第5話 王都ライブラ
幾つかの森を抜け、長い馬車の旅に終点が迫る。
陽は暮れて、赤い光がその牙城の輪郭を一層壮大な景色に塗り替えた。
「見えてきたぞ。あれが王都、ライブラ。国王が暮らす、この国の中枢だ」
ギルバートがそういうと、奈緒は瞳を大きくして食い入るように見つめた。
広大な土地を囲む大き過ぎる石壁に、その町全体が覆い尽くされている。
中心から天空へ刺さるように伸びる王宮の主塔は、禍々しく城下町を見下ろしていた。
巨人が通るのかと思うほど巨大な城門が地響きと共に左右に開く。
その先には、様々な色のランタンの光が四方八方から輝き、街全体を照らしている。音楽と楽しそうな人々の笑い声や酔った勢いで怒鳴る声が、奈緒の骨にまで響いてくるようだった。
「ここがメイン広場、まぁご飯やとか飲み屋、バーとかいろいろだな。活気あるだろう?」
「すごい...... 都会だ......」
年齢、人種、種族。異なるものたちの、深い交流の様が垣間見える。
「そしてこの門を潜ると、主に君たち、戦士候補生が暮らす居住区。武器、防具屋、魔道具屋、魔術訓練所や、武具訓練所、闘技場など、戦士がより高みを目指せる環境が整っている」
こっちの雰囲気は少し張り詰めていて、皆顔が険しく見えた。
「それで、ここが君が住む訓練生寮だ。さ、降りてみようか」
「あはい!」
元気よく飛び降りた奈緒は寮を見上げる。
「おぉー。立派なところだ......」
「じゃあ一旦私は仕事に戻るから、あとの事は中にいるモリーに聞いてくれ」
「わかりました! あの、私なんかをわざわざ送ってもらって本当にすいません」
「いや構わんよ。無駄足にならなくて良かったってね。冗談さ」
ギルバートは羽織をパタパタを叩いて汚れをとる。
「私はサカ殿に其方を託された。其方は人にそうさせる、何か不思議な魅力があるのだろうな」
優しく微笑んでギルバートは言う。
「いえいえ! そんな事ないですよ!」
「ともかく、ちょくちょく其方のことは気にかけたいが、何せ私は忙しくてな。そしてここからは、其方から見て私は上司だ」
「はい。承知しています!」
「期待している。怪我には十分気をつけろよ」
ギルバートはまた馬車に乗って奥へ去っていった。
「ありがとうございました!」
手を添えて、深く礼をした。
「ふぅ。こんなところまできちゃったな......」
ギルバートが去って、やっと地に足をつけた気分だった。
訓練生寮の入り口は、両端に置き型の松明が燃えている。その熱はまるで、その過酷さが表現されているようだった。
――まだなんだか気持ちの整理もつかないや。
慌ただしく出てきて、また世界がガラッと変わってしまった。
でも今は、とにかく言われた通り中に入ってみよう。ここで頑張っていくんだ私は。
入り口の階段を登って扉を開けると、赤いカーペットが目立つエントランスが広がっていた。
そこには筋肉質で露出度の高い男女が、悠々と歩いている。
黒い肌に、短髪に刈り上げたタトゥーだらけの男や、へそや鼻に大量のピアス穴を開けている女が、肩を組んだり、酒を飲み交わしていた。
奈緒は一気に胸が締め付けられるような感覚に陥った。
そして興奮気味だった心は一瞬にして踊るのをやめる。
熱は急激に冷めていく。
おーーーーーーいまじかーーーーーー。
なんか濃ゆいって。体育会系過ぎるってー。
胸と陰部だけを鎧で隠したような屈強な男女が、腕を組んで挨拶をして、テーブルでは腕相撲をして盛り上がっている。
なにこれまじ無理なんだけどぅーー。
私が知ってる男女の壁というものはもう存在しないの?
おでこに手を当てて、フラつきを感じる。
無理だーーー。絶対無理。
あぁー終わったーーーー! 転勤失敗したーー。
「あら、新入りさん?」
可愛らしい声が背後から聞こえた。
「え? あはい。奈緒といいます。今日からお世話になるものです......」
声の主はポニーテールの可愛らしい女性だった。
「あ! 貴方がナオちゃんね、ギルバートさんから聞いてるよ。こっちで受付しようか!」
「はい......」
言われるがまま、受付の長いテーブルへ移動した。
「ようこそ。私はモリー。訓練生寮、焔壮の受け付けをしているの。ここでは成績によって部屋とかクラスが変わるから、毎日このボードで自分のランクを確認してね。
それで貴方のランクは......
嘘。何かの間違いかしら」
目を丸くしてモリーは言う。
「どうしたんですか?」
「兵士のランクは、鉄、銅、銀、金、白金の五つ」
「じゃあもしかして私......プラチナ......とか?」
「いいえ。貴方は黒金。ブラックゴールドと言われる、いわば別枠」
「......それはなんでしょうか?」
「一人で戦況を覆してしまうような力を持つランク。未知数。もしくは、不明。つまり正攻法では測れない力を持つ人が、これにあたる」
後ろの壁から鍵を取り出して、モリーは続ける。
「数100年に一度くらいの希少な存在なの。でも全然大したことがない時もある。なにか強い力はあるけどコントロールできない人とか、能力が不明ってだけで選ばれる人もいるの。でもそう言う人はすぐ消えていく。だから吉と出るか凶と出るか、開けるまでわからない異質な卵みたいなものね」
案内されるがまま、木造のエレベーターで6階の最上階まで行った。
「ここがブラックゴールドランクの部屋」
部屋の前に着くと、モリーは人呼吸ついた。
「今年は、凄いことになりそうね......」
「え?」
扉を開けると談話室の黒いソファーに堂々と座る褐色肌に白髪の長い女性がいた。
「彼女の名はリタ・ナイトロック。
今年入寮する、もう一人の......ブラックゴールド」
彼女その赤い眼光は、骨の髄まで寒気がするほど鋭く尖っていた。
――怖っ!
「んじゃ明日は二人ともよろしくね〜。リタちゃんいろいろ教えてあげてね〜」
「へ!?」
――ちょ、ちょっと待って! モリーさあああああん!
扉は無慈悲に、ゆっくりと閉まった。




