第48話 ケジメ
ゴミ拾いは夕方までかかった。
オアディールの路地裏は思いの外ゴミだらけで、屋台で使用した串やカップ。紙包み、その他沢山のゴミが散乱していた。
クエストオーナーの話では、毎日のように飲み歩く近所の学生が、当たり前のように捨てていくらしい。
それが風に吹かれ、雨に濡れて、路地裏に溜まっていくのだとか。
日本の飲み屋街と何ら変わらない、人間の街だ。
「はぁー、やっと少なくなってきたー。まじやってらんねー」
ステラは嫌々ながらも仕事はしていた。
「思ったより大変だったね。でもあともう少しだ!」
「道が綺麗になっていくのは気分が良いですわね! 」
「まぁそうだな。気持ちの良い仕事だ」
「てかステラ。ファントム作って一気にやってよ」
「嫌よ! なんでこんなことにスキル使わなきゃならんのよ!」
「でもほら、リタを見てよ」
「クリエイト...... スーパーブルーム!」
リタは歯車式で箒が回転するトラクターのような機械を具現化すると、機械に乗って路地裏を周り始めた。
「すっごーい! 自動掃除機ですわ! これを量産して売り出せば...... おっほっほっほっほ!」
レイも機械の隣に乗って、目を星にした。
リタは腕を組んで、自慢げに鼻から息を出した。
「いいなー! 私も乗りたーい!」
奈緒も自動掃除機に飛び乗った。
「お前ら真面目にやれー!」
ステラは目尖らせて叫んだ。
「全く。もう知るかっつの。真面目にやろうと考えたウチが馬鹿だった......」
その時、背後から暗いオーラを感じ取った。
路地裏の入り口からステラだけに飛ばされた念。
姿は見えないが、確実に奴はいた。
[何をしている]
頭に直接流れてくる声。
それで確証した正体。
ステラは冷や汗を流した。
[早く戻って報告しろ]
ステラは口を閉ざしたまま、何も言わない。
[お前、馬鹿みたいなこと考えてるんだな]
ハッとして、ステラは心拍数を上げた。
[分かってるだろ。そんな事してどうなるか]
楽しそうにはしゃいでいる3人の背中が見えた。
ステラは視線を落とす。
[忠告はしたぞ]
そう言い残すと、気配とオーラは消えた。
「よーし終わったーー! 報告してギルドに戻ろう!」
笑って戻ってきた3人が、とても輝かしく見えた。
「行きましょうステラさん」
そう肩を叩いて通り過ぎていく。
「レイ、結局アンタも一緒に暮らすなら家賃とか払ってもらうからね?」
「分かっておりますわ。任せてください! 何もしなくても、何故かワタクシにはお金が集まってきますので!」
「アンタ、もう人生困る事ないな」
3人からはみ出している、明るくて暖かいオーラ。
自分の色が混ざりえるイメージは、全く沸かなかった。
「どうした? ステラ」
「え? あ、うん」
どんな顔をしていいか分からず、咄嗟に作り笑いを見せた。
きっと。
というか、やっぱり違うんだ。
ウチが住む世界とこの人達の世界は。
家に戻った4人は、ソファーに持たれて一息ついた。
「えっと、結局今日の報酬合計は......48000マニーと野菜......」
「そして、ワタクシが売ったサイクロプスの部位が5万でしたので......」
「うお。全部で98000マニー? 稼げた方じゃん?」
テーブルに現金を並べて数えていった。
「え、てかサイクロプスそんな売れんの? 」
「もはや、魔物退治して売りまくった方が稼げるんじゃないか......」
「これを30日続ければ、めっちゃ金持ちじゃね?」
「でも明日同じクエストがあるかは分からないでございましょ?」
「そっか。じゃあ今日は運が良かったんだね。よしよし、上々のスタートだ!」
「グ〜〜」
ステラの腹の音が鳴った。
「あ。久々鳴ったわ」
「お腹減ったね、ご飯にしよっか!」
4人は厨房に立ってエプロンをつけた。
「よーし。なんかよく分かんない野菜ばっかりだけど、とりあえず茹でたら食べれるかな?」
「こんな時の為に、アタシがこんな物を買って置いたぞ」
リタは調理本を持ってきた。
「リタ......アンタ本格的に花嫁修行に......」
「リタさんにも、縁談が......」
「そ、そんなわけないだろ! いいから早く作るぞ!」
慣れない食材でも奈緒の指示で調理を器用にこなしていった。
リタは切る担当になった。
レイは食材を洗って、ステラは皿やその他の準備をした。
鍋で煮込んで、味付けで調整。
「おおー。なかなかいい味付けになったんじゃない? ステラほら食べてみて?」
熱々のスープをすくったお玉が、ステラの口元に近づいた。
嗅いだことのない、食欲を唆る匂いだった。
口をつけ、人すすり。
「あっつ!」
飛び跳ねたステラ。
「はは。ふぅふぅしなよ!」
奈緒は二度息を吹きかけ、もう一度ステラの口へ運ぶ。
恐る恐る、すすってみた。
舌に染み込んでいく旨み。鼻を抜ける独特な風味が食欲をそそる。
身体中を巡っていくスープは、心にまで入り込んでいくようだった。
「美味しい......」
ふと、無意識に溢れでた。
「お。アンタから初めてその言葉聞いた」
「余程美味しかったのですね! ナオさんお料理上手ですのね!」
「ふっふっふ。そうでしょう? もっと言っていいよ」
そうして完成した晩御飯。
採れたて野菜のスープと、食材を活かした塩茹で。
「頂きまーす!」
パクパクと口に放り込んでいった。
「新鮮で甘いですわ! これは家に帰ったらメニューに加えてもらいましょう! 」
「茹でただけなのにこの美味さか。凄いな」
ステラの手は珍しく止まっていた。
「どうしたのステラ。全然食べないじゃん! 風邪引いた?」
奈緒はステラの額に手を当てた。
ステラは頬を赤め、奈緒の顔を見つめた。
「熱はないね。どうした? さっきは美味しいって言ってくれてたのに」
「い、いや、何もない...... 何もないよ!」
ステラはスープをかき込んで、塩茹でした野菜も両手に持ってかぶりついた。
「お、なんだ。平気だったか」
奈緒はステラを優しく見守った。
「よーし。明日も働くぞー! みんな明日こそ早起きするからね! 」
そうして食事を終えると、一人一人お風呂に入った。
奈緒は順番が最後になったが、夜十時を過ぎても風呂に入れていなかった。
怒り心頭した奈緒は足音を激しく立てて風呂場へ向かった。
「レイ! アンタ一人で何時間入ってんのよ! いい加減上がってよ!」
「えぇー? まだ3時間しか入ってませんわー。もう少しゆっくり〜......」
「私の寝る時間が少なくなるじゃない!」
「ナオさんせっかちですわね〜。そんなに怒ってるとシワができますわよ?」
「誰のせいでmsldkfjslskっfkっlfl!」
リビングでくつろいでいたリタとステラにも、罵声はよく聞こえた。
「......ステラ。止めてこい」
「なんでウチなのよ、リタ行ってよ!」
「アタシは......怒ったナオと話したくない......」
「なんで?」
「怖いから......」
リタは顔を背けて言った。
「......はは。リタでも怖いものあるんだ! 意外!」
「あるさ。アタシにも」
「そっか」
ステラの笑顔は自然で、初めてみる柔らかなものだった。
しばらく何かを考えて、立ち上がったステラの表情は明るく、何か吹っ切れたようだった。
リタは不思議そうに見つめた。
「よーし。ウチが止めてあげよう」
脱衣所に行くとステラは奈緒に抱きついて言った。
「まぁまぁ、落ち着いてよナオ! レイも早く上がりなって〜......」
そうして、結局皆んなが寝静まったのは深夜を回っていた。
ステラは天井の梁から音を立てずにリビングに降り立った。
ムギコは何も気づかないまま、餌を食べていた。
横を通り過ぎて、ステラは玄関を出る。
「行くのか?」
声にびっくりして振り向くと、リタが玄関先に立っていた。
「......うん」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫っしょ。たぶん。分かんないけど」
少し笑って答えた。
「手は、貸さなくていいのか?」
「きっと、みんな頼んだら助けてくれるんだろうね。でもこれはウチの問題だし。これ以上迷惑かけたくない」
「迷惑なんか、生きてりゃ誰にでもかけるもんだろう」
「そうかもね......」
ステラは暗い空を見上げた。
「ほんの少しだけどさ。仕事を抜け出して、人と生活して、はじめて楽しいって気持ちを味わった気がする。でも、これ以上ここにいたら、なんだか今までのウチの生き方、裏切っちゃうような気がして」
リタは何も言わずに聞いた。
「これからここにいるにしても、離れるにしても、いろいろ気持ちが落ち着かないんだ。だから、」
ステラは歩き出して背中越しに言った。
「ウチの物語に、ちゃんとケジメつけてくるよ」
不安を交えた、ぎこちない笑顔だった。
リタは何も言わずに見送った。




