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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒


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第7話 黒金の衝突


闘技場には訓練生と、現役の兵士合わせて数千人が、荒々しく観客席を埋め尽くしている。


「ここに、ニーア王国、第129回訓練生、焔壮の入寮の儀を始める!」



ド派手な礼砲が放たれると、国家の演奏がはじまり、歓声が地響きを鳴らして沸き立った。


「では我らがニーア王国兵団長、ギルバート・レティア殿からの挨拶」


闘技場1階の高台に登ったギルバートは軽い咳払いをする。

そして彼が前を向くと、観客席の全ての人間が、一斉に立ち上がって注目した。


「日々の勤務、訓練。誠にご苦労。ライブラを照らすこの青天の日にこれを開催できたことを、嬉しく思う。この国の明日を担う、若き英雄の誕生を祝おう。さて、おじさんの話はそろそろにして、皆も結局、これが楽しみだろう? 毎年恒例、最優秀入寮生同士の演舞。早速お呼びしようか。ではこちらへ」


控えの廊下から奈緒とリタはギルバートの隣に歩いていく。


「リタ・ナイトロック。昨日の体力テストでは異次元の歴代最高記録を叩き出し、幼少期から戦いの中で生き、己を磨き上げてきた生まれながらの戦士。

 一方、ナオ・ミツキ。出自不明。能力不明。突如田舎町に現れた商売娘。しかしあのキメラを素手で討伐してみせるその腕力。体力テストでは測定不能。全てが謎の規格外のダークホース」


ギルバートは後ろを向いて二人の肩に手を回す。


「いいか。あくまで演舞だ。小技をいくつか出して、盛り上がる大業を放って相殺で終わりだ。良いな?」


二人は目も合わせず、返事もしない。


「おい。聞いているのか......」


リタはそっぽを向いて、奈緒は足元の小石をつま先でイジる。


「はぁ...... これだからブラックゴールドはいつも......」

頭を抱えるギルバート。

「ナオ」

頼むと言わんばかりにギルバートは奈緒を見つめる。

「はぁ。分かってますよ。大丈夫です。危なくないようにしますから。......出来れば、ですけど」


最後にボソッと呟く奈緒


「うむ。頼んだよ。じゃあ下へ降りて」



二人は別れ別々の入り口から、アリーナへ降りていく。



暗い廊下を歩きながら、奈緒は振り返る。



――あーあ。変なことになっちゃったな。


でも。あいつの言葉、妙に勘に触る。



“やる気ないなら帰れば?”


”人に言われてきた“


”舐めんじゃねえ“


”一人で生きていける“


奈緒は拳を握りしめた。



一方でリタも奈緒から言われた言葉に怒りを募らせていた。



”孤独の言い訳してんじゃねえ“


”アンタ、本当は弱いんじゃない?“


赤眼を光らせ、赤黒いオーラを漂わせる。



二人の思考は、シンクロする。



        無事で終わらせる?



          

           無いわね。



        

         全力で叩き潰す。




斜陽が差し込むアリーナ入り口を抜けると奈緒の視界は一気に明るくなる。


その瞬間大歓声が沸き立ち、足がすくむ程の緊張感に襲われる。


そのまま中央の開始位置まで止まることなく歩いた。



リタも同様に歩き、二人は位置に着く。



「それでは、双方、準備はいいか!」



闘技場はかつて無いほど静まり返り、二人の間を風が木の葉を連れて抜けていく。



「はじめえええええ!」



巨大なドラの振動が会場全体に響き渡った。



リタは戦闘態勢に入ると、腰に帯刀していたサーベルを抜いて構える。


奈緒はそこに立ち尽くしたまま動かない。






「あ、カリムさん。ここに居たんですね」

「おう、遅かったな。早く水晶準備しろ」


闘技場一階席で演舞を見ているのは、護衛軍の3番隊隊長、カリム・ダーマイン。と副長のネイサン・トルーパー。


「あれが噂のブラックゴールドの二人か。どっちも女性とは怖いねぇ」

「ええ。特にあのリタ・ナイトロック。あの戦争の生き残りで、傭兵一家、ナイトロック家の最高傑作と言われています」

「水晶はどうだ?」

「はいよ」


水晶はホログラムのような画面をその場に投影すると、リタに関するあらゆる数値を表示する。


「カリムさん、......とんでもない魔力です」

「総合魔力が10万超え......こりゃ敵がいないわけだな」

「加えてあの赤眼。相手の力や能力をおおよそ見抜くことができる。凄まじいポテンシャルですよね」






奈緒はその場で動けずにいた。



――てかさ



戦うってどうやんのおおおおおおおお!


勢いだったんです。ほんとそれだけでとんでもないところきちゃったあああああ!


つか何あいつ、なんで武器なんか持ってんの!?


聞いてないです! ルール違反です!


あれ真剣じゃない? 本物だよね!?


死ぬよ!? たぶん私でも死ぬよ!?



「何してんのアンタ」

一歩ずつ近づきながら様子を見ていたリタは、何も構えない奈緒に聞く。


「は、は? 来るの待ってやってんだろうが!」



「じゃあ、遠慮なく」



リタは地面を蹴ると猛スピードで飛んできた。



はい、すいません強がりです! 


本当は来てほしくないです! 帰ってください!


「うわああああ!」

あまりの恐怖に声を出して腕を咄嗟に挙げた。


前屈みで突っ込んできたリタはそのままサーベルで思い切り腕を切りつけた。



死ぬーーーーー!



あれ。



「生きてる。痛くない...... 」

奈緒は自身の腕を見直したが傷一つない。


リタは驚きすぐさまバックステップで距離を取る。


「馬鹿な。無傷? 外したか? それよりもあいつ、あの構えと反応......」



リタは額に脈を浮立たせる。


「アンタもしかして戦ったこと、無い?」


奈緒は冷や汗をかく。

舐められちゃダメだ。でも嘘もつきたくない......


「じゅ授業ではある! 柔道はやったことある!」



リタは魔力を体から燃え上がらせた。



「こんな奴がアタシとここで戦うなんてね。......ふざけるのも大概にしやがれええええええ!」


リタは怒りのままに爆速でまた迫ってくる。


「ひぃいいいいいい!」

奈緒はまた顔の前に腕をやりガードしようとした。


しかしリタは奈緒の前で突然消える。


「確実に終わらせてあげる。この茶番も。アンタの人生も」


そう背後から聞こえた時にはすでに、サーベルは奈緒の喉元を引き切った後だった。


「くだらない。無駄な時間過ごし......た?」


サーベルの刃がボロボロに欠けていることに気付く。


「何これ」


リタは後ろから尋常でない圧力を感じた。



「アンタ、それ偽物ね。......ビビらせやがって」


――そうとわかれば別に怖いもんないのよおおおおおお!


「そんなおもちゃで、大人を殺せると思うなああああ!」


奈緒は爆風を起こし、リタの目でも追えないスピードで彼女の目の前にいくと、拳を大きく振りかぶった。


「ぶっ飛べええええ!」


リタは恐怖した。


――やばい。何なのこいつ。


これに当たるとヤバい! でももう、間に合わ......


リタの顔面に放たれた奈緒のパンチはいくつもの波動を産み、追いかけるように暴風が会場全体を暴れ回った。



風が落ち着くとリタは目を開けた。


奈緒の拳はリタの右頬ギリギリを通り抜け当たらなかった。

リタは奈緒の腹に前蹴りをすると、また下がり距離を取った。





「おい見たか! どうなってんだあの女! リタの剣は当たってなかったのか!」

「いや流石にナイトロック家の体術ですよ! 当たってたらナオは即死で......」

水晶に映った映像を巻き戻すと刃は確実に当たっていた。

「一体何が起こってる!? ナオの数値は!?」

「それが......」


水晶の数値は???を表示する。


「なんだこれ! こんなの初めて見たぞ!?」


「......カリムさんこれ、もしかして測定不能じゃなくて、」



奈緒の目にはもう戦いへの恐れはない。

        


    

    「”未確定“なんじゃないですか?」




リタは動揺を隠せず、眼前の異質な存在に警戒を強めた。





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