地獄の番犬と桃太郎会議
都。
炎。
悲鳴。
そして。
ケルベロス。
三つ首の魔獣は、都を蹂躙していた。
◆
毒液が地面を溶かす。
黒炎が屋敷を焼き払う。
青銅のような咆哮が、人々の戦意を砕いていく。
「ガァァァァァァッ!!」
御家人たちが吹き飛ばされる。
陰陽師たちの術式も次々破壊されていた。
◆
「まずい……!」
陰陽師が叫ぶ。
「なんとか動きを止められれば黄泉送りの術を発揮できるのだが……」
安倍泰親は歯を食いしばる。
封印術は完成しつつある。
だが。
ケルベロスを止められない。
◆
その時だった。
「おぉぉぉぉっ!!」
場違いな歓声。
全員が振り返る。
◆
そこにいたのは――。
桃太郎。
犬。
猿。
キジ。
いつもの問題児一行だった。
◆
犬が目を輝かせている。
「桃太郎さん!!」
「これ神話に出てくる魔獣ですよ!! 美味しい相手だ!!」
猿も頷いた。
「海外での俺たちの知名度散々だったし、ここでネームドとか嬉しい!」
キジだけが冷静に言う。
「え、自分普通に戦いたくないんですけど……」
◆
だが。
桃太郎は真顔だった。
「では、定番の」
「作戦会議だ」
そう言って。
どこからともなく立て札を出した。
『緊急対策本部』
◆
沈黙。
都中が固まった。
ケルベロスですら止まる。
「…………」
◆
「おい」
三つの首の中央が喋った。
「貴様ら……」
「どういう状況かわかっているのか?」
怒気。
地獄の番犬、ブチギレである。
◆
すると。
犬が逆ギレした。
「お前こそ、この作者の空気感わかってねぇのか!」
「なに!?」
「この作者、前作がいまいちで焦ってんだから、お前も埋もれたくないなら黙ってろ!!」
「……意味がわからん!!」
◆
その後。
桃太郎一行は本当に会議を始めた。
「今回は首が3つあるけど犬だから~」
「いやいや、あいつ地獄の番犬って言われている魔獣ですよ」
「いやいや、でも犬でしょ」
「おいらは同じ犬だから、なんかあいつの攻略法見えてきた感じだな~」
「大丈夫ですかね、毎回、俺ら変な空気にしてますし……」
◆
小一時間後。
都の人間たちは疲れ切っていた。
ケルベロスすら困惑していた。
「……まだか?」
「もうちょっと!!」
桃太郎が答える。
「アイデア出しが一番大事だから、ちょっと待ってて!!」
「なんなんだ貴様らァァァ!!」
◆
そして。
ついに。
「これでいくか!!」
桃太郎が立ち上がる。
犬も頷いた。
「わるくないかも!!」
◆
次の瞬間。
桃太郎。
猿。
キジ。
三方向へ散開。
そして。
ヒュンッ!!
フリスビー。
赤。
青。
黄。
三枚同時に投げ放たれた。
◆
ケルベロスが固まる。
「…………」
ケルベロスは犬。
どれだけ危険な地獄の番犬でも。
本能は犬である。
◆
左の首。
赤へ反応。
中央。
青へ。
右。
黄へ。
「ガッ!?」
◆
グギギギギギッ!!
三つの首が互いに引っ張り合う。
「お、おい待て!?」
「そっち行くな!!」
「離せェ!!」
そして。
ズドォォォォォン!!
ケルベロス、転倒。
◆
沈黙。
都中が静まり返る。
「…………」
陰陽師たちも固まっていた。
御家人たちも口を開けている。
◆
その瞬間。
「今だァァァ!!」
安倍泰親が叫んだ。
無数の術式が展開される。
光。
呪。
封印。
◆
「黄泉送りの術!!」
巨大な術式がケルベロスを包み込む。
地面が開いた。
冥界への門。
◆
「ガァァァァァァッ!!」
ケルベロスが暴れる。
だが。
三つの首はまだフリスビーを追いかけていた。
「あれをくわえたい!!」
「いや俺が先にくわえて、褒めてもらう!!」
「なんか胸が躍る!!」
もはや完全に犬である。
◆
そして。
ズズズズズ……。
ケルベロスは、そのまま冥界へ沈んでいった。
封印完了。
◆
静寂。
誰も喋れなかった。
都を滅ぼしかけた神話級魔獣。
その末路が――。
犬の本能負け。
◆
桃太郎は腕を組んだ。
「いけたな」
「ところで、あれは何しに日本へ……」
犬がドヤ顔する。
「細けぇことはいいんですよ! メジャーになれば!」
キジが真顔で呟く。
「地獄の番犬が、こんなアホみたいな負け方でいいのか?」
◆
一方。
コルキス。
エキドナは、水晶玉を見ながら固まっていた。
「…………え?」
沈黙。
「ちょ、ちょっと待て……」
「あの、ケルベロスが……犬の本能で負けた……?」
目が点だった。
◆
その横。
メディアは玉座で肘をつき、深くため息を吐いていた。
「……めちゃくちゃ過ぎる」
脳裏に蘇る。
師――ヘカテー。
『桃太郎の関係者には関わるな』
『あれは理屈が通じぬ』
◆
メディアは静かにワインを飲む。
そして。
「本当に意味がわからないわ、いったい何なの……」
珍しく、少しだけ疲れた顔をしていた。




