上に仰向けに倒したかたちで降ろす。


『ちょっとさ。お前に見せようと思ってな。こいつのスリープを解除する』

「はい? 何を? なんで起こすんだよ?」


『お前は、ほとんど忘れてるだろ? 爺ちゃんが教えてくれた戦い方をさ。見せてやるよ。俺がどう戦って、異世界を生き抜いたか』

「待てって!」

『ゞゞ#≒∝Ω§』


オーガからスリープの魔法が解ける。ゆっくりと両目が開かれて行く。


『お前は言ったんだ。みんなを守るって。だろ?』


オーガは身体を起こし始める。足を投げ出し座った体制で停止し、辺りを見回してから目を細めて生霊を忌々しそうに睨む。

その視線には、明らかな知性を感じさせた。

額に2本の角、髪は人間に手を入れられたのだろう。刈り込まれて短い。

黒く見えるほどに暗い緑色の肌、切れ長の目、大きな鼻と分厚い唇はプロの格闘家を思い起こさせる。口からは2本の牙が上を向いて生えていた。

太い筋肉に覆われた全身、下半身にはスポーツウエアのハーフパンツが穿かされ、それが意外にも似合っている。

知性も腕力もゴブリンとは明らかに違うモノを感じさせる、それは強者の存在感。


『あっちで使ってた武器が使えれば、こんなヤツ、ワンパンなんだが。仕方ない、お前の武器と防具を借りるぞ』


俺の着ていたライダーズジャケットが溶けるように消える。すぐに生霊が、同じモノを身につけた姿に変わった。

続いて、生霊の手にトンファーが二本召喚される。生霊はトンファーで腕を守るように持つ。

口元に笑みを浮かべながらオーガが膝に手をついてから立ち上がる。

オーガは両手の指を組み、手首と首を回している。

でかい、2m30cm近くありそうだ。体格といい、まるでアメリカのでかいプロレスラーのようだ。

俺の身長は172cm、生霊も同じだろう。トンファーの射程距離まで近づけば天井を見上げるようなものだろう。


『敵の動きを観察する時は、相手の前後の揺れを意識するんだ。顎や首回りを見るとわかりやすい』


ズドン


それは、一瞬だった。何が起こったか見取れたのは偶然だったかもしれない。それとも俺の即応値が高かったからだろうか。

オーガが正拳突きの要領で打ち出してきた右拳を、トンファーを盾のように使い空手風の上段受けで跳ね上げる生霊。

空手と違い一歩足を使って内側に回り込むように移動した生霊は、移動地点に右足が着いた瞬間に縦拳の突きそのままの動きでトンファーを繰り出す。震脚が亜空間を揺らして響いた。

トンファーの短い先端と右拳がオーガの胸中心付近に埋まる。オーガの巨体が浮き上がったように後方に小さく飛ばされた。

オーガは左手の長い爪をフックパンチぎみに繰り出したが後方に飛ばされたことで射程を外され、生霊は小さくスウェーするだけで避けていた。

飛ばされた勢いで数歩たたらを踏んで下がるオーガ。そして片膝をついた。

オーガは右手で胸を押さえ追撃をしてこない生霊を、睨んでいる。


『トンファーは防具だな。受けに使うのが正しいようだ。こりゃ、爺ちゃんの教え通りで使える。美杉のおっさんはよくわかってるぜ』


オーガが血を吐く。目に怯えはないが、生霊が手強い相手だと判断したのが読み取れた。


ガン!


オーガが重心を後ろに移動させ、後方を振り向いて立ち上がろうとした瞬間。

オーガが向いた方向の反対側に距離を詰めた生霊は高速で一回転する。そして伸ばしたトンファーを裏拳のようにして殴りつけた。

オーガは逃げることを選んだのだろうが、それを体重移動だけで察知した生霊に殴り飛ばされたのだ。

今は、うつむけに倒れ、後頭部を両手で押さえている。どす黒い血が手で押さえた周辺からアスファルトに広がるように見えた。


『相手の前後の動きを読み取れれば、このくらいは難しくない。ついでにトンファーを振り回すなら、こんな感じかと思ってやってみた』

「べ、勉強になるよ」


あとは、ただ一方的だった。

膝を破られ、角を折られ、血を吐きながら、何度も倒されるオーガ。

口をあんぐり開けて驚く御室。お前、そのキャラで行くの?


『俺は、こっちはもっと楽に生きれる世界だと思ってたよ』


オーガの肘が壊される音が響く。残された腕で必死に地面をタップしている。


『こんな化物がどうこうの話じゃないぜ。こんなの、あっちじゃウヨウヨしてるからな。一匹くらい、どうってことない』


オーガの顎が砕かれる。


『俺は、お前の記憶から、お前がどうやって生きてきたかを知ったよ。正直な話、あっちよりシンドイかもな』


「え? そ、そうなのか? でも、普通に生きてりゃ、殺したり殺されたりなんてないだろ、こっちは基本」


オーガは涙目だ。なんか気の毒になってきた。


『あるさ。この前の電車の青年みたいにな。それに、向こうで化物に殺される人数より、こっちで車に轢き殺される人数の方がずっと多いぜ、たぶん』


「そうかもしれないけど、比較するモンじゃ。。。」


オーガがこちらを見て土下座している。え?こっち、見えてるの?


『愛梨の事情とかさ、ガキの頃に知ってたら力になりたかった。自殺する人間の多さとかもさ。そういうことを考えてたらさ。もしかしたら』


「もしかしたら?」


『ほんとうに勇者が必要なのは、こっちの世界じゃねーかって。思うんだよ』


「。。。」


いつの間にか、オーガは息絶えていた。


『お前がなれ。みんなを救うんだろ』


「爺ちゃんみたいにか?」


『あぁ、そうだ。俺が手伝ってやる』



「。。。」



『誰もを愛梨と同じだと思えるお前なら、きっと勇者になれる』



『俺みたいな、ただ自分が元に帰りたいだけの、なんちゃって勇者じゃなくさ。ほんとうの勇者に』



『なろうぜ』

格闘シーンとか適当ですいません。


しかし、亜空間の床とか地面とか階段の踏み板とか、どうなってるんだろう。。。

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