第37話 リクルートプロローグ
「無職だああああああああああああああああああ!」
叫び声は晴天に吸い込まれた。
「っしゃあ! 仕事がない! ないんだ! つまり暇!」
両腕を高く上げ全てをさらけ出すかのように叫ぶ。
「今日も明日も明後日も! 仕事がないというこの人生の余白! 白紙! 開放感! 何も無い=全部できる万能感!」
リタは奈緒の狂気的な笑みをみて、顔を引き攣った。
大きく息を吸って、胸をふくまらせる。
「無職サイコーーーーーーーー! フォオーーーーーー!」
その声は鱗雲を反射してこだましていった。
笑顔で叫ぶ奈緒をみて、耳を抑えながらリタは微笑んだ。
「そんなに嬉しいんだな。退職が」
「勿論よ! だって人生はずーーーっと働かなきゃいけないのよ? 働かなくていい時間はその中でほんの少しなのよ。つまりすっごく、貴重なの」
奈緒は目を輝かせた。
「まぁ、言われてみればそうだな......」
「リタ、この世で一番素晴らしい職業って知ってる?」
「なんだ?」
「NEET――」
ウインクして答える奈緒。やけに発音が良かった。
「それ職業じゃねえだろ......」
そんなこんなで、地平線が広がる獣道を、二人は長らく歩いていった。
どんな道中でも、その開放感に満たされており、二人の顔つきはかつてないほど和らいでいた。
日が暮れる頃には小さな村についた。
宿は一つだけあり、2階の屋根裏部屋に狭いベッドが二つ置いてある程度だったが、野宿に比べれば断然よかった。
「一晩1万マニーか。高いのかよく分からんな」
「本当ね。金持ち過ぎて感覚がおかしくなりそう......手元にあるのが怖いわ......」
「盗まれないようにしないとな」
奈緒はバッグから本を取り出した。
「今日も書くんだな」
「ええ。記憶が無くなる可能性があるって知って尚更、書かなきゃなって。大事な思い出だから」
今となっては奈緒の宝物となった日記を、ぼんやりと見つめる。
「......ありがとね。リタ」
「ん?」
「上手く言葉にできないけど、色々、私を支えてくれて」
「なんだ改めて」
「ちゃんと言ってなかったから」
リタは少し黙った後、
「別に......言わなくていい」
そう言って照れくさそうに、ベッドで寝返りをうった。
奈緒はそれをみて微笑むと、ペンを走らせた。
暫くし、書き終えた日記をパタリと閉じる。
奈緒は寝転んでいるリタの背中を見ると、目を尖らせて悪戯な顔をした。
奈緒はリタのベッドに思い切りダイブした。
「ね! 明日何時に起きようか! 何時でもいいんだよ!? 明後日も! 起きなくてもいいんだよ!?」
「あーうるさい! 乗るな! あっち行け!」
宿屋の主人は、2階からガタガタ聞こえる騒音に、首を傾げていた。
翌日、村の商店街で地図を買った二人。
街を歩きながら地図を広げた。
「広いのね〜この大陸」
「ニーア王国はこの大陸の中でも一番大きいと言って良いな」
「じゃあ次に大きいのは...... みた感じここ?」
「そう。マーラ王国。魔法技術が凄く発展してるらしいぞ」
「ほえー」
「そして、世界最強の勇者ギルドがある場所だな」
「ブレイブギルド?」
「前話しただろう? 勇者が仕事を貰う場所だよ」
「あーなんか言ってたような。儲かるのかなブレイブって」
「んー内容によってはな。デカい仕事なら一回のクエストで100万とか貰うらしい」
「100万!? 一回で? そんなことある!?」
「ブレイブにはランクがあって、トップランクのブレイブは国家レベルの問題で招集されたりするらしいからな」
「凄いんだね、ブレイブって!」
「まぁな。嫌なことはやらなくて良いし、報酬と内容を吟味して、自分で選んで稼げるんだから」
「ちょっと楽しそう......」
リタは奈緒の顔を覗いて言った。
「やってみたいのか?」
足を止める二人。
「え? やれるの? なんか資格みたいなの要らないの?」
「試験はあるだろうが、いけんじゃないか? 待てよ? ひょっとしたらいい線いくかもな......」
リタは顎に手を当てて考える。
「どうせ、強くならなきゃいけないんだ。ブレイブなら、いい刺激になるかもしれないし、魔王に繋がる情報も得られるかもな」
お互い顔を見合わせて、目をまんまるにする。
「......じゃあ、いく?」
「いく?」
二人はキラキラとした笑顔を見せ合うと、大きく手を振って歩き出した。
期待と夢を背負って、前に前に進んでいく。
好奇心に疼く、心に従って。
賞与ゼロの万年事務員、異世界で転職。
次の就職先は......勇者
新たな冒険の風が、二人の間を抜けて舞い上がった。




