第47話 初仕事
朝日に瞼を燻られて、ゆっくり目を開けた。
ソファーから手足を投げ出して寝ていた奈緒は、ゾンビのように大きく口を開けて欠伸した。
「起きたか」
リタは脱衣所からタオルで髪をまとめて出てきた。
「おはよう。いつも早いね。また走ってきたの?」
「ああ。鍛錬は欠かさないさ」
「流石だね。今何時?」
「十時」
「嘘...... はやくギルド行かないと。準備しよ!」
顔を上下にこすって、寝室に行った。
部屋に入ると、ベッドを占領する女性を発見。
「ここで寝てたんだレイ。つか私のベッドなんだけど......」
スヤスヤと花風船を垂れて寝ていた。
「リター。ステラは見た?」
「あそこ」
リタは指差した梁の上から、服がはみ出ていた。
「あんなところで...... 寝方もアサシン......」
「おい人間......」
「ムギコ、おはよう」
辺りを見渡し、警戒しながら出てきたムギコの頭を撫でた奈緒。
「今日の飯はまだにゃ?」
「はいはい。じゃあこれ。残り物だけど」
残り物の鶏肉を差し出した。
「ぬぉお。美味いにゃ。夜も買ってくるのにゃぞ」
「はいはい」
二人は汚れた食器や空の殻の缶が散らばったリビングを見た。
「なんだか、一気に騒がしくなったな」
「本当ねー。心機一転、嫌がらずに色々やってみようの心意気ではいたんだけど、こんなに急にいろいろ飛び込んでくるとは......」
「それでステラもレイも受け入れたのか。アンタ、プライベートは、人と距離を保ちたい派だったろう」
「本当はね。でもまぁこれはこれで、新鮮でいいよ。アンタは大丈夫?」
「アタシはアンタが良ければどっちでもいい」
「そっか」
ムギコは、ご飯を食べ終えると、後ろ足で顎を掻いた。
「んじゃ、早くいこう。仕事受けるんだろ?」
「そうだった! レイー、ステラー起きてー! もう出るよ!」
それから慌ただしく起こして周り、4人は最低限の準備でギルドに向かった。
正午近くのギルドに、ブレイブは思ったより少なかった。
ボードに張り出された依頼書も同様だった。
「完全に乗り遅れたね......」
「少ね〜。どれどれ? 初心者向け魔物退治...... 物流の手伝い....... オアディールゴミ拾い....... 」
「まぁ! 素敵なお仕事ですわね!」
「どこが!? 見てみなよ報酬! 8000マニーって...... まじ日雇いじゃん!」
「最低ランクの仕事なんかやっぱりこんなもんなのかなぁ。あー早起きすれば良かったー」
「アタシが起こせばよかったな」
「こんなんで生きていけないじゃん! どうすんの!?」
「じゃあアンタ給料いくら位貰ってたのよ」
「一回5万マニー。とか」
「まぁ! お金持ちですわね!」
「いや安いんじゃないか......。暗殺でそれは......」
「とにかく! あるものを全力でやるしかないの! 魔物退治なんか私たちでやれば直ぐ終わるんだから、これともう一つゴミ拾いでもやる?」
「えぇー、嫌だーやりたくなーい!」
「なんでよ。物流よりいいかなって思ったんだけど。報酬も一万貰えるし......あ、ほら、参加人数分お支払いだって! 合計40000万貰えるよ!」
「アンタの仕事とほぼ変わんないじゃないか」
「大金持ちですわ!」
「金持ちが言うな! えー嫌だ〜ゴミ拾いなんて......」」
「アンタ我儘ね! 居候してるんだから家賃分は働いて貰うからね」
「ぬぇ〜...... まぁそうなるか......」
依頼書を受付に持って行き、受注。
クエストオーナーと会うことから仕事は始まる。
魔車に乗って三十分。
穏やかな村の小さな家で落ち合った。
「あらら。よく来てくれましたね。ブレイブの皆様。今日はよろしくお願いします」
優しそうなお婆さんが4人にお茶を配った。
「わざわざありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
「この村じゃ毎日のように魔物が田畑を荒らしに来ててね。ずっとギルドにはお願いしてるんだけど、払える報酬も少ないからか、なかなか来てもらえなくて...... 本当ありがとうね」
「いえいえ! 任せて下さい!」
「でも大丈夫かい? 見た感じ私の孫くらいの若いおなごばかりだけど......」
「おばさま。そこは心配無用でございます。ワタクシ達はその辺の男よりは圧倒的に強いですわ」
「うーん。そうかね......」
「何か心配なのか?」
「いや......実は前にきてくれたブレイブの方々が、魔物に殺されたことがあってね。あまり詳しくないけれど、Aランク? というのかい? 強い魔物も出るって言われたことがあって...... それもあって、誰も来てくれなくなったんだよ」
「仕事の割に合わない報酬ってことっしょ? そりゃ初心者も危なくて受けないし、セカンドスターでも安くて受けないって訳だ」
「きっとそう言うことだろうね...... 危ないから、せっかく来てくれたけど、やっぱり帰った方がいいかもしれないよ......」
シワシワの手を摩ってお婆さんは言った。
「何をおっしゃいますか! レイが言った通り、私達ほんと強いので、任せてください」
胸に手を当てて奈緒は言った。
「そうかい? じゃあ......任せたよ。気をつけておくれ」
会話を終えると4人は、外に出て魔物が出るという村外れの棚田に行った。
地面は抉れ、壊れた柵や、クワなどの農具は散乱していた。
「長らく人が入っていないな。懸命な判断だ」
「軍とか来ないのかな? 村の人困っちゃうよね」
「この国にライブラみたいな軍はないんよ。その代わり、ブレイブが動くんだ。クエストとしてね」
「じゃあ今回みたいに、ずっと対処されない問題もあるってこと?」
「金にならなきゃ、誰も動かんっしょ」
「そんなもんなのかな......」
レイは大きな窪みを見つけると、しゃがみ込んだ。
「この足跡...... 結構大きな魔物ですね」
「どんな奴かわかる?」
「二足歩行で、かなりの巨体。肉付きが良くて、さほど硬い皮膚ではなさそうですわ」
レイが見上げると、そこには一つ目のサイクロプスが棍棒を肩に担いでいた。
「そうそう。こんな感じのイメージですわ」
4人は沈黙してサイクロプスを見つめた。
サイクロプスも、何かよくわからないまま、鼻を穿った。
「貴方なんだか、アホみたいな顔してますのね」
「グオオオオオオオオオオ!」
雄叫びをあげて、棍棒を振り下ろした。
一斉に後ろに飛んで回避した4人。
棍棒が叩きつけられた衝撃で土埃は舞い上がった。
その時、奈緒は違和感に気付いた。
「あれ、なんか身体が軽い? 気のせいかな?」
「いや、実はアタシも思ってたんだ。朝走った時から違った」
「なんだろうね。すっごい調子良い感じ!」
サイクロプスは会話を遮るように、棍棒を振り回して追いかけてきた。
叫び声は森の木々を震動させる。
「うるさい奴〜ウチがやっていい?」
「ああ、好きしな」
ステラはファントムを数十体召喚し、サイクロプスを囲んだ。
棍棒を振り回して次々とファントムを消し去るが、本物には当たらなかった。
その隙にステラはサイクロプスの頭上まで駆け上がると、大きな一つ目を逆手持ちの小刀で突き刺した。
怯んだサイクロプスの首に、3本のナイフを突き刺して、降りてきた。
「さ、帰ろ〜」
サイクロプスの首に刺さった3本のナイフは激しい爆発を起こした。
そのまま力尽きて、膝から崩れ落ちた。
「あっ。まだゴミ拾いもあるじゃん......」
そう言って肩を落としたステラの真横に、サイクロプスの生首が落ちてきた。
「おお。やるじゃないかステラ」
「流石アサシン〜」
「普通だっつの。アンタらがおかしいだけっしょ」
「他に魔物はいないかな?」
「いるな」
森の影から狼やゴブリンがこちらを見ていたが、畑には入ってこなかった。
「恐らく親玉を倒したから、怖がって入れないのですね」
「よーし。報告にいこっか」
「あ、待ってください!」
「どうしたの?」
「あの......サイクロプス...... 解体してもいいですか?」
目を星にしてレイは言った。
「...... いいわよ」
独り言を言いながら解体するレイを横目に、3人は頭を抱えた。
「まぁ! もう退治したのかい? 早かったわね〜」
棚田にお婆さんを呼んで、現場を見てもらった。
「はい。楽勝でした!」
「他にも小さいのがいるが、しばらくは入って来ないだろう。早めに防御壁を作るといい」
リタは森を指さして言った。
「そうだね。村の男達に頼んで作って貰うよ。ほんとうにありがとうね」
お婆さんは安堵の表情で言った。
「どういたしまして。お役に立てて何よりです」
朗らかに言った奈緒。
「じゃあウチらは帰るね〜。バイバーイ」
「ああ、待ちな! これを持っておいき!」
お婆さんは箱一杯の野菜を持ってきた。
とうもろこしのようなものや、茄子のようなもの。どれも名前は分からないが、張りのある水々しい肌が艶めいている。
「こんなものしか、あげられないけど......」
「まぁ、美味しそうですね!」
「新鮮だな」
「嬉しい! 貰って良いんですか!? 」
「ああ。貰ってくれるかい? ほんと助かったからね。もしまた何かあったら頼めるかい?」
「勿論です! じゃあギルドに頼む時は、ナオを指名して下さいね」
「分かった。これからも頼むよ。ナオちゃん」
「はい! こちらこそよろしくお願いします」
奈緒は満面の笑みで答えた。
4人は村を後にして、魔車に乗った。
「ほんと美味しそうだね〜。今日の晩御飯ゲット〜」
「そんなに嬉しいもんかね、野菜が......」
「野菜は高価ですよ? 食費が浮きますし、このサイクロプスの内蔵と爪を売ればまた...... おっほっほっほっほ!」
「家出しても金持ちの思想だな......」
「何よりこんな風に人の役に立って、気持ちとして何かを貰うのが嬉しいんだよ。意味があったってちゃんと思える」
奈緒は大事そうに野菜が入った箱を抱えた。
リタは外の景色を見ながら微笑んだ。
「何はともあれ、ブレイブ初のお仕事、完了ですわね!」
「よーし! 次はお掃除! どんどん行くぞー!」
簡単にやり遂げた初仕事。
多くはない報酬のはず。
しかし奈緒の心は満たされていた。
ブレイブ......
――天職かも!
オアディールに降り立った奈緒。
身体は飛ぶように軽かった。




