↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒
ネイバー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/51

第34話  変わらないもの







サカの家に場所を移した一向。




リタはことの一切を全てサカに話した。




奈緒の能力のこと。



アンセルの死のことを。



ペナルティのこと。






サカは動揺を隠せずに驚いた。



「そんな......俺の事だけ、忘れちまったっていうのか......?」



「おそらく」




家の中の景観を、不思議そうに眺める奈緒。




「なんだか、覚えているようで覚えていないですね......。すいません...... 貴方のこともサカさんだと分かりませんでした......」




「あ。ああ」


奈緒のよそよそしい話し方や敬語に、サカの心は深く抉られるようだった。



「でも、日記には書いているので、きっと貴方のことを私は、慕っていたんでしょうね」



淡々と話す奈緒。




「その本のこと......覚えていないか?」



「え? どういうことですか?」



「実はそれ、妻のものでね。骨董品で高かったけど、中身が白紙で使い道がないって置いて行ったんだ。なんかの役に立てばと思って、あの日、君にあげたんだ」



「そうだったんですね......」



「その本と手紙やるとき、俺たちすごい喧嘩中でな、追い出されたっつって拗ねてたよなぁ。俺は胸が苦しくて仕方なかったんだよ」






「どうして、苦しかったんですか?」






目を座らせて、優しく言った。



「......行って欲しくなかったからだよ。本当は」






少し微笑んで、寂しさを隠すようにサカは言った。






「独り身のおじさんのところに、突然現れて、気前よく働いてくれて。娘が帰ってきたみたいで。こんな出来が良い子、どこにもやらずによ、」







サカは涙を堪えた。







「ずっと。ずっと、一緒に働きたかった」







「そんなの無理ですよ〜いつかは私も帰り......」




奈緒の頬には、大粒の涙が流れていた。




「あれ、どうしたんだろう。どうしてこんな...... 悲しみと寂しさが、溢れてきて......」




涙が溢れて止まらなかった。



「ああ。悲しい。すごく悲しい。なんで? なんだかおかしい.....」



「ナオ......」


奈緒の肩を摩るリタ。




「サカさん、貴方に言いたいこと、いっぱいあったような気がするんです。貴方に、言わなきゃいけないことが...... でも何も思い出せない...... 言わなきゃって思えない......」




奈緒のなんとも言えない表情をみて、サカは頭を抱えて涙を隠す。




「俺が送り出していなければ......こんな目に合うこともなかったんだよな......」





リタはその二人を見て思った。






これだ




これが、ペナルティ







同時に、怒りが湧いた。








         失って、たまるか








「違いますよ。二人とも」



リタははっきりと言った。




「奈緒は、人に言われたから行動するような人間じゃありません。アタシと戦った時、ナオはこう言いました」



「『自分の価値は、人や結果じゃなく、自分が決めるものだ』と。

 ナオは自分で“価値がある”と思ったから、ここを出て、自分の意思で戦って。自分の意思で怪我をしたんです。

そして今日も、自分の意思でここに来た」







サカは深く深く頷いた。



何度も頷いて、上を向いた。











リタは奈緒にも続けた。


「ナオも、サカさんの思い、ちゃんと受け取って、旅立った。それがお前の戦う“意味”だったはずだ」



「わからない......」



俯いたまま泣いて話した奈緒。





「だが、何かを証明するために、戦うことを決めたんだろう」







「うん......」





ポタポタと涙を落とす。






「リタ......記憶がないって、こんなに苦しいものなんだね......」





リタは何も言わずに聞いた。







「それなら、何度だって作っていこう」






サカは奈緒に近づいて肩に手を置いた。





「どーせ消えちまうんなら、これから何度でも塗り直していこう。それによ、」





サカは棚に飾った家族の写真を見た。





「思い出や記憶ってのは、いつか曖昧になるもんだ。傷も、時間が経てば、やがて癒えていく」





人呼吸おいて続けた。



「でも絶対に消えないものもある」




泣いて赤くなった頬の奈緒を顔をしっかりと見つめた。





「心だ。



 心は全部抱えて、いつもそこにある



 その証拠に、今お前は、それでもお前でいられる」







「でも私、おかしくなってないかな? サカさんに失礼なこと言ったり、私らしくないこととか、私じゃないみたいなこと......」




不安と恐怖が、また奈緒をパニックを起こしていく。




サカは奈緒の肩を強く揺さぶった。








「何にも! 変わってねぇ! 変わらねぇ!」








力強い言葉が、奈緒の思考を飛ばした。








「あの時、俺に『いってきます』って言った可愛らしい女の子と、何一つ、変わってねぇ。




 俺の、大事な娘であることは、何も変わらねぇ




               誰にも変えさせねぇよ」







リタもゆっくりと涙を流した。










「記憶の一つ二つ、消えようがな。変わらねぇよ。

君の行動を決めているのは、経験とか、記憶とか思い出だけじゃない。


それじゃ括れないもっと大きなものだ



もらった温もりも、優しさも、厳しさも、怒りも、喜びも、



全部がお前の中で。記憶じゃねぇぞ。心の中だ。


ずっとお前を支え続ける。糧になる



どんなに思い出が消えようが、お前の心はその感情を忘れない」







奈緒は平静を取り戻し、サカの目を食い入るように見ていた。





温かい何かが、胸の内から湧き上がってくる。




姿も、形もないはずのもの。



でもそれは確かにそこにあって、



胸の内で私を包み込んだ。








サカは奈緒をギュッと抱きしめた。





「辛かったな。辛かったな。


 ちゃんとある..... 俺からも、リタちゃんからも、そして、アンセル君からも。君がもらったものは、お前の中にある。ちゃんと、持っているだろう?」





湧き上がってこぼれ落ちる雫。




その雫は、あの日の噴水広場を映し出す。




夕暮れに咲いた、アンセルの笑顔。






「うん、ある。絶対」


——絶対、忘れない。




「だったら消えてねぇ。お前がその分、生きて。生きて生きて、」




サカの顔が、アンセルとかぶって見える。







「幸せに、なってやるんだ」









「うん、うん」




サカに強く抱きつき返した奈緒。




頭を撫でて、優しく微笑んだサカ。






「まぁ、アンセル君の運が良かったことがあるとすりゃ.......俺に殴られなくて済んだことだな」




悪戯な顔で優しく言った。




奈緒は少し笑うと、





「殴ってくれても良いから......会ってほしかったな」






そう言ってそのまま、しばらくサカに抱きついていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。