↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠り姫レムの事件簿  作者: ニラ
虚構少女かく語りき
27/34

第27話 【おみやげ】

 月見ヶ原警察署。三人は署内のエントランスへ足を踏み入れていた。すぐ隣にある刑事課は騒がしく、刑事たちが慌ただしく出入りしている。


「あはは〜。楽しそうですね〜」


「楽しくはねぇだろ」


「ふむ」


 眠目はその様子を一瞥すると、何の躊躇もなく刑事課へ足を踏み入れた。


「お、おいおい……」


「さすがレム先輩。大胆ですね〜」


 柊と宮下も、その後に続く。


 室内では、電話をかける者、資料を抱えて走る者、数人で何かを話し合う者。どこを見ても、忙しそうな人間ばかりだった。


 時折、刑事たちが眠目たちへちらりと視線を向ける。だが、誰一人として声をかけてこない。すぐに何事もなかったかのように、仕事へ視線を戻していく。


(……なんで誰も止めないんだよ)


 柊が訝しげに辺りを見回す。すると、少し離れたデスクに座る明智の姿が目に入った。眠目もすぐに気づいたらしく、杖をつきながらそちらへ向かって歩いていく。


「明智警部補」


 眠目が声をかけると、明智はこちらを向いた。そして三人の姿を確認するなり、小さくため息を吐く。


「……何しに来た?」


「ちょっとしたお(・)み(・)や(・)げ(・)を持ってきたんですよ」


 眠目はポケットからUSBメモリを取り出し、明智の机へ置いた。


「……なんだ、これは?」


「茅野さんの元勤務先に残されていたPCのデータです。事件に関係しそうなものをまとめてあります」


「…………」


 明智はUSBを手に取り、訝しげに眠目を見上げた。


「……そうか」


「代わりと言ってはなんですが、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「いや──それはこ(・)っ(・)ち(・)の(・)セ(・)リ(・)フ(・)だ」


「……? というと?」


「音無 雫のアリバイの話だ。音無は事件発生時、お前らと一緒にいたと証言してる」


「はい〜。音無さんが私たちをフードコーナーまで案内してくれたんですよ。そのあと騒ぎが起きるまで、私たち三人と音無さんは一緒にいましたよ〜?」


「そうか。なら、悪いが調書を取らせてもらう。向こうの部屋に行くぞ。そんなに時間はかからねぇ」


「……なぜ、今になって急にアリバイなどと?」


 立ちあがろうとした明智に、眠目が問いかける。明智は再び椅子に腰を下ろし、三人の方に身体を向けた。


「──茅野 悟が自首してきた。証拠品を持ってな」


「ふーん、そうですか。証拠品というのは?」


「清掃カートに使われていた青い袋と、防犯カメラのデータだ。袋には血痕が付着している。今は鑑識に回してるが、本人いわく被害者の血だそうだ」


「……防犯カメラのデータはともかく、そんな袋をどこに隠してたんだよ」


「ゴミ収集車の中だ。事件後に清掃カートを走らせて車へ向かい、中へ隠していたらしい」


「カメラには何が映ってたんです?」


「見てみるか?」


 明智はデスクのPCを操作し、モニターを三人の方へ向けた。


 映し出されたのは、とある一室の防犯カメラ映像だった。入口の正面の壁際には、用途の分からない操作盤と大量のモニターが所狭しと並んでいる。さらに右奥の壁には、色の異なるレインコートが何着かハンガーに掛けられていた。


 そして、部屋の真ん中に置かれた机に、一人の白髪混じりの男性が突っ伏して眠っている。おそらく、氷室 豪だろう。


 しばらくして──音声に雑音が混じった。その奥から、聞き覚えのある低い轟音が微かに聞こえてくる。


「……ん?」


 眠目はそれを見て、眉をしかめる。


 ──表示されていた時刻が、なぜか不自然に飛んだ。その直後、手前の扉が開き、赤いレインコートを着た人物が室内へ入ってくる。その人物が右側へ顔を向けたところで──映像は途切れた。


「……これは、館長室の映像ですか?」


「ああ、そうだ」


「妙な点がいくつかありますね。まず、この赤いレインコートの人物は、どうやって館長室へ入ったのでしょう? この部屋は、氷室 豪さんのカードキーがなければ入れないはずでは?」


「それについては、茅野が供述してる。事件当日、氷室をミュージアムへ呼び出したのは自分だとな。呼び出された氷室と一緒に館長室へ入ったあと、茅野は氷室を薬で眠らせた。そしてカードキーを抜き取り、犯行後にカードキーを氷室の元へ戻して部屋を出た」


「なるほど。では、もう一つ。途中、映像が途切れ、時刻が飛んでいたようですが? ちょうど、例の轟音が鳴った直後です」


「ああ。切り取られてるのは、ちょうど事件が起きた時間帯だ。茅野によれば、『不必要な部分だったから』だそうだ」


「不必要ですかぁ〜!? むしろ、一番大事なところな気がしますけどね〜」


「ええ。むしろ、切(・)り(・)取(・)る(・)必(・)要(・)が(・)あ(・)っ(・)た(・)と考えるべきでしょうね。ま、だいたい想像はできますが」


「え〜? 勿体ぶらないで教えてくださいよ〜!」


「それで、明智さん。この映像と音無さんのアリバイ確認に、どういう関係があるんです?」


「……なんかもう、無視されちゃうのにも慣れてきました〜。えへへっ」


「この映像にも映ってるだろ?」


 明智は映像の中に並ぶ大量のモニターを指差した。


「こいつは館内の防犯カメラ映像を映してるモニターだ。その防犯カメラのデータが、事件後に全て消されてた。映像は毎週日曜日に自動で消去される仕組みらしい。だが、事件が起きたのは昨日──木曜日だ」


「消した理由については推測可能ですね。例の赤いレインコート。AR加工の施されていない防犯カメラには、普通に映ってしまう。ですから犯人は事件後に、防犯カメラの映像を消す必要があった」


「ああ、茅野もそう供述してる。ただし、防犯カメラシステムへアクセスするには、登録された職員の指紋認証と顔認証、その両方が必要らしい」


「なるほど〜? それで職員さんたちのアリバイを確認してるんですね〜」


「ああ。音無と茅野以外の職員からは全員、事件発生時のアリバイが取れた。音無のアリバイが確かなら、より茅野の容疑を固められる」


「ちなみに、アクセス履歴は?」


「認証時刻のログは残るが、利用者を特定できる情報までは記録されない仕様らしい。昨日の認証履歴は一件のみ。時刻は事件発生後だ」


「……そうですか」


「……つーかさ。なんで防犯カメラのモニターが、館長室にあんだよ」


「例の色覚補正技術を応用したシステムと、特殊な音響システム。それらを管理するための設備なのでしょう。防犯カメラでの監視が主目的というより、それらの操作が本来の用途なのでは? おそらく、手前の操作盤を使うのでしょうね」


「……特殊な音響システムだと?」


 明智が眉をひそめる。その反応を見て、眠目は少しだけ勝ち誇ったような顔をした。


「そのUSBをご覧になれば分かりますよ?」


「……そうかい」


 明智は片眉を上げ、USBを胸ポケットへしまった。


「とにかく、そういうわけだ。音無のアリバイについて、調書を取らせてもらうぞ」


「…………」


 眠目は左手を顎へ添え、何かを考え込む。同時に、右手でぐりぐりと杖を地面に押し付けた。


「……別に構わないのですが……もう少しだけ、時間をいただけますか? 一応、任意ですよね?」


「……? ああ、構わんが……」


 明智は不思議そうに眠目を見つめる。眠目は左手の親指と人差し指で頬を挟み、ぷにぷにと交互に押していた。


「──あっ! あの人〜! 氷室 豪さんだ〜!」


 不意に宮下が声を上げ、奥を指さした。見ると、奥の部屋から一人の刑事が出てくる。その後ろを、氷室 豪がついて歩いていた。


「ちょうどよかったです。彼にもお話を伺いたいと思っていたところですので。明智さん。少しだけ、時間と部屋を用意していただけませんか?」


「……あのなぁ、仔猫ちゃん。このオフィスを見てみろ。俺たちは今、お前らとじゃれてる暇はねぇんだよ」


(……そりゃそうだわな……)


 柊は辺りを見渡す。電話は鳴り続け、刑事たちは今も慌ただしく動き回っている。


「──そのUSBについてですが」


「……?」


「中のファイルには、パスワードを設定してあります。当然、知っているのは私だけです」


「…………」


 明智は無言で眠目を見つめる。眠目も、澄ました顔で見返していたが──


「……はぁ」


 明智が大きくため息を吐き、額に手を当てた。


「分かったよ……ちょっと待ってろ」


「ありがとうございます」


 眠目はワンピースの裾を摘まみ、軽く持ち上げた。そして、優雅に一礼する。


「……やれやれ」


 明智は立ち上がり、氷室 豪のもとへ歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。