第43話 争奪戦
ロックビーストは狂気的に吠え、奈緒とリタに突っ込んでいく。
全速力。自慢の角で空気を割くほど鋭利な先端を、奈緒は最小の動きで避けると、そのままロックビーストの鼻先を片手で押さえた。
奈緒はそのまま後ろへ押されるがまま下がったが、徐々に勢いを殺して静止させた。
その巨体へ向け、リタはサーベルを一閃した。
ロックビーストの全身に幾筋もの斬撃が入ると、血飛沫を出し白目を剥いて倒れた。
「す、凄いですわお二人とも! とんでもない強さですね!」
「二人が掛かりならこの程度余裕だね」
「ああ。これで試験も楽々通過だな」
ロックビーストの巨大な死骸をじっと見つめた。
「それで...... どこを持って行ったらいいんだ?」
「適当に切ってよ」
「それでいいのか? じゃあ......」
「ちょっと! 雑に扱ってはいけませんわ」
レイは焦ってリタのサーベルを取り上げた。
「ロックビーストの一角はA級でもプレミアがつく代物です。傷つけないように取らないともったいないです」
レイはサーベルを使って、丁寧に解体を始めた。
「こうして頭蓋骨にそって、この溝から一気に折ると......ほら」
レイは美しい一角を取り上げると、リタと奈緒に見せた。
「おおー。凄い。職人みたいじゃない」
「最近は質の悪いものばかりが出回ってますからね。こうして自分で剥ぎ取れるように練習しましたの」
「大事に扱ってるんだね。かっこいい」
奈緒は純粋に尊敬した。
「あとこの頭蓋骨の中にも、魔物が魔法を使うために必要な魔結晶が埋まっています。生物の中で生成された魔結晶は純度が高く、高値で取引されます。よいしょっと! ほら。他にも爪や臓器も、秘薬の材料に使えます!」
早業で華麗に解体すると、次々にアイテムを奈緒とリタに渡していった。
「ちょ、ちょっと! もう持てないよ!」
「見てくださいほら! 綺麗で御座いましょ?」
青紫の魔結晶を、レイは嬉しそうに光にかざした。
怪しく輝く宝石は、女心をくすぐった。
「うん。綺麗だね」
リタと奈緒は微笑ましく結晶を見た。
「さぁ、これで貴方達は十分に合格できますし、このタイムと品質なら、高ランクのブレイブなれる可能性があります」
「そっか。ありがとう。貴方はどうするの?」
「ワタクシはもう少し奥に行きますわ。もっと良いものを探したいので」
「一人で大丈夫?」
「うーん、確かに心配ですけど、なんとかなるでしょう。おっほほおっほ」
そう高らかに笑った。
「じゃあさ、何か持って行ってよ。合格できる保険にして欲しい」
「まぁ、優しいのですね。では爪と臓器を幾つか貰いますわ。ワタクシの剥ぎ取り技術なら、Aランクもらえるでしょう」
「よかった。ほんとありがとう。気をつけ......」
そう言いかけた時、奈緒の手から魔結晶が消えた。
「ふーん。確かに綺麗じゃない」
黒いフードを被った女が、奈緒の魔結晶を手に取っていった。
「誰よアンタ! 返しなさいよ!」
女はフードをとると、見たことある黒髪が靡いた。
「ステラ......」
「なんのマネだ。というか、お前もブレイブになりにきたのか?」
「なわけないじゃん。今回の仕事だよ。虚偽入会のね」
「......また、邪魔しにきたのね。奢ってあげたのに」
「本当、ご馳走様って感じ」
ステラはニヤリと笑った。
「ステラ。冗談で済ませるなら今のうちだぞ」
「あら? ウチは最初から本気だけど?」
「そう―― なら、」
奈緒はトップスピードで駆け出し、一瞬でステラの手を掴んだ。
「もう黙ってないわよ」
「早っ!」
そういったステラの姿が蜃気楼のようにグニャリと揺れた。
掴んだはずの腕の感触が無くなる。
「ま、幻影だけど」
ステラは奥の壁にもたれて立っていた。
見渡すと、すでに広場には何人ものステラの幻影が歩き回っていた。
「めんどくさこいつ」
奈緒は苛立ちを隠せない。
「アンタ達とまともに戦っても疲れるだけだし、これぐらいやんないとね。私のファントム。どれが本物か分かんないでしょ」
不気味な笑い声が至る所から聞こえる。
リタは妖しい赤眼を光らせた。
そして高速でステラの背後に移動する。
「丸見えなんだよバカが」
ステラ本人の後ろから腕を回して首を絞めた。
「なんで分かるのよ......!」
「アタシの目はあらゆるものの本質を見抜く」
「チートが!」
奈緒はゆっくりと近づき、手を伸ばす。
「さぁ、返しなさい」
「これで勝ったつもり?」
幻影達は奈緒に向かって一斉に飛びかかると、持っていたダガーで無数の斬撃を与えた。
「この数は流石に無理っしょ! バーカ! 」
数十人のステラに囲まれいた奈緒は、ポツリといった。
「いい加減怒るよ?」
手を振り上げ、大きく手を振り下ろすと、広場に尋常でない風が吹き荒れる。
「いやあああああなんですのーーー?」
レイは帽子を深く被りしゃがみ込んだ。
その風は巨大な竜巻となり、周囲の瓦礫や石を巻き込んで、幻影を一瞬で消し去っていった。
「かぁ......! 化け物だ......」
ステラはリタのヘッドロックで息苦しそうにいった。
リタは腕のロックを解くと、ステラは地面に倒れ咳き込んだ。
「さ、早く返しなさい」
「......嫌だ」
四つ這いで咽せながら言った。
「誰か知らないですが、人のものは盗ってはいけませんわ」
小さな声で言ったレイ。
「アンタらのルールなんか知らないっての」
「私たちのルールじゃない。世間のルールよ」
「だから、それを知らないっていってんの!」
ステラは広場に響く大声をあげた。
「ウチらのルールじゃ......」
ステラは、黒い瞳を大きくして睨みつける。
「盗られた方が、悪いっての」
その瞬間、ステラが小さなボールを地面に叩きつけると、広範囲に濃い煙幕が広がった。
それは奈緒とリタ、レイの目を刺激し、激しい痛みと涙を溢れ出させた。
「痛っ! なにこれ」
「効果付きの煙幕だ! クソ」
暫くして煙が薄くなり、わずかに開けた目からは、通路をひた走るステラの姿が見えた。
奈緒の怒りは、限界を超えた。
「あのクソガキ......もう許さない」
「はぁ、はぁ。やっぱまともに戦えないわ。でも流石に撒いたかな」
来た道を戻り、いくつもの曲がり角を曲がったステラは一息ついた。
「さて、さっさともっていくか......」
言い切らない程のタイミングで、真横の壁が激しく崩壊した。
瓦礫の中から白目を剥いた奈緒が、ドス黒い魔力を纏って現れた。
「鬼ごっこは、もう終わり?」
久しく忘れていた恐怖が、ステラの全身を縛り付けた。




