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眠り姫レムの事件簿  作者: ニラ
虚構少女かく語りき
17/34

第17話 【宮下 真琴の推理ショー】

「ふっふっふ〜……謎はすべて解けました!!」


 映像が終わるなり、宮下が高らかに声を張り上げた。そして懐から棒付き飴を取り出すと、封を開けて口に咥える。まるで、タバコでも吹かしているつもりのようだった。


「……いきなりなんだよ」


「だからぁ〜。事件の謎が解けたって言っているんですよぉ〜。レム先輩のお手を煩わせるまでもありません。この私が、事件の真相をお話ししましょう!」


「ほう? いいぜ、聞かせてみな」


「…………」


 明智が興味深そうに宮下を見る。一方、眠目はジト目になり、心底面倒くさそうな顔をしていた。


「犯人は──村上 狼さん! あなたです〜!」


 宮下は棒付き飴を咥えたまま、もごもごと喋りながら村上を指差した。


「はぁ!? お、俺じゃねぇよ!!」


「否定したって無駄ですよ〜? 証拠も証言も、きっちり揃っていますからね〜?」


 宮下はつかつかと歩きながら、偉そうに胸を張る。右手の指で、口元から伸びた飴の棒を挟んでいる。


「あなたはまず、被害者を中世ヨーロッパエリアへ呼び出した。そして、赤いレインコートで全身を覆い、ナイフで被害者を刺殺しました。ところが──不運にも、その瞬間を目撃されてしまったのです〜」


 びしっ、と茅野を指差す。続いて、反対の手で帽子のつばをくいっと直した。まるで舞台上の俳優のような、大げさな動きだ。


「このミュージアムに勤める清掃員──茅野 悟さんにね!」


「だ、だから! それはそいつの嘘で……!」


「それは通りませ〜ん! あの映像には、確かに茅野さんの声が入っていました。となれば、撮影者は茅野さんだと考えるのが妥当です〜」


「…………」


「さらに! あなたのロッカーからは、映像に映っていた赤いレインコートと、凶器と思われるナイフまで発見されました。……ちなみにですが、ロッカーの鍵は〜?」


「……この男が持っていた。こいつから押収した鍵でロッカーを開けたところ、レインコートとナイフが出てきた」


「……だそうです。あなたは犯行後、ロッカーに殺人の証拠を隠した。あとでこっそり処分するつもりだったのでしょう。ところがその前に警察に鍵を押収され、隠していた証拠まで見つかってしまったのです〜!」


「…………」


「──以上! 名探偵の名助手による、推理ショーでした〜! ご清聴、ありがとうございました〜!」


 宮下が推理を披露し終えると、室内に短い沈黙が落ちた。その静けさを破ったのは、柊だった。


「……まあ、そりゃそうだろって感じの推理ではあるけど。ぶっちゃけ、当たってんじゃねぇの?」


「ち、ちげーよ!! そもそも、その映像は俺が撮ったんだ!!」


「苦しいですね〜? 映像からは、あなたの声なんて一度も聞こえてきませんでしたよ〜?」


「だから、それは──」


「──はぁ。くだらない」


「──!」


 眠目の冷たい声が、村上の言葉を遮った。一斉に彼女へ視線が集まる。気怠げに椅子から立ち上がると、杖をつきながらゆっくりと宮下の前まで歩み寄った。


「……宮下さん。あなたも本気でそんな推理をしているわけではないでしょう?」


「え〜? 本気ですよぉ〜? それとも──私の推理に何か問題でも?」


「ええ、ありますよ。──気(・)持(・)ち(・)の(・)悪(・)い(・)穴(・)がね」


「ふーん。俺は普通に納得したけどなぁ……」


「…………」


 柊が首を傾げる。それとは対照的に、明智は目を細め、眠目をじっと見つめていた。


「さてと……」


 眠目は宮下の口元へ左手を伸ばした。宮下が咥えていた飴の棒を掴む。そのまま引き抜き──


「──えっ!?」


 眠目は、宮下の口から奪った飴をそのまま自分の口へ咥えた。


「……お前、マジかよ」


「きゃ〜! レム先輩、大胆ですね〜!」


 宮下は両手で頬を押さえた。その頬が、ほんのりと赤く染まる。眠目はそれを一瞥すらせず、口元に飴を咥えたまま茅野へと向き直った。


「……茅野さん」


「はい。なんでありますか?」


「そもそも、なぜあなたはカメラを持っていたんです?」


「ええ、ええ。そのことでありますか。中世ヨーロッパエリアを清掃していた際に、落ちているのを拾ったのでありますよ。どうやら、この方のものだったようでありますが」


 そう言って、ちらりと村上へ目をやる。


「事件後、この清掃員がカメラを所持していたこと自体は確かだ」


 明智の言葉に、眠目は横目だけで反応した。だが、すぐに茅野へ視線を戻す。


「……まあ、それはいいでしょう。問題があるのは、あの映像です」


「ふむ? 何が問題なのでありますか?」


「被害者──氷室 輝夜さんは、刺される瞬間を撮影されている。つまり、犯人に襲われるよりも前から、カメラは回っていたということです」


「ええ、ええ。その通りであります」


「そこで、当然の疑問が浮かび上がります。……なぜあなたは、刺(・)さ(・)れ(・)る(・)前(・)の(・)被(・)害(・)者(・)を撮影していたのか?」


「──! ……ふむ?」


「あ〜……確かに変だな? 事件が起きてからカメラを回すならともかく、事件が起きる前から撮ってたってのは」


(……まあ、俺はその映像見てねぇけど)


「なるほど〜! まるで、茅野さんは事(・)件(・)が(・)起(・)こ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)知(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)ようにも思えますね〜! ただ──」


 宮下は眠目の正面へ歩み寄り、少し見下ろすようにして視線を合わせた。


「──カメラを回す理由、ないことはなかったかもしれませんよ〜?」


「…………」


「何も起きてないのに、彼女を撮る理由なんてあるのか? しかも、拾ったカメラなんだろ?」


「蓮司くん、そうじゃなくてさぁ〜。ちょっと発想をずらしてみなよ」


「発想をずらす?」


「……なるほど。そういうことですか」


 眠目はジト目で宮下を見つめながら、口の中で飴をころころと転がした。


「要するに──茅野さんは、氷室 輝夜さんを撮影しようとしていたわけではないってことだよ〜」


「……? じゃあ、何を撮ってたんだ?」


「事件が起きた十二時頃。このミュージアムでは、とある異(・)常(・)事(・)態(・)が起きてたでしょ〜?」


「……! あ、ああ。変な音が鳴って、天使やら文字やらが出てきたやつか」


「そ! 茅野さんはあの異常な現象を記録しようとして、カメラを回したんだよ〜。それで撮影していたところ、たまたま事件に遭遇しちゃったってこと〜」


 宮下が言い終わると、茅野が何度も大きく頷いた。


「ええ、ええ。まさにその通りなのであります! 突然のことで動揺し、思わずカメラを回してしまったのであります」


「だそうです! やはり私の推理通り、犯人は村上 狼さんということですね〜!」


「ちげーよ!! このポンコツ探偵!!」


「私は探偵じゃなくて助手です〜!」


(助手にしては、主張の強いやつだな……)


「レム先輩〜。結局、映像には茅野さんの声が入っていて、村上さんの声は一度も聞こえなかったのは事実です。だったら、村上さんが嘘をついていると考えるのが妥当じゃないですか〜?」


「……それについては、考えがないわけではありませんが」


「ん〜? ホントかなぁ〜?」


「ひとまず、村上さん側の話をもう少し聞きましょうか。あなたは、この映像を自分が撮影したと主張していますよね?」


「あ、ああ。そうだよ」


「では、そのときの状況を詳しく教えていただけますか?」


「詳しくっつっても、映像のまんまだよ。俺はカメラを構えて、あの女を撮ってた。そしたら赤いレインコートのやつが急に出てきて、女を刺したんだよ」


「その後は?」


「……びびって、カメラを落としちまった。そんで、そのまま誰か呼ばなきゃって思って、現場を離れたんだ」


「なるほど? ……いくつか気になる点がありますね。まず、なぜあなたは、事件が起きる前から被害者を撮影していたんです?」


「ああ、それね。実は俺、この月見ヶ原ARミュージアムのPR案件で呼ばれてたんだよ。館内の動画を撮って、宣伝に協力してほしいってな」


「ああ。だから撮影禁止なのに、堂々とカメラ回してたのか」


「そゆこと。んで、ミュージアム側から『中世ヨーロッパエリアで特別なイベントをやるから、そこで待機しててほしい』って言われてたんだ」


「特別なイベントですか〜。まぁ、そういう話はネットにもありましたからね〜」


「……言われた通り待ってたら、知らねぇ女が出てきてさ。こっちをじーっと見てるから、てっきりそのイベントが始まったんだと思って、カメラを回したんだよ」


「……そうですか。ちなみに、ミュージアム側からその指示を受けたという証拠はありますか? 例えば、メールなどは残っていませんか?」


「い、いや。案件そのものの依頼メールならまだ残ってるけど……その件については今日、スタッフから直接言われただけだからな。ただ、その人に話を聞いてもらえば確認は取れると思うぜ?」


「そのスタッフの名前は?」


「えっと……音無とか、そんな名前だったかな」


「ああ〜! 音無 雫さんですね〜! 今日、私たちの校外学習を案内してくれた人です〜」


「……明智さん」


「……ん? なんだ?」


「音無 雫さんを、こちらへ呼んでいただけますか?」


「やれやれ。わがままな仔猫ちゃんだな」


 明智はそう言いながらも、素直に部屋を出ていった。


(……結局呼びに行くのかよ……)


 柊は呆れた顔で、その背中を見送る。


 女子高生が警部補を当然のように使い走りにする。はたから見れば、なかなか異様な光景だった。


「もう一つ、伺いたいことがあります」


「なんだ?」


「あの映像に入っていた声についてです。あなたの声は一度も聞こえなかった。代わりに、茅野さんの声が入っていました」


「当然であります。なにせ、あの映像を撮影したのは僕でありますから」


「そ、それは俺にも分からねぇんだよ! 俺、動画撮りながら結構喋ってたんだぜ? なのに、俺の声だけなぜか録音されてなかったんだ。んで……そいつの声に関しては、俺もあの時聞いてるんだよな」


「つまり、彼も現場にいたと?」


「い、いや……それが……あそこにいたのは、俺とあの女。それから途中で現れた、赤いレインコートのやつだけだった……はずなんだよ。でも、声が聞こえたのは俺のすぐ近くで……」


「あはは〜。嘘を重ねすぎて、支離滅裂になっちゃってるじゃないですか〜」


「嘘じゃねぇよ! 本当に、突然そいつの声が聞こえてきたんだ! たぶんそいつがレインコートのやつで、俺よりデカい声で喋ってたんだよ!」


「なんだそりゃ……。意味分かんねぇぞ」


「苦しい言い訳なのであります」


「……なるほど。ありがとうございます。もう充分です」


 眠目はふわぁ、と退屈そうにあくびをする。


「私は少し仮眠を取ります。音無さんが来たら、起こしてもらえますか?」


「いいですよ〜! あっ! なんなら、私の膝枕で寝ます〜?」


 宮下がその場で正座し、自分の膝をぱんぱんと叩いた。


「…………」


 眠目は何も言わず、宮下の元へ歩いていく。


「お! どうぞどうぞ〜?」


 宮下は嬉しそうに両手を広げた。眠目はそのまま、広げられた両腕の間に入り込む。そして、自分の口から棒付き飴を引き抜き──


「──むぐっ!」


 そのまま、宮下の口の中に強引に捩じ込んだ。


「…………」


 眠目は何事もなかったかのように踵を返し、近くの椅子へ腰を下ろす。そのままこくり、こくりと頭を揺らし始めた。そして数秒もしないうちに──


「すぅ……すぅ……」


 小さな寝息が、部屋の中に響き始めた。

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