地獄の番犬、東へ
コルキス。
魔女の城。
その地下深く――。
巨大な扉が、ゆっくりと開いていた。
ゴゴゴゴゴ……。
重い鎖。
腐臭。
そして。
闇の奥から響く、低い唸り声。
「グルルルル……」
◆
エキドナは笑っていた。
「久しいな、我が子よ」
その視線の先。
闇の中で、三つの眼が開く。
赤。
赤。
赤。
そして。
ズシン――。
巨大な魔獣が姿を現した。
黒い毛並み。
三つの首。
毒を滴らせる牙。
燃える瞳。
冥府の番犬――ケルベロス。
◆
その咆哮は、空気そのものを震わせた。
「ガァァァァァァァァッ!!」
城が揺れる。
魔物たちですら震え上がる。
だが。
エキドナは愉快そうだった。
「日本へ行け」
「鵺を滅ぼした者どもを喰らい尽くせ」
ケルベロスの三つの首が唸る。
そして。
ドォォォォン!!
その巨体は、大地を砕きながら駆け出した。
◆
一方。
大陸東部。
山岳地帯。
「……来たか」
玉藻の前が静かに目を細める。
その背後には、孫悟空たち。
悟空が如意棒を肩へ担いだ。
「すげぇ気配だなオイ」
三蔵法師も険しい顔をしている。
「これは……魔獣というより、もはや災害」
◆
次の瞬間。
山が吹き飛んだ。
「ガァァァァァァッ!!」
ケルベロス。
その圧倒的な巨体が、大地を蹂躙しながら現れる。
悟空が目を見開く。
「デカッ!?」
◆
玉藻の前が術式を展開した。
狐火。
結界。
無数の妖術がケルベロスへ降り注ぐ。
しかし。
ガァァァァッ!!
咆哮。
それだけで術式が吹き飛んだ。
「なっ……!?」
さらに。
ケルベロスの口から毒液が降り注ぐ。
ジュゥゥゥッ!!
山肌が溶ける。
悟空が飛び退いた。
「やべぇ!!」
◆
さらに。
ゴォォォォォッ!!
黒炎。
大地を焼き尽くす地獄の火。
猪八戒が吹き飛ばされる。
「ぶべぇぇっ!?」
沙悟浄も水術を展開するが――。
瞬間。
石化。
「うおっ!?」
腕が石へ変わり始める。
「見んなァァ!!」
悟空が叫んだ。
◆
だが。
ケルベロスは止まらない。
圧倒的。
まさに“災害”そのものだった。
◆
玉藻の前は静かに息を吐いた。
「……撤退じゃ」
「え?」
悟空が振り返る。
「勝てねぇのか?」
玉藻の前は苦く笑った。
「流石にあのレベルは無理じゃ」
そして。
東を見た。
「やはり……」
「奴らに賭けるしかないか」
◆
その頃。
日本。
都。
陰陽寮。
安倍泰親は静かに目を閉じていた。
「……来る」
物忌み様の神託。
巨大な怪異。
西より来る災厄。
陰陽師たちが緊張した表情で並ぶ。
◆
次の瞬間。
ドォォォォォン!!
都の外壁が吹き飛んだ。
「ガァァァァァァァァッ!!」
地獄の番犬。
ケルベロス。
その姿を見た瞬間。
御家人たちの顔から血の気が引く。
◆
毒液。
咆哮。
そして――青銅のような音。
ゴォォォォォン……!!
耳ではない。
魂へ響く。
恐怖。
理性が削られる。
御家人の一人が膝をついた。
「う、動け……!」
身体が震える。
戦意そのものが削られていく。
◆
「怯むなァ!!」
安倍泰親が叫ぶ。
式神が舞う。
結界。
呪符。
陰陽術の嵐。
しかし。
ケルベロスは火炎で吹き飛ばし、毒液で溶かし、視線で石化させながら暴れ続けた。
◆
「このままでは……!」
陰陽師が叫ぶ。
だが。
泰親は静かだった。
「黄泉送りの術を使う」
空気が凍る。
禁術。
冥界封印。
だが発動には――。
時間がいる。
◆
「動きを止めろ!!」
御家人たちが突撃する。
陰陽師たちも術を重ねる。
だが。
ケルベロスは圧倒的だった。
隙が作れない。
◆
その時だった。
「海外の昔話より俺の話の方がおもしろいだろ!!」
「いや、いや、桃太郎さんの話は勢いだけなんですよ、この作者の作品みたいに!!」
「それ言うと作者に出禁にされるぞ!!」
明らかに場違いな会話。
全員が振り向く。
◆
そこにいたのは――。
一人の男。
桃色の陣羽織。
犬。
猿。
キジ。
◆
「……なんだあれ?」
御家人が呟く。
泰親の目が見開かれる。
「まさか……」
◆
男は、巨大なケルベロスを見上げ――。
ニヤリと笑った。
「おっ、なんかPV稼げそうなのいるじゃねぇか!!」
日本昔話最強の問題児。
桃太郎。
海外旅行から――帰還。




