満月の月姫連合とフランス大乱闘
ローマ。
聖騎士団仮本部。
壊滅したバチカンから生き残った騎士たちが、慌ただしく動き回っていた。
その一室で――。
ランスロットは、大きな地図を睨んでいた。
「メディアは想像以上の化け物だ」
低い声。
その顔には、父を失った悲しみと怒りが刻まれている。
「正面から聖騎士団だけで戦えば、いずれ全滅する」
新右衛門は腕を組んだ。
「では、どうする」
ランスロットは顔を上げる。
「アテネへ向かう」
「英雄ペルセウスに助力を頼む」
その名に、空気が張り詰めた。
雪桃が小さく呟く。
「……メデューサおばさんの敵」
「正確には討伐者だ」
ランスロットは静かに答える。
「だが今なお、西洋最強の英雄として名を残している」
「メディアに対抗できる可能性があるとすれば、あの男だけだ」
新右衛門は頷いた。
「ならば、頼るしかあるまい」
すると。
騎士が慌てて駆け込んできた。
「だ、団長!!」
「大英帝国の女王陛下より援軍要請です!!」
ランスロットが眉をひそめる。
「内容は」
「魔女キルケーが英国各地で暴れております!!」
騎士の顔は青ざめていた。
「住民を獣へ変え、街を混乱に陥れているとのこと!」
ソフィアが立ち上がる。
「兄上、わたしが行きます」
「だが――」
「父上の仇を討つためにも、戦います」
ランスロットはしばらく黙り――。
そして頷いた。
「……頼む」
こうして。
ソフィアは雪桃たちと共に、英国へ向かうことになった。
◇ ◇ ◇
だが。
旅の最中――。
「新右衛門殿、この場合、騎士ならどう動くべきだと思う?」
「正面突破ではなく側面を――」
「なるほど……!」
「新右衛門殿、聖騎士団の陣形についてだが――」
「盾兵を前へ――」
「勉強になる……!」
「新右衛門殿――」
「新右衛門殿――」
「新右衛門殿――」
「…………」
雪桃の額に青筋が浮かんだ。
「……ねえハチマン」
「はい?」
「あの女の尻に噛みついて!」
「だから、嫌ですって!」
「まったく、ハチマンは野性味がないんだから!」
「そんな野性味は見たくないわ……」
月桃が呆れていた。
そんな中。
キルケーは既に動いていた。
◇ ◇ ◇
フランス。
深い森。
月が、不気味に空を照らしている。
森の奥で。
魔女キルケーは妖しく笑っていた。
「ふふ……」
黄金の瞳が細まる。
「奴らが英国へ向かうには、ここを通るしかない」
杖を振る。
すると。
森の奥から、獣の唸り声が響いた。
ライオン。
牙を剥く巨大な獅子たち。
だがその瞳には、人間の苦しみが残っている。
騎士たちだった。
キルケーの魔法で獣へ変えられた者たち。
さらに。
ゴォォォォッ!!
炎が森を照らす。
巨大な翼。
長い首。
鋭い牙。
ヴォーヴル。
フランス山岳地帯に棲む火竜だった。
キルケーは微笑む。
「さあ、暴れてきなさい!」
◇ ◇ ◇
翌日、満月の夜。
雪桃たちは、その森へ足を踏み入れていた。
直後。
グルルルル……!!
ライオンの群れ。
さらに。
空から火炎が降り注いだ。
「なっ――!?」
ドゴォォォン!!
爆炎。
木々が吹き飛ぶ。
新右衛門が刀を抜く。
「ドラゴンか……!」
ソフィアも剣を構えた。
「数が多すぎる……!」
雪桃も顔を強張らせる。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「これ本当に勝てる数!?」
その時だった。
「……はぁ」
月桃が前へ出る。
「わたしがやるしかないか!」
次の瞬間。
バサッ――。
月桃の背中に、真っ赤な特攻服が翻った。
『月姫連合』
金文字の刺繍。
肩には木刀。
そして。
ピィィィィッ!!
鋭い指笛。
すると。
森の奥から、無数の影が現れた。
狼人間。
人狼たちだった。
「お嬢!!」
「月桃姐さん!!」
雪桃が目を丸くする。
「な、なにこの人たち!?」
月桃は木刀を肩へ担いだ。
「昔、母上にボコられた狼男たち」
「今はうちの舎弟みたいなもん」
狼男たちが吠える。
「満月パワー使わせてもらえなかった時はマジ地獄だったぜ!!」
「でも姐さん、好きっす!!」
月桃がニヤリと笑った。
「この中に――」
木刀を掲げる。
「ドラゴンやライオンにビビってる奴いねぇよなぁ!!?」
「「「おぉぉぉぉぉっ!!!」」」
「姐さん、大好きだぜ!」
完全にヤンキー漫画だった。
そして。
大乱闘開始。
人狼がライオンへ飛びかかる。
ドラゴンへ集団で殴りかかる。
森が地獄絵図になった。
「え、これ、そういうストーリーだったけ!?」
雪桃が叫ぶ。
「完全に一時代前のヤンキー漫画です!!」
ハチマンが真顔だった。
だが。
「おいらは別任務!」
ハチマンは森の奥の屋敷に向かって駆けていく。
その家に住むのは。
細身の紳士。
丸眼鏡。
白衣。
ジキル博士だった。
あらかじめ、ハチマンは魔物に変えられた人間をもとに戻す研究をジキル博士に依頼していたのだ。
「本当に効くんですかその薬!?」
「理論上は!」
「理論上!?」
すると突然。
ジキル博士が苦しみ始めた。
「ぐっ……!」
「えっ、いま?」
次の瞬間。
筋肉が膨張。
顔が歪む。
「ウオォォォォッ!!」
「タイミングとか考えてくださいよ!!」
巨大化したハイド氏が暴れ始める。
ハチマン絶叫。
「マジ、急展開っす!?」
ハイド氏が襲いかかる。
だが。
ヒュンッ!!
新右衛門の手刀。
ドゴッ!!
「グフッ!?」
ハイド氏が白目を剥いた。
「気絶した!?」
さらに。
バシッ!!
安倍泰親から渡された呪符を貼る。
すると。
ジュゥゥゥッ!!
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
煙。
そして。
「……あれ?」
ジキル博士へ戻った。
「助かった……」
「忙しい人ですね、あんた何がやりたいんですか!?」
ハチマンが真顔だった。
その後。
雪桃たちが人狼にやられて倒れているライオンに薬を飲ませていく。
ジキル博士の薬の効果で、ライオンへ変えられた騎士たちも次々元へ戻っていく。
「お、おお……!」
「人間に戻った!」
戦況は逆転した。
残されたドラゴンへ、人狼たちが殺到する。
「うぉぉぉぉっ!!」
「月姫連合なめんなぁぁ!!」
そして。
ドゴォォォォン!!
ヴォーヴルがついに倒れた。
静寂。
満月の下。
月桃は木刀を掲げる。
「ドラゴン、なんぼのもんじゃい、こら!!」
そして、人狼たちの歓声が森を揺らした。
その姿は。
誰よりも勇ましく。
月姫というより、
まるで――。
狼王そのものであった。




