第6話 【欺瞞だらけの友情】
「ご足労いただき、ありがとうございます」
柊に連れられ、東雲、斉賀、宮下の三人が部室へ入ってくる。誰もが事情を飲み込めていないのか、戸惑った表情を浮かべていた。
「連れてきたけど……本当なのか? 事件の真相が分かったって」
「はい。それを今からお話しします」
「わ、我もおらねばならぬのか? 事件には関わっておらぬが」
「そんなことはないでしょう? あなたは更衣室の鍵を管理していたのですから」
「だ、だから、鍵は体育館に置いてきたと申したであろう……」
「では、まずはその辺をはっきりさせるためにも。東雲先生、あなたの行動についてお話ししましょうか」
「わ、我の……?」
「はい。あなたが授業中に体育館を離れていたとき、本当は何をしていたのか」
「だから申したであろう? 煙草を吸っておったとな」
「ええ。そうおっしゃっていましたね。ただ──」
眠目はスカートのポケットへ手を入れた。取り出したのは、個包装されたぶどう味の飴玉だった。
「そっ、それは……」
「先生の机の引き出しにあったものです。禁煙中で、口が寂しくなるから飴を舐めているとか」
「ぐぬぬ……」
「そんなあなたが、体育館を離れていた約四十分もの間、煙草を吸っていたというのは、少し引っかかりますね」
「……が、我慢できなくなったと、そう申したはずだが? 禁煙中ではあったが、堪えきれず吸うてしもうたのだ」
「……嘘っぽいなぁ。ホントはその間に更衣室へ入って、下着を盗んでたんじゃないんすか?」
「失礼な! 我を何だと思うておる!」
(……喋り方が妙な変質者、とか?)
「……はぁ、柊さん。勝手に早とちりしないでくれますか? 私は彼が盗んだなんて、一言も言っていないでしょう」
眠目は不機嫌そうに目を細めると、取り出した飴の包みを開き、そのまま口の中へ放り込んだ。
「んん……東雲先生。あなたが本当は何をしていたのか、私には分かるかもしれません」
「……!」
「柊さん。あのカレンダー、覚えていますよね?」
「あ? ああ、昨日の欄に時間が書いてあったよな。『14:30〜15:00』って」
「えっ、そ、その時間って……」
宮下が驚いたように口元へ手を当てる。
「ええ。ちょうど六限の授業中ですね」
「そっ、それが何だというのだ?」
「少し変だと思いませんか? この時間」
「変って……何が?」
「六限は14時25分から15時15分。それに対して、書かれていたのは14時30分から15時まで……妙に、区切りがいいと思いませんか?」
「あ、ああ……確かにな」
「時間割とカレンダーの時間が食い違っていた理由……もしかして、これじゃないですか?」
眠目はポケットからスマホを取り出し、手早く画面を操作する。そして、その画面を東雲たちへ向けた。
表示されていたのは、派手な衣装に身を包んだアニメの少女だった。
「『魔法少女・プリティーマギア』。通称、プリマギ。女児向けのアニメです……ご存じですよね?」
「う、うむ……。娘がよく見ておるアニメだな」
「放送日時は、毎週火曜日の14時30分から15時まで。……ちょうど昨日も放送されていたようですね」
「じゅ、14時30分から15時!? そ、その時間って……!」
「はい。東雲先生の卓上カレンダーに書かれていた時間と、ぴったり一致します」
「ぐああああああああ!」
「もしかしてですけど──授業を抜け出して、このアニメを見ていたのでは?」
「……ば、馬鹿なことを。どれほど繊細な脚本や豪快な作画であろうと、所詮は女児向けのアニメ。我がわざわざ授業を抜け出してまで見る理由などない」
「ま、まぁ確かに。わざわざリアタイしなくても、今どき録画や配信もあるしなぁ」
「では、リアルタイムで見る必要があったとしたら?」
「必要?」
「ええ。東雲先生には、授業を抜け出してでも、このアニメをその時間に見る理由があったということです」
「ま、マジか……? リアタイしなきゃ気が済まないタイプのオタク……いや、変態……?」
「誰が変態だというのだ!?」
「証拠もありますよ? あなたが昨日、プリマギをリアルタイムで見ていたことを示す証拠がね」
眠目は再びスマホを操作すると、ある画像を表示した。
「柊さん。これ、覚えていますよね?」
「これ……東雲先生の鞄に入ってた、プリマギのクリアファイルだろ?」
「ええ。調べてみたところ、これは普通に店頭で買える商品ではないようです」
「……どういうことだ?」
「プリマギの放送後、その日の内容に関するクイズが出題されます。そして、放送を見なければ分からない答えを専用フォームへ送る。正解すれば、限定商品の購入権が得られる」
「限定商品……」
「ええ。正解者用の画面を店頭で提示すれば、商品を購入できる仕組みです。毎週行われていて、昨日の商品がこのクリアファイルだったようですね」
「ぐっ……!」
「ただし、数には限りがあります。昨日は応募が殺到し、放送終了から約三分で購入権がなくなったそうです」
「三分!? それじゃ、あとから録画や配信で見ても間に合わねぇじゃん」
「そうですね。なので先生は、リアルタイムで見る必要があったんです。そしてもう一つ。このクリアファイルには、『しののめ みく』という名前が書かれていましたね」
「……!」
「先生の娘さんでしょう?」
「う、うむ……」
「つまり先生は、自分が見たかったからではない。娘さんのために、このクリアファイルを手に入れたかった……違いますか?」
「…………」
東雲は腕を組み、静かに目を閉じた。
(な、なんだ……?)
「……一句、よろしいか?」
「どうぞ?」
「プリマギの 購入システム いとわろし」
(……季語はなし、か……)
「認めた、ということでよろしいですか?」
「うむ……どうにも気恥ずかしくてな。偽りを申してしもうた。すまなんだ」
「事件当時は、どこに?」
「理科室だ。テレビにカードを挿し、アニメを見ておった。そして放送終了後、クイズに答えた。これがその証よ」
そう言って、東雲はスマホを取り出した。
画面には、『マギアホワイトが失ったものは?』というクイズと、その解答が表示されている。
──『欺瞞だらけの友情』。その横には、しっかりと正解のマークがついていた。
(……ホントに女児向けのアニメか……?)
「なるほど。体育館との往復を考えると……だいたい四十分ほどですか」
「うむ」
「では、更衣室の鍵については?」
「ぐう……鍵は……持っていっておった。生徒にもしものことがあってはならぬゆえな」
(授業を放棄してたやつの言うことか……?)
「では、なぜ『体育館に置いていった』などと嘘を?」
「それは……正直に申せば、我しか疑われぬからだ! 授業中、更衣室には鍵がかかっておった。そして、その鍵を我が持ち歩いておったとなれば……犯人は我しかおらぬことになってしまうではないか!」
「まさしくその通りで、あんたが犯人なんじゃ?」
「い、否!! 我は盗んでなどおらぬ! 犯人は……何ぞ妖術でも使って、更衣室へ忍び入ったのだ!」
(妖術ときたか。こりゃもうダメそうだな……)
「……別に、妖術なんてなくても犯行は可能でしょう」
「な、なにっ!?」
「可能って……どうやって? 鍵はずっとこの先生が持ってたんだろ?」
「ええ」
「だったら、授業中に更衣室へ入れたのはこの人だけじゃないのか?」
「ええ」
「……??」
柊は眉をひそめる。東雲も斉賀も宮下も、何を言わんとしているのか分からない様子で、眠目を見つめていた。
「簡単な話です。犯人は密室を破ることなく、犯行を行ったんです」
「は? ど、どういうことだよ」
眠目は退屈そうに手を口に当て、大きなあくびをした。そして、柊たちの方へ向き直る。
「では……真犯人を指摘しましょうか」




