第四十四話 抑えきれない想い
※7月28日追記
投稿時に冒頭約2300文字が欠落していたため、追加修正しました。すでに読まれた方は、冒頭から読み直していただけますと幸いです。
「奏様」
シンが咳払いをする。
奏は聞こえないふりをした。
「もー、奏くん。“これ”扱いはひどいよ。私、この神殿のトップだよ」
「あんたに威厳があったら、もっと丁寧に接してやるよ」
「この人が、大司祭様……」
驚いた。
こんなに若い人が、神殿で一番偉いなんて。
「晴斗くん」
大司祭がこちらへ向き直る。
「私が大司祭だって分からないのも無理ないよね。実際、数回しか会ってないし」
奏が大司祭と何度も顔を合わせていたことは知っている。
俺が勇者になるなんて、誰にも期待されていなかったから、当然だと思っていた。
「あの時は儀式で立て込んでて、奏くんのことばかりになってた。落ち着いたら、改めて君とも話をするつもりだったんだ。ごめんね」
大司祭は申し訳なさそうに眉を下げ、それから柔らかく笑った。
「奏くんからは、旅の途中で偶然再会したと聞いてる。無事でよかった」
奏は、俺が魔王城にいたことを隠してくれてるのか。
思わず奏の方をちらりと見ると、あいつも俺の視線に気づき、わずかに口の端を持ち上げた。
「それで、奏くんと会うまではどこにいたの?」
ぎくりとした。
魔王に攫われたとは言えない。
めぐりめぐって、隣に座る男が魔王だとバレてしまうかもしれない。
黙っている俺を見て、大司祭は言いにくそうに口を開いた。
「もしかして……自分から出て行った……?」
ん?
大司祭の表情には罪悪感のようなものが浮かんでいる。
俺と奏への扱いに差があったことは、向こうも分かっているらしい。
「あ、あー……はい。そうなんです、実は」
俺は、その都合のいい勘違いに乗ることにした。
「でも、お金もなくて、しばらくあちこちを彷徨ってたんです」
「……肩身の狭い思いをさせちゃって本当にごめんね。その償いとは言えないけど、晴斗くんの治療に専念させて欲しい」
「で、晴斗を治せるの?」
奏が口を挟む。
大司祭は少し首を傾けて考える。
「まだ、わからない。晴斗くん、こっちにきて」
そうやって、自分の隣の座面をポンと叩いた。
「えっ」
途端に、隣にいるヴァルガの気配が鋭くなる。
「何をするつもりだ」
「触れないと、治療できないんだ」
大司祭は困ったように笑った。
「別に、君から取り上げたりしないから」
「ここでしろ」
「はいはい。分かったよ」
大司祭はあっさり頷くと、ソファーから立ち上がった。
俺の前まで来て、その場に膝をつく。
「えっ、あの……」
大司祭をわざわざ俺の前に来させるなんて、いいのか?
「晴斗くん、手を貸して」
おそるおそる手を差し出すと、細く白い指が俺の手を包んだ。
隣でヴァルガが身じろぎする。
「大丈夫。痛いことはしないよ」
大司祭がそう言った直後、触れた場所から、じんわりとした温かさが流れ込んできた。
冷えていた指先が温まり、重かった身体が少しずつ軽くなっていく。
「あ……」
旅の途中からずっと身体の奥に溜まっていた倦怠感が、薄れていた。
「どう?」
「なんか……身体が軽いです」
「本当!?」
奏が嬉しそうに声を上げる。
けれど、俺をじっと見つめるうちに、その表情が曇った。
「……でも、生命力の色は薄いままだ」
「うん。今は私の神力で、弱った身体を支えただけだからね」
大司祭は俺の手を包んだまま、穏やかに答えた。
「身体を楽にすることはできても、失われた生命力まで戻せるかは、まだ分からない」
「本格的に治療すれば、分かるのか」
ヴァルガの声が低くなる。
「そのためには、まず晴斗くんの身体を私の神力に慣らさないといけない。今の状態で強い神力を流しても、うまく馴染まないどころか、かえって負担になるかもしれないから」
大司祭は俺を安心させるように微笑んだ。
「これから毎日、少しずつ神力を流す。それから本格的な治療を試してみよう」
そう言って、俺の手を優しく撫でる。
「安心して。できることは全部やるよ」
「シン、あとで部屋に案内してあげて」
「承知いたしました」
大司祭は立ち上がったが、なぜか俺の手は握ったままだった。
それから、初めて思い出したかのようにレオンへ目を向ける。
「あと、レオンくん。引き続き、晴斗くんと奏くんのことをよろしくね」
レオンの表情が固くなった。
「……俺のことを覚えておいででしたか」
大司祭は、金色の髪をさらりと揺らして微笑んだ。
「当たり前だよ。大切な転移者の世話を任せた神官を、私が知らないわけないでしょう?」
「……それは、光栄です」
レオンは薄く笑った。
けれど、その目は少しも笑っていない。
そのやり取りの間も、大司祭は俺の手を離そうとしない。
その指先は、薬指にはまった指輪を確かめるように撫でていた。
なんだか、それが嫌だった。
「あ、あの……」
言いかけると同時に、隣のヴァルガの気配が冷たいことに気づいた。
「……そろそろ離せ」
低い声とともに、ヴァルガが大司祭の手を振り払う。
「ちょ……」
「治療はもう終わったのだろう」
ヴァルガは俺の手を自分の方へ引き寄せ、大司祭を睨んでいる。
大司祭は振り払われた手を眺めたあと、気を悪くした様子もなく首を傾げた。
「……そういえば、君は誰?」
「えっ」
そういえば、まだヴァルガのことを何も説明していなかった。
「お、俺の護衛です」
「護衛?」
大司祭の片目が、興味深そうにヴァルガへ向く。
「名前は?」
言葉に詰まった。
ヴァルガの本名を、そのまま言っていいのか?
魔王の名前が、リヴェルトにどこまで知られているのか分からない。
何か適当な名前を考えようとした、その時だった。
「ヴァルガだ」
ヴァルガは大司祭の目を真っ直ぐに見つめ、自ら名乗った。
名乗ったというより、その名を相手へ突きつけたように聞こえる。
心臓が止まりそうになった。
大司祭は一度だけ瞬きをする。
「ヴァルガ……」
けれど、すぐにくすりと笑った。
「そう。よろしくね、ヴァルガくん。君にもちゃんと部屋を用意するから、安心して」
***
俺たちには、それぞれ別の客室が用意されていた。
案内された部屋は、どれも互いにひどく離れている。
俺はシンと二人きりで、長い廊下を歩いていた。
他のみんなの案内はすでに終わり、俺の部屋が最後になった。
ヴァルガは、用意された部屋の前でシンを睨みつけていたけど、レオンにたしなめられ渋々自分の部屋へ入っていった。
シンは、おしゃべりな人じゃない。
無駄話もなく、無言で長い廊下を歩くのは結構しんどかった。
少し心細くなって、ついシンに話しかける。
「あの……適当な部屋でいいんで、もう少しみんなと近いところがいいんですけど……」
シンは感情の読めない顔で、俺を見下ろした。
「いいえ。大司祭様のお客人に、粗末な部屋を使わせるわけにはまいりません」
結局、奥まった場所にある、やけに豪華な扉の前まで来てしまった。
「こちらです。ご入用があれば、なんなりとお申しつけください」
そう言って一礼し、シンは廊下を戻っていく。
その後ろ姿が見えなくなってから、俺は小さく呟いた。
「前は奏と同じ部屋だったけど、結構ボロかったじゃん……」
「あれは俺が、晴斗と同じ部屋にしてくれって頼んだんだよ」
ぽつりと零した独り言に返事があって、驚いて辺りを見回す。
柱の影から、人が出てきた。
「奏……」
見知った姿に、張り詰めていた気が緩む。
「あいつら、俺と晴斗で扱いを変えるから。晴斗と同じ部屋じゃなきゃ言うことを聞かないって、俺が言い張ったんだ」
「そうだったんだ……」
奏は豪華な扉を見上げる。
「今度も変な部屋をあてがわれてないか、一応見に来たんだけど……問題なさそうだな」
奏の横顔を見て、その声を聞いて、ようやく奏が無事だと再確認した。
「……お前が無事でよかった。捕まってたらどうしようって思ってたんだ」
奏は苦々しげに言う。
「……大司祭は俺に甘いから。連れて行かれても、大事にはならないと思ってた」
そういえば、さっきも粥をあーんされていた。
俺も、ヴァルガにされたことがある。
あれは、ヴァルガと同じ甘やかし方だ。
俺の微妙な顔を見て、奏がそっぽを向く。
「……あの人、いつもああなんだ。ものすごく甘やかす。でも、笑ってるのに表情が読めない」
奏は小さく息を吐いた。
「苦手だよ。ずっと。何を考えてるのか分からない」
それから、もう一度俺を見る。
「でも、今はあの人に頼るしかない。晴斗……治るといいな……」
奏は俺の方を向いているのに、俺自身を見てはいなかった。
痛ましげなその表情で、俺の生命力の色を見ているんだろう。
「晴斗……」
奏の手が俺の頬に触れようとした、その時だった。
奏の頭上に、黒い影が落ちる。
伸ばされた手首を、背後から褐色の手が掴んだ。
「晴斗に触るな」
「……なんか、来ると思ったわ」
ヴァルガは振り捨てるように奏の手を放し、俺のそばへぴたりと寄り添った。
そのまま奏をじっと見つめる。
けれど、今度は睨んでいるわけではなかった。
「オルドが、お前に感謝していた」
「え?」
ヴァルガは、ふんと横を向く。
「確かに伝えたぞ」
それを聞いた奏は、ゆっくりと瞳を閉じた。
「……そうか」
奏の肩から、ほんの少しだけ力が抜けた。
けれど、その口元に笑みは浮かばない。
オルドを救えたことより、救えなかった人たちの方を見ている。
そんな顔だった。
何か声をかけようとした時、廊下の奥から声が響いた。
「やっぱり、みんな集まっていたか」
その声に奏の後ろへ視線を向けると、レオンがこちらへ歩いてきていた。
「レオン」
奏の声に、レオンは笑う。
「勇者殿、ご無事でなによりだ」
レオンが、奏の頭をくしゃりと撫でた。
以前、同じことをされて奏が嫌がっているのを見たことがある。
けれど今は、されるがままになっていた。
レオンはヴァルガに向かって肩をすくめる。
「また晴斗の取り合いか。晴斗の友人も大事にしないと嫌われるぞ」
そしてニヤリと笑った。
「なあ? 護衛のヴァルガくん」
ヴァルガは嫌な顔をしたけど、何も言わなかった。
レオンの言葉で思い出した。
「あっ、そうだ! お前、なんで本名を言ったんだよ」
「その話は中でしろ」
レオンがすぐに声を落とし、廊下の両側へ視線を走らせる。
「どこで誰が聞いているか分からん」
「……あ」
慌てて扉を開けた。
奏、ヴァルガ、レオンの順に部屋へ入る。俺も続いて中へ入り、最後に鍵をかけた。
用意された客室は、俺一人で使うには広すぎるほどだった。
「それで」
改めてヴァルガを振り返る。
「なんで本名を言ったんだよ」
ヴァルガは悪びれる様子もなく答える。
「あの男が晴斗に害をなせば、魔王ヴァルガが許さない。その意味で名乗った」
「……え、え?」
喧嘩を売ったってことか?
いや、牽制……?
どっちにしても、バレたらまずいだろ……。
「ヴァルガが魔王の名だと、あいつが知っているかは分からん」
俺が思考停止していると、レオンが口を開いた。
「人間の間に、魔王の名は伝わっていないはずだ。魔族ですら、城のごく近しい者しか知らない」
「じゃあ、大丈夫なのか……?」
「……いや」
レオンはわずかに目を細めた。
「捕らえた魔族を拷問して、聞き出していなければの話だが」
「怖いこと言うなよ……」
そう口にしてから、リヴェルトが魔族の身体を使って黒濁を作っていることを思い出す。
この国にとっては、拷問なんて大した話じゃないのかもしれない。
「どちらでも構わん」
ヴァルガが低く言った。
「晴斗を治す者である限り、こちらから手を出すつもりはない。だが、治療を口実に害をなすつもりなら、正体を隠す意味もない」
赤い瞳が、真っ直ぐ俺に向けられる。
「あの男は、やはりきな臭い。晴斗、決して一人になるな」
「……うん」
大司祭の優しい笑顔が頭に浮かぶ。
身体を楽にしてくれたのも事実だ。
でも、あの人はリヴェルトの大司祭で──
「……あの人も、魔族を殺して黒濁を作ってることに関わってるんだよな」
俺の言葉に、奏が考え込むように呟いた。
「……表向きは慈悲深い。俺の前では、いつもふざけたように振る舞ってる。でも、本当は何を考えてるのか……俺にも分からない」
レオンが奏の肩に手を置いた。
「神殿の頂点に立つ者が、黒濁と無関係とは考えにくい。俺も探ってみる」
そう言ってから、レオンは部屋の扉へ目を向けた。
「少なくとも、今のところ監視の気配はないようだが、今日はもうそれぞれの部屋へ戻った方がいいだろう」
話はそこで切り上げることになり、三人が扉へ向かう。
広い部屋に一人で残されるのは少し心細かったけど、仕方ない。
奏とレオンが廊下へ出て、扉が閉まった。
閉めたのは、ヴァルガだった。
後ろ手に、カチャリと鍵をかける。
『おい、何してんだよ!』
奏の声が扉越しに聞こえたけれど、何やらレオンに言われたらしく、やがて遠ざかっていった。
「ヴァルガ……?」
「言ったろう。一人になるなと」
ヴァルガは俺の目の前まで歩いてきた。
「俺はここに残る」
勝手にそんなことをしていいのかと、一瞬思った。
けれど、ヴァルガがいてくれると思うと、急に心が軽くなる。
「ありがとう……」
ヴァルガの大きな手が頬に触れた。
「……体調は、本当によくなったのか?」
「あ、うん。絶好調ってわけじゃないけど、すごく楽になったよ」
ヴァルガの腕が背中に回る。
強く抱き締められ、そのまま長い息が吐き出された。
「……よかった」
吐息のような安堵の声に、胸が締めつけられる。
「ごめんな。心配かけて」
ヴァルガの背中を撫でると、無言で首を振った。
やがて腕を解き、今度は俺の手を取る。
「リヴェルトに来て、よかった……」
噛み締めるように呟きながら、俺の手をじっと見つめている。
その表情が、ふいに険しくなった。
「しかし、あの男……晴斗にべたべたと……」
大司祭のことを思い出したらしい。
眉間に深い皺を刻むと、おもむろに俺の手へ唇を寄せた。
指先に熱い息がかかり、身体が震える。
「ちょ……ヴァルガ!」
「消毒だ」
そう言って、俺の指に丹念に唇を這わせていく。
「ま、待てって……」
これはちょっと、まずい。
ヴァルガが顔を上げる頃には、俺は息が上がってしまっていた。
「晴斗?」
くそ。きょとんとしてる。
俺だけかよ。
「もしや、体調が悪くなったか?」
慌てたように俺の顔を覗き込んでくる。
心配そうに揺れる赤い瞳を見て、また胸がきゅうとなった。
いつだって、俺のことが最優先。
律儀に約束を守って、必要以上には触れてこない。
番だから大事にされている。
きっと、そうなんだと思う。
番じゃなかったら、愛されていなかったかもしれない。
でも、そんなことを考えたって仕方ない。
今、俺だけを見つめている瞳が、あまりにも優しくて嬉しくて──
俺はヴァルガの唇に口づける。
ヴァルガは一瞬、息を止めた。
俺の意図を測りかねているのか、されるがまま動かない。
その胸を押しながら後ろへ進み、ベッドへ押し倒した。
大きな身体が、思いのほか素直にベッドへ沈む。
ヴァルガは顔を赤くしたまま、呆然と俺を見上げていた。
「は、晴斗……? 約束は……」
「人前では、だろ」
「それは、そうだが……」
俺はヴァルガの腰を跨ぎ、両手をその胸についた。
「……今、思ったんだけどさ」
ヴァルガが、ごくりと喉を鳴らす。
「部屋がみんなと離されて、心細いと思ってたけど」
顔が熱い。
それでも、もう止まるつもりはなかった。
「多少声が出ても、誰にも聞かれなさそうだし……かえってよかったのかも」
ヴァルガの顔が、さらに赤くなっていく。
「それは……」
「嫌なのか?」
返事を待たずに、俺はヴァルガの襟元の留め具を外した。
しゃらりと鎖が鳴り、黒い布袋に包まれた宝珠が顔を覗かせる。
「晴斗、触るな……!」
ヴァルガはすぐに、それを俺から隠すように握り締めた。
願わなければ、大丈夫なはずなのに。
俺がまた生命力を失わないよう、ヴァルガは宝珠を近づけようとしない。
俺は安心させるように笑った。
「触ってない。大丈夫だよ」
そう言って、その首筋に顔を埋める。
音を立てて口づけると、ヴァルガの肩がびくりと揺れた。
「は、晴斗……具合は……体調が悪いのは……」
「だから、今はもう平気だって……」
肌に唇を添わせたまま答える。
以前こいつにされたように、胸へ手を伸ばしてみた。
「……っ」
頭上から、息を呑むような声が聞こえる。
俺の貧弱な身体とは、まるで違う。
触れているのは、鍛え上げられた男の身体だった。
この前は緊張していて、こんなにまじまじと見る余裕なんてなかった。
筋肉の膨らみや窪みを、指先でゆっくりとなぞる。
呼吸に合わせて動く身体が妙に艶めかしくて、心臓が高鳴った。
胸元へ何度か口づけ、そのまま少しずつ唇を下へ移していく。
「晴斗……!」
咎めるように名前を呼ばれた。
構わず腹へ触れようとすると、ヴァルガの手が俺の肩を掴む。
「待て……! 何をするつもりだ?」
「何って……」
見上げると、ヴァルガはいつになく焦った顔をしていた。
「お前に、そのようなことをさせるつもりはない」
「……お前だって、俺にしただろ」
俺はヴァルガの目を真っ直ぐに見つめる。
「俺も、お前にしてやりたい」
赤い瞳が大きく見開かれた。
そこに期待と罪悪感のようなものが入り混じり、迷うように揺れている。
俺を止めていた手から、ゆっくりと力が抜けていく。
何も言えずにいるヴァルガの下腹に、そっと口づけた。
もう、ヴァルガは止めなかった。
それでも俺が口づけるたび、肩に触れる指先がかすかに震えている。
自分からこんなふうに触れるのは初めてなのに、不思議と嫌ではなかった。
それよりも、声が漏れるのを必死に堪えている息遣いが、たまらなく嬉しい。
突然、腰へ太い腕が回った。
「……もう、いい……っ」
そのまま身体を持ち上げられ、視界が反転する。
気づいた時には寝台へ沈められ、ヴァルガが俺の上に覆い被さっていた。
「あ、あれ? でも、まだ……」
荒い呼吸の合間から、掠れた声が落ちてくる。
「これ以上は、耐えられん……」
ヴァルガははだけたシャツを脱ぎ捨てた。
首から鎖を乱暴に外すと、宝珠をベッド脇の卓へ放る。
「えっ、ちょっ……」
ちょっと扱い雑すぎないか?
宝珠が無事か確かめようと手を伸ばした瞬間、その手首を掴まれた。
「……そんなもの、どうでもいい」
強引に引き戻され、激しく唇を塞がれる。
あまりの激しさに、息ができない。
ようやく唇が離れ、俺は大きく息を吸った。
目を開けると、すぐ間近から赤い瞳が俺を見つめている。
「ヴァルガ……?」
「優しくしたいのに、こんなことをされたら、もう……」
ヴァルガは俺のシャツのボタンを、引きちぎるような勢いで外していく。
「あっ……」
「俺が、どれほど我慢していたと思っている」
声が震えている。
その言葉どおり、口づけも服を脱がせる手つきも性急だった。
それなのに、素肌を撫でる掌だけは、壊れ物に触れるように優しい。
俺はたまらず、その首に抱きついた。
それから先は、何も考えられなかった。
ただ触れ合う熱に浮かされ、夢中でヴァルガの名前を呼んだ。
「愛してる」
その夜は、何度もその言葉を口にした。
恥ずかしさも、もう感じなかった。




