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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒
Season 2 勇者編

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第41話     アサシン






熱気あるバールの一席。




周囲のざわめきとは隔離された、異様な雰囲気が漂っていた。





「アンタこそなんなのよ。この国で初めて入った店を殺人現場にして欲しくないんですけど」





奈緒はギロリと睨んだ。




「それは悪かったわね。でもこっちも仕事なんでね。さっきのは多めに見るけど、邪魔しないで欲しいわ」




黒髪の女も冷静に言った。




「出来れば、気持ちよく酒を飲みたいんだがな」




リタはグラスをクルクル回している。





「うーん」



腕を組んだまま、言った女。





「知ったこっちゃないっつーの」







女は言い終わらないタイミングで、机を膝で叩くと、テーブルの上の食器を浮かせた。





まさに一瞬の出来事だった。




女は残像を残す早業で浮いたスプーンを手で弾き、リタへ飛ばした。



同時に、もう一つ浮いているフォーク掴み、奈緒の顔面目掛けて突き刺す。




リタは目を瞑ったまま首を僅かに傾けると、後ろの壁にスプーンは刺さった。




奈緒も人差し指と中指で挟み、フォークを静止。



自身の顔の直ぐ近くで、ゆっくり、ぐにゃりと捻じ曲げて見せた。





「うーわ。只者じゃないねアンタら」





浮いていた食器や食べものは、再びテーブルに着地した。





「物騒な奴だな。店の中で暴れるな」




リタはエールをゆったりと一口飲んだ。





「もう疲れてるんだからご飯くらいゆっくり食べさせてよ」



ため息をついて言った奈緒。





「アンタらがウチの邪魔すっからじゃん!」




「いや、アンタが私の晩飯の邪魔してんじゃないの!」







周囲の人は何も気づかないまま、お酒を楽しんでいた。





少しの沈黙の後、女が口を開いた。







「......アンタら何者?」





「なんでもいいでしょ」





「どこからきた?」





「ニーア王国。ライブラから」




「ライブラ? あの半壊した都市から?」





「ああ、訳あってな」





「一応私達、兵士だったのよ。護衛軍」




「まじ? ライブラ護衛軍? ......もしかして、ネイバーじゃないわよね?」





「さぁ?」




女は驚くと、ガックリと萎れた。




「......嘘でしょ。ネイバーなんかこの国でも有名よ......情け容赦ない非道の化け物集団」





「へぇ、そんなふうに言われてるんだね」




奈緒は食事をつまんでエールを飲み直す。




「はぁ。まぁ、ウチの攻撃を止めた時点で只者じゃないってのは分かってたけど...... 」






頭をかきながら少し考えると、また口を開いた。





「すぐ終わるから、黙って見ててくんない?」





「むーり。私達美味しくご飯食べたいの」





「はああああああ。どうしたらいいのよ」




「逆にどうしたら止めてくれるんだ」




「んーーーーー」





女の子は、テーブルの刺身を指差した。






「じゃ......飯奢ってよ」



どこか寂しそうに言った。




リタと奈緒は目を合わせた。





「まぁ、それで済むならいいわ。エールでいい?」





「うん」





そうして、謎の暗殺者との相席がはじまった。




女はエールが届く前に、テーブルにある食事に手を伸ばした。



「ウチはステラ。ステラ・ホロウォーク。まぁ見ての通り暗殺家業やってんの。アンタらは?」



ガツガツと勢いよく食べながら言うステラ。



黒髪のボーイッシュな髪型で、身長は150弱。


黒っぽい軽装でフードがついている。




「私はナオ。こっちはリタ。まぁ色々あってネイバー辞めて、こっちに住むことになった」




「何しにきたの?」




「ギルドに入ろうと思って」




「なんで?」




「強くなれるかなと思って。あと楽しそうだし」




「自由だとも聞くな」




「なんかそういう人多いもんね。ブレイブに夢見てる人。あんなに安定しない仕事ないっしょ」




「お前がそれ言うか......」




「でも自分で仕事選んで出来るっていうのは、魅力じゃない?」



奈緒も新たに頼んだ焼き鳥を頬張った。




「魅力かー。ウチには分かんないなー」




届いたエールをガブガブと飲み干していく。





「アンタはなんで殺しなんかやってんの?」




「んー、なんでだろうね。成り行きというか」




「成り行きで悪いことやって、きつくないの?」




「慣れれば普通よ。仕事なんて、みんなそんなもんっしょ」





「そうかな.....」




「暗殺なんて面白くないな。やるなら正々堂々正面からやる方がいい」




「ほら、生まれながらの戦士はこう言ってますよ」




奈緒は笑顔でリタをつついた。





「仕事に楽しみとか面白さなんて求める方がおかしいのよ。金稼ぐんだから、楽しくなくて、嫌なことやって当然なのよ」





ステラは淡々と言った。






相槌を打ちながらむしゃむしゃと食べ続けるステラを、奈緒はじっと見つめた。




「あー! 食った食った!」




ステラは立ち上がって、お腹を叩く。




「まぁ、今日の報酬はこの飯で良いことにする。次は邪魔しないでよね」




「こっちのセリフだ」




「じゃあね」


そういって立ち去ろうとしたが、奈緒が引き止めた。




「何か言うことあるんじゃないの?」





「なに?」




「“ご馳走様でした” は?」





「いちいち自分で稼いだ報酬に、感謝なんかしないわよ」




そう言い残すと、ステラは店を出て行った。




「あっそ」




奈緒はエールをグイッと飲み干した。





「早速イベントだったな」





「あの子、あんな仕事してて平気なのかな......」





考え込む奈緒を横目に、リタは微笑んで切り出した。




「明日はギルドだ。早めに帰るか」




「うん、あ、魚買って帰らないとね!」





勘定を済ませて、店を出た二人。




都会のギラついた夜の街に消えた。







また別の、人気のない裏道を歩くステラ。


フードを深く被り、顔を見せない。







自由――か。






暗い夜道に倒れこんだ男性。




その隣で、星の少ない夜空を見上げたステラの手には、血が滴っていた。





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