第42話 入会試験
自宅から徒歩20分。
オアディール都市部の最南端に位置する、広大な土地に、そのギルドは悠然と佇む。
白銀の屋根が光を反射し、禍々しくも神々しいそのシルエットは、ネオン街と一風変わって、本来の中世の厳しさと残酷さを物語る。
その巨大な要塞へ、様々な鎧を着たブレイブ達が、入り口へ続く道を往来していた。
「うおー! デカ! 眩し!」
「流石世界一だな。迫力が違う」
「ワクワクだね!」
開いたままの門から、二人は意気揚々と中へ入った。
開放感あふれるエントランスには、多くのブレイブが行き交っている。
ギルドの勲章が壁に大きく掲げられ、あらゆる魔物の首が飾られていた。
受付には人が並び、クエストボードの前では掻き分けて人が流れ込んだ。
活気に満ちたギルド内は、忙しなく蠢いていく。
「みんな、“俺が俺が”だね」
「仕事の取り合いだな」
「よし。まずは就職? 手続きみたいなのしないといけないでしょ?」
「そうだな」
二人は受付に並んで順番を待った。
「ようこそ、デラルクスへ。ご用件はなんですか?」
受付のお姉さんが愛想良く言った。
「えっと、ギルドに入りたいんですけど、どうしたらいいですか?」
「入会希望ですね。説明の準備を致しますので、こちらの書類を書いてお待ちください」
ペンと紙一枚を渡された。
「名前と生年月日......職業履歴。スキル.....」
「ネイバーって正直に書いた方がいいのかな?」
「やめた方がいいんじゃないか? 特別扱いされてもな。一から冒険者やりたいんだろ?」
「そうそう。最初から重い仕事がきてもね。じゃあスキルは、私なんて書いたらいいかな?」
「んー。ボーナスでいいんじゃないか?」
「でも伝わるかな?」
「アタシのクリエイトだって、なんのことか分からんだろう?」
「確かに」
「書き終えましたか? では、要点を説明致しますね」
受付嬢はパンフレットを持ってきた。
「まず入会するには、ギルドの試験に合格しなければなりません。合格すると、その評価に応じて1から5の星でランク付けされます。
試験は毎月行われていて、今月は今日これから行われますが、受けられますか?」
「凄いタイミング! 是非受けます!」
「では指定する会場に向かってください。10時開始となりますので遅れないように。尚、試験ではダンジョンに入り、魔物など強敵も出現します。戦闘になった際の怪我や病気、万が一死亡されたとしても、当ギルドは一切の責任を持ちませんので、ご了承下さい」
「......は、はい」
お姉さんの笑顔が、冷徹に見えた。
「流石大手ギルド。弱い奴はいらないって感じ」
「じゃ、いこうか。あまり時間もないし」
ギルドを出て最寄りの魔車に乗り30分。
降りるとギルド試験会場の看板が矢印で示され、その通りに進んでいくと、開けた原っぱについた。
会場には大勢の入会希望者が野外フェスのように屯していた。
「えー。入会希望の皆さん、こちらに集まってご清聴くださいーい」
試験監の周りにゾロゾロと向かった。
「それでは試験の概要説明をしまーす。
これから皆さんには、このワープゲートを潜って、あらかじめ見つけている巨大ダンジョンに入って頂きます。そこで制限時間内にAランク以上の魔物の首、もしくはアイテムを収集して戻ってくること。これが合格条件です。
制限時間は1時間。他受験者と協力するのも可能ですが、一人一つ、Aランク以上のものを持っていなければ合格となりませんのでご注意ください」
「Aランクか......流石に厳しいな.....」
「相当戦力がないと魔物はまず倒せっこない。アイテム一本狙いで、なんとかやるしかないな......」
周囲の受験者が不安そうに話し合う。
「Aランクって言えば、どんな魔物だっけ?」
「ゴブリンエンペラー。ゴーレムあたりだな。前戦っただろう?」
「あーいたね。じゃあ私達は魔物狙いで良さそうだね」
「ああ」
「尚、説明はあったと思いますが、ダンジョン内でのいかなるトラブル、怪我、死亡も一切の責任は持ちません。極稀ですが、Aランク以上の魔物の目撃情報も確認されています。出会ってしまった場合、まず生き残れません。自分の命は守れる自信がある人のみ、受験することを推奨します」
「嘘だろ...... 命が幾つあっても足りないじゃないか......」
「やっぱりやめとこうかな。他のギルドでからでも......」
「お、俺はここでのし上がるって決めたんだ!」
葛藤が溢れ出す受験者達。
「それでは開始いたします。準備ができた方からお入り下さい。タイマー、スタート!」
試験監の隣に大きなゲートが開いた。
受験者達は一斉に走り出した。
腰が引けて動けない者も、少なくなかった。
「ワクワクするー! どんなところなんだろ! 私たちもいこ!」
「ああ!」
奈緒とリタも流れに乗ってゲートを潜った。
景色はガラリと変わり、空気感、匂いも独特な世界に入り込んだ。
そこは、洞窟にしてはまっすぐな通路だった。
泥や岩ではない、無機質な空間。
水色の壁が光っているからか、照明はないのにしっかりと奥まで見渡せる長い迷路のようだった。
「ここがダンジョン。なんか不思議な壁だね」
「石でもないが、水晶でもない。なんの物質なんだろうな」
流れに乗ってそのまま道を進むと、箱のような開けた空間にでた。
そこにはいくつもの分かれ道が繋がっており、皆どこに入るか迷って立ち止まった。
「クソ! 時間が惜しい! どこに行ったらいいんだ!」
「とりあえずどこでもいい! しらみつぶしに行くしかないだろ!」
「だが迷ったらどうする戻れなかったら終わりだぞ! 魔物と出くわす可能性も!」
「だったらずっとここにいやがれ! 俺はさっさと鉱石でも見つけて合格するぜ!」
焦燥に駆られた受験者は、それぞれ決めた道に入って行った。
それに釣られて動く人も、動かない人も半々だった。
「どうしようか」
「んー」
「ワタクシならここを行きますわ」
高そうな装備と立派な杖を持った女性が、自信満々に右奥の通路を選んで入ろうとしていた。
「あの、なんでここに決めたんですか?」
奈緒は不思議に思い聞いた。
「お金の匂いがするからです。おっほっほっほ」
高笑いし、そのまま歩いて行った。
「なんなんだろうな、あの自信は」
「なんか分かんないけど、あの人面白そうだからついて行ってみようよ」
「なんじゃそら」
二人はその女性についていった。
後ろにいた受験者の数十名も群れのように一緒についてきた。
しばらく進むと、奥の方から何かが走ってくるのが見えた。
「あら。魔物ですわ」
「なに!? 逃げるか? Aランクか!?」
「俺は下がるぞ!」
動揺して慌てる受験者を他所に、先頭にいたリタと奈緒は落ち着いていた。
「ありゃウルフとかゴブリンだな」
「放っといていいね」
高そうな装備の女性の前に立った二人。
ヨダレを垂らして襲いかかってきたが、奈緒とリタは軽くいなして後ろへ投げた。
「貴方たち! さぁやるのです!」
女は杖を向けて受験者に指示を出した。
「お前は戦わねぇのかよ!」
「ワタクシはこの服を汚したくないのです」
「やる気あんのか!」
「だがこの程度は俺たちでもいけるぜ!」
魔物の小さな群れの撃退に成功すると、一向はまた歩き出した。
少し先でまた開けた場所に出ると、大きな柱が一本立っており、その中心に光り輝く鉱石が埋まっていた。
「これは高光石ですわ。早々にAランクですわね」
「っしゃラッキー! おれのもんだ!」
「どけ!俺のだ!」
リタと奈緒や女を押し除け、後ろの受験者が高光石に飛びついた。
ガリガリと持っている武器で減り剥がしていく。
「クソ! よこせ俺のものだ!」
受験者は揉み合い、殴り合いが始まった。
「あらあら、貧しきこと」
女は遠くから眺めているだけで、取りに行く様子はない。
「貴方はいらないんですか? せっかく見つけたのに」
奈緒は不思議そうに聞く。
「あんな小石いらないですわ」
「でもブレイブになりにきたんだろう?」
「でも、いらないものはいらないですわ」
「なんか変わってますね......」
「貴方達はいかないのですか?」
「まだ始まったばかりだしね。受験者同士の争うのも面倒だし」
「ほっほっほ。その冷静さは好きですよ」
女は魔法使いのような帽子を取ると、ブロンドの長い髪を揺らした。
「レイ・カーバンクルと申します。よろしくお願いします」
丁寧にゆっくりと頭を下げる姿は、妙に様になっており、育ちや家系の裕福さが垣間見えた。
「私はナオと言います」
「リタだ。よろしくな」
その時、爆発音と共に奥の壁を激しく壊して、巨大な魔物が入り込んできた。
「あれは...... ロックビーストだ!」
「Aランクだ! 逃げろ!」
「罠だったか! 簡単すぎると思ったぜ!」
猶予なくロックビーストは鉱石を取り合っていた受験者に突進していった。
そして筋骨隆々の獣は、額から伸びる捻じ曲がった一角で、受験者を貫いた。
辺りには血が雨のように降り注ぐ。
「クソ...... こんなやつにどうやって勝てばいいんだ!」
「無理ゲーだろ! 逃げるしかない」
「逃げ切れる訳ねえだろうが!」
慌てふためき、握った剣を振るわせる受験者達。
奈緒とリタはじっとその獣を見つめ、怪しくにやけた。
「チャンス、きたり」
ゆっくりと背伸びして、二人は獣の前に立った。




