はじめてのラブレター
彼女のことは、いつも教室の片隅から見ていた。
肩まで伸びたきれいな黒髪に、透き通るようなくりくりとした瞳。
少し丸みのある顔には、いつも穏やかな笑みが浮かんでいた。
彼女はクラスの人気者だった。
いつも教室の隅でひとりぼっちでいるぼくとは違い、周りにはたくさんの友達がいる。
きっとみんなも、あの眩しい笑顔に惹かれているのだろう。
ぼくは彼女のことが好きだ。
こんなに胸が締め付けられるような気持ちは、今までの人生で経験したことがない。
心臓がドキドキして、どうしようもなくなってしまう。
◇
彼女のことを明確に意識したのは、ある日の移動教室のときのこと。
その日、ぼくはどうしても体調が優れず、一人で個室にこもっていた。
ようやく落ち着いて教室に戻ると、そこには誰もいなかった。
どうやら、ぼくがいないことに誰も気づかないまま、みんな次の場所へ移動してしまったみたいだ。
みんながどこへ行ったのかも分からず、ぼくはぽつんと、静まり返った教室で途方に暮れていた。
そのとき、ガラッと扉が開いて、彼女が突然教室に現れた。
「忘れ物しちゃった。……あれ? きみも?」
「ううん。……みんなに、置いていかれちゃって」
「そうなんだ! それじゃあ、わたしと一緒にいこう!」
彼女はそう言うと、ぼくの手をぎゅっと握って走り出した。
差し込まれた光の中で、差し出された小さな手。
その手のひらの温もりが伝わってきた瞬間、ぼくの心臓はうるさいくらいに跳ね上がった。
ぼくは一瞬で、簡単に彼女のことが好きになってしまった。
◇
ぼくと彼女は釣り合わない。
そんなことは分かっている。
けれど、どうしてもこの溢れる気持ちは抑えられなかった。
ぼくは、彼女に手紙を渡すことにした。
手紙なんて書いたことないけれど、ぼくの中にある精一杯の言葉で、この思いをつづってみようと思った。
その日の放課後、たまたまぼくと彼女は二人きりになった。
チャンスだ……!
意を決して、ぼくは彼女に声をかけた。
「……あの!」
「なあに?」
「これ! 書いたんだ……。読んで……」
たどたどしく差し出した、一生懸命に折った手紙。
彼女はびっくりしたように目を見開いたけれど、やがて頬を赤らめて、こう言った。
「ありがとう……! じゃあ、明日一緒に砂場で遊ぼうね!」
「うん!」と答えたぼくの視線の先、教室の入り口では、お迎えに来たお母さんがぼくたちを優しく見守っていた。
ぼくの人生で初めてのラブレターは、夕暮れの園舎に、小さな幸せを咲かせてくれた。




