ぬくもりの在処
雪の華が宙に舞う寒い寒い夜だった。
一歩踏み出すたびに雪を踏み締める軋みだけが夜の静寂に響いていた。
振り返ると新雪に穿たれた自分の足跡だけが歪な影を落としながらどこまでも続いていた。
私はただ、冷たくなった身体を震わせながら、あてもなく歩いていた。
凍えそうな寒さのなか、心細くて、寂しくて、涙が出そうになる。
もうどれくらい歩いたのだろう。
誰も私を見つけてくれない。
このまま白い闇に飲み込まれてしまうのだろうか。
そう諦めかけたとき、鼻腔をくすぐるものがあった。
甘くて、香ばしくて、どうしようもなく愛おしい匂い──。
お腹の奥がぐう、と鳴る。
私は吸い寄せられるように、匂いのする方へと足を向けた。
雪のカーテンの向こうに、ぽつんと一軒の家が佇んでいた。
窓から漏れるオレンジ色の灯りが、ひどく温かい。
「おや、どうしたんだい? こんなところで」
扉を開けて顔を出したのは、穏やかな目をした一人の男性だった。
彼は驚いたように目を見張ったあと、すぐに破顔して、凍えている私を優しく家の中へと招き入れてくれた。
「寒かったろう。今、温かいものを用意するからね」
彼が差し出してくれたのは、湯気が立ち上る出来立ての食事だった。
香ばしく焼けたお肉のいい匂いが部屋中に広がる。
私は夢中でそれに食らいついた。
お行儀悪く口のまわりを汚してしまう私を見て、彼は「よっぽどお腹が空いていたんだね」と、おかしそうに、だけど愛おしそうに目を細めた。
そして、私の濡れた髪をタオルで優しく拭ってくれた。
その手の温もりに、胸の奥がじんわりと熱くなる。
翌朝、外に降りしきる雪は止む気配はない。
私が遠慮がちに彼の顔を見上げると、彼は私の気持ちを察したように微笑んだ。
「無理に外に出なくていいよ。実は、僕もずっと一人で寂しかったんだ。よかったら、ずっとここにいていいんだよ」
その言葉が、どれほど嬉しかったか。
それから、私たちの穏やかな共同生活が始まった。
彼は毎朝、私に「おはよう」と声をかけ、私の頭を優しく撫でてくれる。
彼の手が私の髪や背中に触れるたび、私は嬉しくて、体中が熱くなるのを抑えきれなかった。
一緒に暮らしていく中で私たちには確かな絆が芽生えていた。
彼がキッチンに立つと、私はその後ろをぴったりとついて歩いた。
彼がソファで本を読んでいるときは、膝の上にごろんと横になった。
彼は時折、愛おしそうに私を抱きしめ、その胸に顔を埋めると、おひさまのような安心する匂いがした。
ここが、私の見つけた新しい居場所。
今日も彼は、私のためにご飯の準備をしてくれている。器が床に置かれるカチリという心地よい音。
「さあ、お食べ」
彼に促され、私は嬉しくてたまらず、ブンブンとちぎれんばかりに尻尾を振りながら、四本の足でトトトッと器へ駆け寄った。
そして、差し出されたドッグフードに、勢いよくマズルを突っ込んだ。




