第38話 新たな国
馬車でまる一日。
そこからさらに徒歩で1日。
山を越え、川を渡って。
また一日。また一日と、長い距離をひたすらに進んでいった二人。
交通手段がない異世界では、その距離は果てしなく思えた。
しかし、不思議と苦ではない。
むしろ毎日が楽しくて仕方なかった。
旅行と何ら変わりなく、目に映る全てが、美しく見える。
夜は宿でも野宿でテントでも、二人の笑顔は尽きない。
魔物は、度々現れたが、二人にとっては全く問題ではなかった。
強過ぎたから。
戦いながら晩飯の話をする程に。
自由を謳歌する
それが具体的に何かと聞かれれば、まさにこれ。
期限はない。
ルールもない。
でも目的はあって、自分のペースで歩む。
共に進む、親友がいる。
孤独はなく、縛りがなく、しかし目標と理由はあって、それに向かって進む道のりは、経験したことない程に充実していた。
兵士に硬く張り付いた鎧を脱ぎ捨てるには、十分な時間だった。
「予定では、明日到着だよね?」
焚き火で鍋を温めながら奈緒は言った。
「ああ。やっとだな」
食材を切って言ったリタ。
「遠かったー。でも楽しかったなぁ」
「そうだな。こんな生活があるんだな」
「いいでしょ? 無職」
お玉をひと回しした。
「最高かもな」
リタは具材をザッと投入。
「いっそこのまま旅を続ける? ぜーんぶ忘れて」
「いや、目的は決めただろう? それにマーラならもっと楽しいことがあるかもしれない」
「辛いことがあるかもよ?」
「それでも、目的があるから今が充実してるんだよ。強くなるって決めただろう?」
「まぁね〜」
沸騰するスープをまた具材ごとひと回し。
「大丈夫。なんかあっても、アタシがいる」
リタは食器を並べていく。
「うん。じゃあ、その時は任せたよ」
笑顔で言い返すと、器にスープをよそった。
満点の星空を、焚き火の火が小さく照らす。
二人だけの長い旅路に、終点を感じさせる。
そんな、夜だった。
翌朝から歩き続け正午頃、高い城壁と長い行列が見えた。
「見えてきたね! デカ!」
「ライブラよりデカいな」
聳え立つ石壁は、山のような雄大さを放っていた。
行列には大荷物やリアカーで物資を運ぶ人たちが順番を待つ。
そこから長らく待って、ついに順番が来ると、警備の兵が何やら棒状のものを二人にかざした。
「うむ。危険なものはないな。入って良い」
二人は黒い城門をくぐった。
その先は、みたこともないものが空を縦横無尽に走っていた。
「何......あれ」
「馬車が、空を飛んでるぞ......」
馬車のキャビンだけが、浮いて空を走っていた。
「......未来じゃん」
奈緒は目を大きくした。
「技術が進んでいるとは聞いていたが、これは......」
驚いている二人は声をかけられる。
「別嬪のお二人さん! どちらまで行かれますか?」
男は陽気に話しかけてきた。
「えっと〜ギルドに..... ていうかあれなんですか?」
奈緒は指さして聞いた。
「魔車かい? こっから王都までいくのに便利な車だよ。アンタらどっからきた?」
「ライブラからです」
「あの大戦災があったライブラから!? もしかして避難民かい? だったらあれには乗れないな。金がないと......」
「いえ! お金はあります! いくらですか?」
「王都まで1600マニー」
......もう電車じゃん。特急か。
奈緒は内心突っ込む。
「せっかくだし王都までいこう。どうせギルドまでいかなきゃならないんだ」
「そうだね」
二人は案内されるがまま、建物に入ると階段を上がって乗り場につく。
「ギルドに行くって、アンタらもしかしてブレイブ志望とか?」
「ええ、そうなんです」
リタは髪をかきあげて言う。
「あちゃ〜。まただよ.....。いるんだよね。夢見がちな世間知らず。あのギルドを目指すなんてアンタたち目がないよ〜」
ため息混ざりに言う男。
「どうしてですか?」
「どんだけ難しいと思ってんの? 挑むだけ無駄だよ。他の小さなギルドで、コツコツやった方がいいって。悪いこと言わねぇ、やめときな。怪我するぜ?」
「おお。それはそれは......」
......楽しみだなぁ
リタと奈緒はニヤリと笑った。
「さ、こっから乗っていきな。料金は前払いだよ」
「はい。ありがとうございます!」
「んじゃ気をつけてな」
魔車に乗ると、勝手にドアがしまり、ふわりと宙に浮いた。
「うお! 浮いてる浮いてる!」
「気持ち悪いな......」
興奮する奈緒に対してリタは顔を紫色にする。
ある程度浮くと、そのまま直進し始め、徐々に加速していった。
「怖! ジェットコースターみたい!」
「なんか気持ち悪いんだが......」
「ほら! 遠くを見るといいよ!」
窓から見える街を見下ろした。
街並みは石レンガ調の街ではあるが、所々に水晶が埋め込んである柱が並んでいる。
「あ、本当にちょっと楽だ......」
「乗り物酔いね。なんか懐かし」
外の景色は、街を抜けて草原に出ると、別の街に入ったり、また出たりと色味を変えていった。
そのまま、1時間程浮いたまま進み続け、また建物が見えた。
その建物は他より豪勢な飾りが施してある。
「終点。首都、オアディール。オアディール」
歩きづらそうにするリタをほっといて、奈緒は元気に乗り場に降りた。
乗り場には魔車が出ていく空洞があり、オアディールの全体が見渡せた。
「すっご。これが......魔法技術の国」
奈緒が連想したのは現代の、その先。
いくつもの魔車が飛び交い、中世の建物はビル程に高かい。
何故倒れないのか不思議なほど曲がっている建物もあった。
現代でいう電光掲示板のような巨大水晶には、映像が流れる。
地面は、コンクリートではなく、土や緑が垣間見えるが、あらゆる種族が、人ゴミをかき分けるように練り歩いていた。
中には浮いて移動する人も、急に燃え出して飛んでいく人も。
物は箱に入ったまま、自立して浮いて飛んでいる。
列をなして、血管のようにあらゆる場所に流れていくようだ。
「これが......異世界? 近未来じゃないの?」
......もしかしてネットとかある?
誰も想像しなかった。
ある意味それは、真実であるということに。




