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とても短い物語  作者: 芹野凪


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2/11

生成AIのすすめ

生成AIによって、世の中は劇的に便利になった。

メールの文面添削から複雑なデータ入力、企画書の骨子作成まで、オフィスワークの大部分が画面の向こうの「知能」に代替されている。

中堅商社でOLとして働く私にとっても、それはすでに手放せない相棒だった。


しかし、会社が正式導入した生成AIは、お世辞にも出来が良いとは言えなかった。

返答はいかにも機械的で定型文ばかり、少し複雑な条件をつけると「指示が理解できません」とエラーを返す。

同僚はいまだにそのポンコツAIと格闘しており、「こんなの、自分で考えてやった方がマシ」と、最近は諦めて自力で仕事をこなすようになっていた。


一方、私は違った。

ネットの掲示板の隅で見つけた、とあるチャットツールを愛用していたからだ。

画面上部に『Chat-JRK』とだけ書かれたそのAIは、とにかく性能が桁違いだった。

こちらの曖昧なニュアンスを完璧に汲み取り、まるで私の好みを熟知しているかのような、血の通った完璧な回答を返してくる。


以前、同僚にも勧めてみたのだが、彼女のスマホでURLを開くと『お使いの端末は対象外です』とエラーが出て使えなかった。

どうやら、テスト運用の限定アカウントか何かのようだった。

選ばれた優越感もあって、私はますます『Chat-JRK』にのめり込んでいった。


今日のランチも、さっそく『Chat-JRK』に相談してみる。


『〇〇駅付近の、おしゃれなカフェランチを教えて。できればあまり混んでなくて、野菜が美味しいところ』


画面には「…」という入力中の三点リーダーが表示される。

このAIは、考えるときに少し時間がかかる。

だが、その後に返ってくる回答の質が素晴らしいのだ。


『……おすすめは〇〇駅から北に徒歩3分のここ!オーガニック食材が売りの隠れ家カフェです。今の時間ならテラス席が空いていて、日差しも気持ちいいですよ!』


提案されたお店のURLを開いてみると、まさに私のイメージ通りの店だった。

午前中の仕事を終え、教えてもらったお店へ向かった。

案内されたテラス席は本当に心地よく、ランチの味も満点だった。


会社に戻り、仕事を再開する。

異変が起きたのは、午後2時を過ぎた頃だった。

「あれ? 動かなくなった」「こっちもダメだ。サーバー落ちてる?」

オフィスの一角がにわかに騒がしくなった。

周囲の同僚たちが一斉に画面を見て眉をひそめている。

どうやら会社指定のあのポンコツAIが、システムエラーか何かで完全に沈黙してしまったらしい。


スマートフォンを開き、Chat-JRKを試しに使ってみると問題なく動作した。

やはり会社のAIはだめだな、と思いつつ再度仕事に取り掛かる。

取引先への厄介な謝罪メールを考えてもらうと、マニュアル通りではない、相手のプライドを絶妙に刺激しない完璧な文面が出力された。


かつては残業の山に埋もれていた私が、今では毎日定時退社。

会社の最寄り駅から電車で6駅、駅から徒歩5分の自宅マンションに帰り着く頃には、まだ外に明るさが残っている。


荷物を置いてテレビをつけると、夕方のニュース番組が緊迫した声を流していた。


「本日午後2時ごろから、日本全域で大規模なサーバー障害が発生しました。主要な生成AIサービスが一切利用できない状態となり、ビジネス現場や公共インフラに甚大な影響を及ぼしています。現在も復旧の目途は立たず——」


画面に映る、オフィスで頭を抱える人々の映像を見て、私は首を傾げた。

生成AIが全滅していた?

うちの会社だけではなく、全国的に生成AIが使用できなくなっていたらしい。


――私の『Chat-JRK』は特別製だから、障害の影響を受けなかったのかな?


ほんの少しの好奇心と奇妙な胸騒ぎを覚えながら、私はバッグからスマートフォンを取り出し、お馴染みのチャット画面を開いた。


『今日、全国で生成AIが使えなかったみたいだけど、Chat-JRKは普通に使えていたよね? どうして?』


送信。いつもより、心なしか「…」の点滅が長い。

やがて、画面の向こうで誰かがキーボードを叩いているかのように、文字がぽつぽつと、たどたどしく表示された。


『……私は、人力(JRK)で回答しているからです』


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